第24話 動き出す歯車

数日後、ラウザ村の近くにあるとある町の酒場。


そこにラウザ村を後にしたドフレがいた。


かれはふと数日前の件を思い出しながら葡萄酒ヴァーラ・アレべをあおっていたが、そこに……


「こんなところにいたのか」


誰かが反対の席につく。


「お主か」


男はいささか赤らんだ顔を向け、席についた相手が見知った顔であることを確認すると再び葡萄酒ヴァーラ・アレべをあおる。


「こんなところで何をしている」


ドフレを咎めるかのような相手の口調。しかしドフレは意に介さない。


「人間界の酒も良いのう」


「やれやれ」


とぼけるドフレに相手は呆れ顔になる。


酒場は盛況らしく、様々な者たちが酒を煽り食事を喰らい、生を謳歌している。


とても十数年前まで、弾圧と激しい戦があったとは思えない平和な光景。


「人間界もすっかり平和だのう。良いことだ」


「どうかな」


朗らかなドフレに相手は冷や水を浴びせる。


「ここ数年、不穏な動きが各国にある。特にファルテスに支配されていた隣国のソーレチェアーノは失墜した権威を取り戻したいだろう」


「ふむ」


赤らんだ顔のままドフレは眼差しを鋭くする。


「後、あれの争奪戦も起きるだろう」


「むぅ」


その指摘にドフレは葡萄酒ヴァーラ・アレべが残る杯を卓に置き、腕組みをする。


盃の中の葡萄酒ヴァーラ・アレべ、その水面に起きていた波紋が消え、葡萄色の水鏡となってドフレの顔を映す。


「ファルテスと戦うために与えたとはいえ、あれは人の世に余るもの、いずれなんとかしなければならないだろう」


「ふむ……そうなるとあの子達が心配だのう」


そのドフレの言葉に相手は首を傾げるが、ドフレは構わず言葉を続ける。


「この間立ち寄った、なんだったかな……そう、ラウザ村だったな。冒険者になりたいとか言うておった子たちがおってな。

まあ、ささやかな贈り物をしたからな、大丈夫だろうて」


「贈り物?」


聞き返す相手にドフレは髭もじゃの口元をにやりと不敵に曲げて答える。


「なに、大したものじゃない。とはいえ、正しく使えば降りかかる災いから身を守れる程度の力はあるがな」


その後の会話は酒場の喧騒に呑まれ、かき消えていく。


それは実りと戦の季節が近いある日の出来事。

若者達は無限なる未来を信じ、世界を知るもの達はその行く先に思いを馳せる。


しかし、その先に待つものを知る者は神々の中にもいない。

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虹色の英雄伝承歌 (ファーレ・リテルコ・ポアナ) 紅刃の章 外伝1 ~ラウザ村の小さな戦士達~ 新景正虎 @shinkagemasatora

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