本作は、異世界転移・転生ものですが、いわゆる「よくある作風」ではありません。
というのも、異世界転移・転生がシステム化されているのです。
システムXという謎の存在が異世界転移・転生に関わっているのですが、それと対話するために人類が開発したオプトシステムによって自由に転移・転生が可能になっているのです。
自由、といいましたが、実際は合理的かつリアルスティックかつ機械的です。
異性界転生は、異なる世界への人材流出の問題であるため、審査をへて合格した人しか転生できないのです。特に政治や経済に影響力を持っている人は。
異世界転移はいわゆる旅行感覚で、二泊三日など短期間の旅行を異世界で楽しめるため、転生よりは審査は通りやすい。
この辺りが、他の異世界作品と違う点でしょうか。
(異世界を発見しようという試みが、AIの技術的特異点を早めたという発想が面白いです)
舞台は、日本の霞ヶ関にある「転生・転移管理事務所」。
オプトシステム運用前に異世界転生させられてしまったカタリナというハーフエルフが新入社員として出勤してくるところから、物語ははじまります。
上司であるクロスはどうにも秘密主義で、中々自分のことを話しません。どうやら結婚していて単身赴任中とのことです。
しかし、これはあくまで異世界ものです。
しっかり本作独特の地球と異世界の関係・仕組みが導入されています。
強制的に異世界転生させられてしまったカタリナの孤独は、元の世界に戻っても誰も自分のことを知らないことに起因しています(人との繋がりを求めている)。
クロスもある目的のために「転生・転移管理事務所」に入り、一章では天道院蓮という転生希望者を通して、彼の抱えている問題に言及が成されています。
そして、二章からクロスの旅が回想されます。
彼が元々どのような人物で、旅先で出会った人々に助けられ、そこから彼の心が成長していく様が見て取れます。
本作を通じて重要なキーワードとなるのは、「行動する勇気さえあれば、世界は変えられる」という言葉です。
これこそ、本作のテーマであり、物語の原動力となっています。
システムXによる強制的な転生・転移が引き起こした問題、オプトシステムによる人為的な転移。
これらがうまく絡み合い、異世界で起こった出来事と地球の出来事がうまく交差し、クロスの感情やカタリナの孤独が「勇気ある行動」を通して変わっていきます。
異なる世界の人々の想いが交差し、残酷な運命に立ち向かう。
これは、そんな物語だと感じました。
異世界転生・転移が現代科学で解明され、管理されるという世界観。
転生者のハーフエルフなど、管理事務所で働く人々のお話。
丁寧ながら読みやすい文章で、現代と異世界転生・転移をうまく融合させています。
単に転生が「転生できたぜ、ラッキー!」な世界観ではないですし、しっかりとした設定の裏付けがありますので、ありがちな転生モノではない作品としてマジオススメ。
序盤は新人ハーフエルフ中心で話が進むので、読者の疑問に答えながら、新しい謎がテンポよく提示されていきます。そして、物語に新しい登場人物が加わる頃には……?
現在から過去、未来へと綺麗に繋がっていくことを期待させてくれる──連載中のレビューのため、このような表現になります──謎の提示がうまい良作です。