第5話 自由を求める少女

しかし、それがアクレイの好奇心のきっかけとなったのは間違いなく、長老が彼を気に入って色々教え始めたきっかけでもあった。


そんなことをしていると下の河原から頭巾を被ったルアンナが登ってくる。


「また本を読んでいるのね?今度は何?」


「遥か北の島にある国、ノル・レインテについての本。王様になれるものにしか抜けない宝剣とそれを抜いて王になった人物に仕えた円卓の騎士達の言い伝え」


「ふぅん」


さして興味もなさそうに相槌を打つとルアンナは坂道を登り切り、アクレイの隣に腰を下ろす。


「ねえ、アクレイの両親は旅に出る事に反対しないの?」


「うん、なんか難しいことも言われたけど。外を見るのもいいんじゃないかって」


「いいなあ、あたしの親はどっちも反対してるのに。弟妹たちの面倒を見ないといけないし、危ないからって」


そう言うとルアンナは頭に巻いていた頭巾の結び目をほどく。開放された髪が風でなびく。


「仕方ないよ」


ルアンナの家は夏は果物、冬は小麦を育てる、この地方では典型的な農家。


丘から河原を見下ろすと、洗濯を終え、服を乾かしている間、談笑している女性たちが見える。その中には子どもたちの姿も。


谷を走る風をはらんで洗濯物が翻る。


畑の手伝いに掃除洗濯、食事の支度、村には若い労働力は必要であるが、ルアンナがそんな変わりのない生活に退屈さを感じるのも仕方のない事であろう。


「ルアンナー洗濯物、畳むわよー」


「……はーい」


下の河原から聞こえた声に不満げに答えると、再び頭巾を頭に巻き、腰を上げるルアンナ。


「また後でね」


「うん」


ルアンナが河原に降りていくのを見送るとアクレイも本を閉じ、立ち上がると腰に着けていた前掛けの塵を払って焼き窯に向かう。


昼食を終え、洗濯物の取り込みも終えたルアンナと焼き窯の手伝いが終わったアクレイは長老のもとに向かっていたが、途中、村の中央広場にある兵士たちの詰め所に立ち寄っていた。


彼らは村の治安を守るとともに麓の砦に農作物を輸送する際の護衛や、万一砦が襲われた際に駆けつけるのが主な仕事である。


詰め所裏の広場にある練兵場、そこでは勇ましい掛け声とともに藁人形相手に槍を突き出す鍛錬をする兵士たちと、彼らに激を飛ばす隊長とおぼしき兵士がいた。

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