第15話 勝利

だが、辺りには動くものはいない。


悪戯子鬼ケルツの名残である黒い霧がいくつか立ち昇っているだけである。


「やった…のか」


「みたいね」


互いの顔を見合う二人。


疲労の中にも笑みが溢れる。とそこに、


「二人ともすごいな。いくら相手が悪戯子鬼ケルツでも、初めてでここまで戦えるなんて」


見守っていた兵士二人が駆け寄ってきて二人をねぎらう。


「長老様に……鍛えられたからよ」


「でも…疲れた。これ以上は無理だ」


「……そうね」


疲労困憊でへたり込む二人にその兵士は笑みを浮かべながらうなずく。


「よくやった、俺は隊長に報告してくるから二人は休んでいなさい」


「……はい」


「まだケルツがいるかもしれないから、二人のことは頼んだぞ」


そう言って相方にアクレイ達をまかせ、その兵士の姿が森の奥に消えていく。


そしてしばらくの間、二人は西日が差し込みだした森の中で体を休めていた。


「何考えているの?」


アクレイが手にした武器を眺めているとルアンナが声をかけてくる。


「長老様の言葉を思い出していたんだ」


たしかに自分たちは悪戯子鬼ケルツを退治した。


やはり、今回の成果は自分たちの力ではなく、身につけている鉄の武具の力、そして戦女神フェテシュの加護のおかげにすぎない。


「そうね」


アクレイに言われ、ルアンナも手にしていた槍に目をやってうなずく。


ケルツを突いたときに感じた感触の違い。


長老が麦わらを束ねて作ってくれた的とは明らかに違う、やわな手応え。


鎧ごと悪戯子鬼ケルツを切り裂いたあの感触、

あれは自分の鍛錬の成果などではない。


たった数匹のケルツを相手にするだけで疲れきってしまった自分たちの未熟さと悪戯子鬼ケルツの脆さ。


二人は達成感とともに自分たちの未熟さもまた自覚していた。


「でも、わたしたち……やったわよね」


ルアンナの言葉にはっとしてアクレイはうなずく。


そう、どんな力を借りようとも自分たちが悪戯子鬼ケルツと戦って倒したのは事実、


それは間違いない。

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