第3話 焼き窯の管理者

日が沈みつつある村の一角にある一軒の家、

その中でアクレイは両親と卓を囲み、蝋燭の明かりの中、ささやかではあるが夕餉ゆうげの時を迎える。


まず、今日一日平穏に過ごせたことへの感謝と生きるための糧を得られたことへの祈りを神に捧げた後、彼らは夕飯を取る。


小麦を練って発酵させ、焼いた小麦練餅ポネ


玉葱や人参、豆類を煮込んだ粥。


保存が利くように塩漬けにした川魚。


それらにかける食用油。


簡素な食事を終えると彼らは就寝までのひととき、その一日に起きたことを語り合って過ごす。


「アクレイ、また長老様の所に行っていたの?」


「うん」


アクレイの母親が彼に尋ねる。


「あなた、そんなに村の外に行きたいの?」


「……色々なものを見てみたいんだ」


アクレイの言葉に、不安げな表情を浮かべる母親、それを見ていた父親が真剣な眼差しでアクレイに告げる。


「アクレイ、我が家はカシュクス教の教会の許しを得て、代々この村で神からの授かりものである小麦練餅ポネを焼く窯を管理してきた。

しかし、カシュクス教の中に巣食っていたファルテス神に支配された者たち、ファルテス教団との戦いで教会の影響が減じた今、これからは分からない」


部屋を薄暗く照らす蝋燭の明かりが外からの風を受けて揺らぐ。


「はい」


緊張の面持ちでうなずくアクレイ。


「お前の兄たちは窯を継ぐため、修行として村を出たが、お前には別のことを頼みたい。

アクレイ、お前はこれからこの世界がどうなっていくのかをよく見てきてくれ」


父の言葉にアクレイは戸惑いの表情を浮かべる。


「分かったけど、何をすればいいの?」


その問いかけに父親は表情を和らげる。


「難しく考えなくていい。色んなものを見てきてくれと言うことだ」


「うん、分かった」


明快な答えにアクレイはうなずく。


そうして彼らは家族の団らんを楽しみ、その後は椅子と卓を片付け、部屋の片隅にしまってあった寝台を引き出すと、眠りにつく。

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