第12話 続 遠い国の返事 第三部 下 月日の流れ

二年の月日が流れました。

 

『みなさんお元気ですか?エハカも私もそして娘のスラットも元気です。スラットは一歳になってよちよち歩きを始めました。スラットはたいへん聞き分けの良い子で、ぐずることもほとんどありません。それでエハカが旅行もできるなと言い、7月25日から1週間、とうとうモロッコに行くことになりました。私は大変興奮しています。

 モロッコではマラケシュ・メディナホテルに泊まります。ニャーモさん、是非メールボトル19と一緒にモロッコに来てください。お会いできるのをとてもとても楽しみにしています。サムハ』

サムハさんの手紙を読んでメールボトル19は驚喜しました。


「ニャーモさん、飛行機とホテルの予約をして。7月25日だったらもう夏の休暇よね。みんなで行こうよ。サムハさんにも赤ちゃんのスラットにも会えるし。それにしてもサムハさんたら、SURATなんてお名前つけちゃって。インドネシア語の『手紙』でしょ、私たちと同じ!ふふふ。サムハさんとエハカさんの『お手紙ちゃん』にも会えるのね!

 ああ、初めてのモロッコ、初めてのアフリカ!なんてすてき!」

キリエさんはニャーモさんにせがみました。

「そうよ・・・ニャーモさん、オランダまでまたKLMで飛んでそこで一泊しましょう。着いた日に遊覧船に乗りましょうよ。PHR07さんとその家族に会えるわ。船の上から交信したら、会えなくてもお話ができる!翌日にモロッコに飛びましょう。」

手紙さんもニャーモさんにせがみました。

「はいはい、行こうね。ちゃんと飛行機やホテルの予約するわね。今年の夏の休暇の一大イベントはこれで決まりね。」

あと一ヶ月あまり・・・待ち遠しい日々になりました。


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 夏の終わり頃ニャーモさんは黙ってでかけて行きました。しばらくすると大きな音を立てて玄関の前でモーターサイクルをふかしています。メールボトル19は、あれおかしいな?ニャーモさんはピレンちゃんででかけた風ではなかったのに・・・帰ってきてピレンちゃんにエンジンをかけたのかな?と思いました。

「買っちゃった!買っちゃった!見て見て見て!!」

とニャーモさんは大声で言いながら家の中に入り、メールボトル19を持って外に飛び出しました。そこには二台のモーターサイクルが並んでいました。

「えっ!!??これ・・・ピレンちゃんにそっくりだけど・・・えっ?買っちゃった?え?もしかして・・・・・スヴァルトピレン??」

「そうよ!!スヴァルトピレン買っちゃったの!ニャーモの贅沢。

 あなたたちだって、姉妹でいつも一緒にいるでしょ。ピレンちゃんだけじゃ寂しいだろうと思って、弟君、スヴァルトピレン、買っちゃったの。ほらこうして並べるとすごく良いでしょ。」

ニャーモさんは笑いがとまらないという風にぐふふふっと笑っています。


メールボトル19は少し呆れましたが、ニャーモさんはとっても頑張って仕事をしているし、他の事には全く贅沢はしませんし、これはいい買い物だと納得しました。

「ピレンちゃんと同じお名前ではややこしいし・・・弟君はスヴァルト君でいいよね。」 「ああ、いいわね。ピレンとスヴァルト・・・・白夜の矢とオーロラの夜の矢よ。」

「でも・・・二台一緒に運転はできないでしょ。どうするの?」

「一台はあなたたちが運転して。」

と無理な事を言ってニャーモさんはまたケラケラ笑いました。

「冗談冗談、私が交代で運転するの。そして冬になったら倉庫の中で並んで冬眠よ。

 北欧はね、フィンランドはね、爽やかな白い夏があって、暗い夜のオーロラの冬があるわ。私は以前は冬が嫌いだった。でもね薄暗い冬も、みんなで暖かい暖炉のそばにいたら満たされる。私たちの国の自然なのよね。今は冬も愛しているのよ。だから、私は夏も冬も持っていたかったの。」

今度は冗談ではなくニャーモさんはまじめに言いました。メールボトル19は、ニャーモさんが冬も心の中に受け入れたことを、しっかりと認識しました。そしてこの買い物は『必要』なものだったのだと思ったのです。


それからというもの日課のように一仕事終わると、ニャーモさんは今日はピレン、明日はスヴァルトと言う具合に、交代で短いツーリングに出かけるのです。もちろんメールボトル19もいつも一緒。

 以前にジョン・レノン空港のことからビートルズの話になって、CDを買ってビートルズの歌をみんなで覚えました。

 モーターサイクルを矢のように飛ばしながら、『In the town where I was born Lived a man who sailed to sea And he told us of his life In the land of submarines』と声を揃えて元気よく歌っているのです。(注:イエローサブマリン)

雪がやってくるまで・・・・ずっと毎日・・・・ピレンとスヴァルトとの楽しく賑やかなツーリングは続きました。


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宮子さんはすっかり生活に慣れ、何不自由なく暮らしていました。

『私の人生は実に恵まれていたわ。世の中には苦しかったり、悲しかったり、不安な思いで毎日過ごしている人達がいっぱいいるのに・・・私にできること・・何か世の中にお返しができること・・・・・・・人々がほんの少しの間でも夢を見て笑顔になれること・・・・・・それは何かしら?』

 宮子さんはいつもそのことを考えていました。


宮子さんは夫さんの机の前に座ってずっと海を眺めていました。

「綺麗な海・・・・・誰にでも公平な海・・・・・・・海・・・・・・海・・・・」

机の一番下の引き出しを開けると、そこにはまだ手つかずの原稿用紙が沢山入っていました。宮子さんはそれを机の上に置きました。

「読んでくれた人が笑顔になれるような・・・そんな物語を書きましょう。そう、それがいいわ・・・・・題名は・・・・・・・」

宮子さんはペンを取りました。


『遠い国の返事』


『私は分厚いプラスティックのボトルに入れられた「手紙」。そして私を書いた人が私を海に流しました。その人は私が波間を漂うのをじっと見送ってくれました。私の相棒はボトルさん。』



☆ 長々ありがとうございました。これで「遠い国の返事」は完結です。

  読んでくださった方々本当にありがとうございました。


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続 遠い国の返事 第三部(完結編)下 @Kyomini

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