第11話 続 遠い国の返事 第三部 下 2人からの手紙
みんながお家に帰ってから六日たって宮子さんから手紙が届きました。新しい住所からです。
二枚の写真が入っていました。一枚は新しい宮子さんのお部屋の中です。きちんと整頓されて過不足なく家具が揃えられていました。海の見える窓際に夫さんの愛用していた机と椅子が置かれていて、その上に小さく見えたのはトントゥでした。
もう一枚の写真は一階のホールのソファに、三人の女性と一緒に写っている宮子さんでした。四人はみな笑っていて手でハートマークを作っていました。宮子さんはニャーモさんがそっと置いておいたロングジャケットを羽織っていて良く似合っていました。
『新しい住まいにもすぐに慣れました。ニャーモさん、素敵なロングジャケットありがとうございました。クローゼットの中に見つけた時は胸がいっぱいになりました。
お話しするお友達もできました。みなさんが素敵なジャケットね。どこで買ったの?と聞くのですよ。
今まであの広い家で一人っきりでしたが、ここはいつでもお話できる人達が居て、移ってきて良かったと思っています。
私はとても幸せです。ここで私のできることをして、生活して行きたいと考えています。手紙さんやキリエさん、ボトルさんにもよろしく伝えてくださいね。
ニャーモさん、ありがとう、私は大丈夫ですから心配しないでくださいね。』
ニャーモさんはその手紙を声を出して読みました。
「宮子さんほんとうに元気そうで明るくて、安心したわ。」
と手紙さんが言いました。
「ほんとね、良かったね。それにジャケットすごくいいわ。」
とキリエさんが言いました。
ニャーモさんもとても安心しました。新しい住所にお返事書かなくちゃと思いました。
それから1週間して今度はサムハさんからの手紙が届きました。こちらも写真が入っていました。結婚式の時の写真です。一枚はインドネシアの民族衣装を着たサムハさん。もう一枚はウェディングドレスを着たサムハさん。
『滞りなく結婚式が終わりました。お約束の写真を送ります。
民族衣装の方はみな見慣れているので誰も驚いたりしませんでしたが、ウェディングドレスに着替えると、みんなが感嘆の声をあげました。
エハカはSangat cantik(サンガチャンティック)と言い続けていました。とても綺麗と言う意味です。あまり何度も言うので恥ずかしくなってしまいました。
ニャーモさんがメールボトル19を連れてきてくださって再び私に会わせてくれて、言葉にできないほど嬉しく感謝しています。
エハカと結婚し、みなさんともこうして交流ができ、私は本当に幸せです。
みなさんの幸福と健康をアラーの神様にお祈りしています。ありがとうございました。』
この手紙もニャーモさんは声を出して読みました。メールボトル19はサムハさんのドレス姿の写真を見て、わーわーと騒ぎました。
「きれいーーー!やっぱりお姫様みたいだね。ニャーモさん作ってあげて良かったね。エハカさんも喜んでるみたいだし。」
キリエさんは自分が褒められたかのように喜んでいました。
ソファに座って二人からの手紙と写真を交互に見ているニャーモさんに、手紙さんが聞きました。
「宮子さんもサムハさんも幸せ。ニャーモさんはどう?」
ニャーモさんはその質問に少しびっくりしました。そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったからです。
ニャーモさんは独り言のようにつぶやき始めました。
「冬はいつも暗くて寒くて、気持ちが沈んで・・・何もする気が起こらなかった。いっしょにいたのはずっとピレンちゃんだけ。でも冬はピレンちゃんも冬眠。ニャーモはいつも一人だった。
そんな私のところにあなたたちが来てくれた。良くしゃべる賑やかな手紙達。いつのまにか動きを覚えた不思議なボトル。
夏だけじゃない。冬も光が差しているかのように明るくなった。
もう、寂しい暗い冬ではなくなった・・・・・・・・ニャーモの目には冬でもオーロラの向こうに白夜が見えるようになった。
メールボトル19と言う名の家族ができた。
この毎日が幸せでは無いと誰が言えるの?
私は世界で一番幸せな、ニャーモさん、よ。」
メールボトル19は静かにその言葉を聞いていました・・・・・。
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