第10話 続 遠い国の返事 第三部 下 寒い!おうちだ!
翌朝、いよいよ最終コースです。手荷物検査場でメールボトル19は、今回の旅の最後の『ロボット』になりました。ボトルさんが旅の間に様々な動きを覚えたので、もう本物のロボットに見えます。検査場の係員さんがニャーモさんに向かって
「すごいですねえ・・・あなたは科学者なのですね。いやぁーー立派なロボットですね。」 と、褒めてくれたぐらいです。
搭乗口に着くとこれから乗る飛行機が停まっていました。
「KLMって書いてある。それに王冠のマークが付いてる。ニャーモさんこれはどこの飛行機なの?」
「オランダって王国なの。王様がいらっしゃる国。KLMと言うのはね、ニャーモ発音できないオランダ語だけど『王立航空会社』の頭文字だって。」
「王様が飛行機の会社を作っちゃったの?」
「ニャーモもよく知らないけどすごく古くからあって、世界で一番最初の航空会社だそうよ。」
そんな話をしているうちに搭乗案内のアナウンスが始まりました。
「目的地 HEL。いよいよフィンランドだね。」
メールボトル19は嬉しそうです。ニャーモさんもやっぱり嬉しい気持ちになりました。「早いわよ、二時間。すぐにフィンランドよ。」
飛行機の窓から地面を眺めていたメールボトル19は聞きました。
「あの羽がついて回っているものは何?たくさん見える。それからオランダって地面に色が付いている。赤、ピンク、白、黄色、紫、オレンジ・・・地面がしましまになっているわ。」
「回っているのは風車よ、オランダの名物。それから地面に色が付いているのじゃ無くて・・でも・・・・ここからだとそう見えるわねえ。あれらは全部お花。チューリップよ。オランダはチューリップの国でもあるの。一番いい季節になって、チューリップが満開ね。
そう、日本では桜が満開だったわね。春はどこの国も綺麗になるわねえ。」
オランダの景色もあっという間に通り過ぎ、今までの長い旅に比べたら、2時間などすぐでヘルシンキ空港に到着です。預けていた荷物を受け取って空港の外に出ると、空気が冷たくて思わず身震いしました。
「春だわ。間違いなく・・雪も全部溶けている。フィンランドも春だわ・・でも気温はまだたったの2度よ、早くタクシーに乗りましょう。」
もう4月だというのに震える寒さです。ああ、でもこれがフィンランドなのです。メールボトル19は帰ってきたことをとても嬉しく感じました。
タクシーに乗り込むと暖房が付いていてほっとしました。
ニャーモさんのお家の前でタクシーは止まりました。
「メールボトル19!!お家に帰ってきたわよ。お家、お家。やっぱり自分のお家は良いわね。でも・・・暖炉に火がついていないから外と同じ気温よ。」
ニャーモさんはブランケットでメールボトル19をぐるぐる巻きにして、机の上に置きました。そして自分はトナカイの毛皮のコートを羽織りました。
「今すぐ暖炉に火を入れるから少しまってね。」
石炭を入れて、その上に薪を置きます。薪の上に小枝をたくさん載せます。その上に火をつけた丸めた新聞紙をいっぱい載せて、ふーふーと息を吹きかけています。新聞紙の火はすぐにカラカラに乾いた小枝に移りました。小枝はパチパチと明るい音を立てて燃えています。その火は太い薪に燃え移り、それは一番下の石炭も真っ赤にしました。
「これでOKよ、すぐに部屋は暖かくなるわ。私今のうちに倉庫に行ってピレンに会ってくる。」
「私たちも行く。ピレンちゃんにただいまをいいたいもの。」
ニャーモさんはブランケットで巻いたままのメールボトル19を持って、倉庫に入りました。
ビットピレンの上には何かの毛皮がかぶせられていました。それを取り除くと、今度はキルティングの布がかぶせてありました。それも取ると今度はとても柔らかい布で、どこもかしこもしっかりと包まれていました。
ニャーモさんが丁寧にその布を取り外すと、長い冬の間じっと我慢していたピレンが姿を現しました。
ニャーモさんはピレンのあちこちをくまなく点検しました。どこも錆びたりしていないかどうかを調べているのです。ピレンはぴかぴかと光って綺麗なままでした。
「ピレン、長い冬は終わったわ。もう雪は無いわよ。明日からあなたのメンテナンスをするわね。ガソリンも買ってきてエンジンをかけなくちゃね。しっかりメンテナンスが終わったら、この春一番のツーリングに出かけるわ。」
するとキリエさんがいいました。
「ニャーモさんはね、日本でアスペンケードに乗って、今年の初乗りしたんだよ。」
「キリエちゃん、そんな意地悪っぽいこといわないの。ピレンちゃんが可愛そうだわ。
ピレンちゃん、それは宮子さんの好意だったの。旅の間の、お。ま。け。
だからピレンちゃんと走るのが、ニャーモさんのこの春最初のツーリングよ。」
ピレンは何も言いませんが、きっと春を待ち焦がれていたことでしょう。
再びピレンに布をかけ、毛皮もかけて、
「明日ね。ちゃんと快適に動くようにしてあげるからね。」
そう言って倉庫を出てお家の中に戻りました。暖炉の火は赤々とよく燃えていて、ニャーモさんも毛皮のコートを脱ぎました。
ニャーモさんはまだ旅の荷物もほどいていないのにンケラドに電話をかけました。しばらくするとンケラドの社員さんがやってきました。
「長いお休みいただいて・・これ旅先で描いてきた新しい図案よ。会社に持って行ってくださいね。」
いったいニャーモさんはいつの間に図案を描いていたのでしょうか?
「ああ、オリエンタルな柄。南国の柄。今までにないものですね。ここでは浮かんでこない柄でしょうね。明るくていいと思いますよ。早速会社に持って行きます。」
社員さんはそれに目を通すと満足そうに言いました。
「あのね、お願いがあるの、会社に戻る前に私を買い物に連れて行ってくれない?そして申し訳ないけどまたここまで送って欲しいの。」
社員さんは気軽くいいですよと言い、ニャーモさんはメールボトル19に、お留守番していてねと言い残して出て行きました。
1時間ほどでニャーモさんは、大きな紙袋とポリタンクを抱えて帰ってきました。
「さあ、これで食料調達完了。ンケラドの人が連れて行ってくれて助かったわ。じゃなかったらお隣さんに車を借りて、行かなくちゃならなかったもの。私の食べ物とピレンちゃんの食べ物よ。」
ニャーモさんはそれらをかたづけて、やっと暖炉の前のソファーに腰を下ろしました。なんでもさっさとやってしまわなければ、休むことのできない性格です。
「長い旅だったわね。とても楽しかったね。いろいろなハプニングもあったけど、それらも今思うととってもいい思い出になったわ。」
メールボトル19もそれぞれ旅の思い出を振り返っていました。
翌日は早速ピレンのメンテナンスです。買ってきたガソリンも入れてエンジンをかけます。ピレンは小気味良い音を立てています。ニャーモさんはピレンを倉庫から出して、家の前の道を少し走ってみました。
「快適!ピレンらしい走り。こうじゃなくっちゃね!」
「メールボトル19!明日はツーリングに行くわよ。まだ寒いから暖かくしていきましょうね。」
ニャーモさんのジャケットの中に入って、半年ぶりのピレンちゃんとのツーリング。ピレンにはアスペンケードのような風防はありません。だから冷たい風がどんどん押し寄せてきます。それでもピレンは風に向かって、その名の通り矢のように走って行くのです。
これからどんどん暖かくなって行くでしょう。そうしたら毎日のようにピレンちゃんと一緒に走るのです。ニャーモさんは頬を真っ赤にして嬉しそうに鼻歌を歌っていました。
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