続 遠い国の返事 第三部(完結編)下
KYO
第1話 続 遠い国の返事 第三部 下 お姫様
翌朝ホテルのスタッフさんたちにお詫びとお礼を言って、ニャーモさんたちは出発しました。デンパサールの空港からはほんの1時間程度でスラバヤの空港に到着します。
「目的地SUBって書いてあるわ。わーお、間違いなく、ス、ラ、バ、ヤ だわね。」
手紙さんもキリエさんもボトルさんも大喜びです。昨日はもうニャーモさんにもサムハさんにも会えなくなると、絶望的な気持ちだったのに、今はスラバヤに向けて飛び立とうとしているのです。
「空港コードはSUBだけどこの空港のお名前はジュアンダ空港よ。スラバヤってインドネシアの第二の都市だって。だから空港のあるところはジュアンダって場所だけど、全体がスラバヤなのね、きっと。」
ニャーモさんが言いました。
飛行機は本当にすぐに到着しました。空港ビルの外に出て建物を眺めると、きっとインドネシアの古来からの伝統の建物を模しているのでしょう。とんがった屋根の珍しい空港ビルでした。
タクシーに乗ってサムハさんの住所の処まで連れて行ってもらいました。タクシーを降りるとすぐに砂浜です。
「ここ!ここよ、毎朝サムハさんと散歩した砂浜。懐かしいねえ、ボトルさん。」
ボトルさんも元気に一回傾きました。
車が止まる音が聞こえたのでしょう。向こうに見える家から女の人がまっすぐに走ってきました。
サムハさんです!
「おおおお、ニャーモさん、メールボトル19さん。遠い処をよく来てくださいました。ニャーモさん、初めてお目にかかります。サムハです。」
サムハさんはそう言ってニャーモさんに抱きつきました。
「サムハさんやっと会えたわね。あなたは自分の写真を全く送ってくれなかったから、こんなに美しい娘さんだなんて!もうびっくりして声もでないぐらいよ。」
とニャーモさんは本当に驚いて言いました。
「写真を送らずごめんなさい。恥ずかしかったのです。」
そしてニャーモさんからボトルさんを受け取ると、言いました。
「ボトルさん、キリエちゃん、会えたわね、とっても幸せ。それから手紙さん初めまして。」
「サムハさん初めまして。私はキリエちゃんと同体だから、サムハさんとキリエちゃんが過ごした日々のことはみな記憶にあります。でもお顔は知らなかったので、ニャーモさんと同じようにびっくりしています。キリエちゃんがいつも『お姫様みたいだよ』と言っていた意味がやっと本当にわかりました。」
手紙さんもやっぱり驚いていたのです。
今、やっと分かったのです。キリエさんが何度も何度も
『違う。サムハさんは違う。そうじゃないの 。』
と言い続けていた意味が。
サムハさんは驚くほど美しかったのです。サムハさんの顔立ちはインドネシア人の顔立ちとは違いました。肌の色は暑い処に住んで居るから、日焼けて小麦色でしたが、 目鼻立ちの整った、それこそアラビアンナイトに出てくるお姫様のように綺麗でした。
キリエさんはスラバヤの町に連れて行ってもらったり、たくさんのインドネシアの人々の顔を見ていたので、サムハさんとの違いに気がついていたのです。
ニャーモさんは、サムハさんはハーフなのだなと思いました。(注;ハーフは違う国の人が結婚してできた子供の事です。今ではもう普通になっていますが、サムハさんが生まれた頃はまだまだ珍しかったことでしょう)
「サムハさん、会いたかった。サムハさん、私たちを郵便局に送っていった日に着ていた、白夜のヒジャブと真っ白のドレス。あの時と同じだよね。」
「そうよ、覚えていてくれたのね。ニャーモさんが作って送ってくださったもの。特別の日に着ける白夜のヒジャブ・・ね!
さあ、お家に入ってください。ここはとても熱いでしょう。家の中は涼しくしてあります。ボトルさんまたタライの水の中に入りましょうね。」
ボトルさんはぴょんと飛び跳ねました。それを見てサムハさんは目を丸くして驚きました。
「手紙姉ちゃんと私でボトルさんに動くことを教えたの。一回傾いたら、『はい』二回傾いたら『いいえ』飛び跳ねるときは嬉しい時。その他教えてない動きもするから迷っちゃうこともあるのよ。」
キリエさんはご機嫌でお話しています。
「ニャーモさん、手紙さん、お疲れでしょうね。こんなに熱いのですものね。すぐに冷たい飲み物も用意しますね。さ、お家へ行きましょう。」
家の中に入ると清潔で整っていて、エアコンがついていて、とても涼しく気持ちが良かったのです。でも窓も扉も開けっ放しで、天井ではシーリングファンが回っていました。
「サムハさん、前にはエアコン無かったよね。それに家具が増えているよね。」
キリエさんが言いました。
「そうなの。私が結婚する、エハカと言う名前なのだけど、結婚したらこの家に住むと言うのでエアコンもつけて、エハカの家具も運んできたのよ。
この家は私が通っていた大学が近くて、大学の横が今私たちが仕事をしている研究所なの。だからここに住むのはとても便利なのよ。
さあ、ニャーモさん一番涼しい処に座ってください。
エアコンをつけているのに窓もドアも開け放しているのは、あまり涼しすぎると外との気温差が激しくなって外にでられなくなるので。こんな使い方本当はいけないのかもしれませんが・・・」
ニャーモさんは、もしかしたら私の為にエアコンを買ったのかもしれないと思いました。 「ニャーモさんご気分はいかがですか?これココナツジュースです。冷たくて気分がさっぱりしますよ。どうぞ召し上がってくださいね。
ボトルさん、すぐにタライに水を入れて持ってくるわね。」
サムハさんはあれこれ気を遣ってくれています。
ボトルさんはタライの水の中に入ると、気持ち良さそうにぴょんぴょん跳びはねました。 「ほんとうに!!ボトルさん、動いて可愛らしいこと。」
サムハさんはじっとボトルさんの動きを見て楽しそうに笑いました。その笑顔もとても美しくニャーモさんはやはり驚くばかりでした。
「あなたはルネッサンス時代の画家達が描いた女性にそっくりな顔立ちだわ。」
ニャーモさんの言葉にサムハさんは恥ずかしそうにほほえみました。
「私がね、サムハさんはお姫様みたいに綺麗って言っても、ニャーモさんも手紙さんも信じてくれなかったの。」
「信じなかったのではなくて・・・サムハさんはインドネシア人の顔立ちだと思い込んでいたので。だから想像していたお姫様とは全く違って・・・びっくりしてしまったのです。」
手紙さんはそう言いました。
サムハさんはやはり恥ずかしそうに笑って言いました。
「今夜にでも私の事お話しますね。」
「サムハさんお祈りする?」
キリエさんは唐突に尋ねました。
「はい、お祈りはいつもいっぱいしていますよ。今も心の中で、アラーの神様にみんなに会わせてくださってありがとうとお礼を言っています。そしてニャーモさんにもメールボトル19さんにも、来てくださってありがとうと、お礼を言っています。」
そんなサムハさんをニャーモさんは、涼しげで誠実で清らかな女性だなぁと思っていました。
「サムハさんこれお土産です。」
ニャーモさんはトランクの中からプレゼントの包みを取り出し、サムハさんに渡しました。
「なんでしょう。前にも沢山頂いているのに。開けていですか?」
「もちろん、開けてください。」
サムハさんは包みを開けて驚きの表情で顔を真っ赤にしました。
「これ・・・・・・・ウェディングドレス。そしてお揃いのヒジャブ・・・ニャーモさん私の為に作ってくださったのですね。」
「インドネシアの結婚式ってどんなのか知らなかったし、ウェディングドレスを着ていいのかどうかも分からなかったのだけど、あなたの手紙を読んで、どうしてもあなたにあげたくて作りました。」
それは金色の地に白い輪郭だけで、フィンランドでできる様々なベリーを描いた布でした。熱帯の太陽に負けないぐらい輝くドレスにしたかったので金地にしたのです。とっても豪華。
「素晴らしいです。なんとお礼を言って良いかわからないぐらい。私はインドネシアの民族衣装を着ようと思っていました。それも着ますが、でもウェディングドレスを着てはいけないなんて決まりはないし、私、絶対これ着ます!そしてこのヒジャブをつけて・・・・その上から、ああ、ティアラを着けましょう。ああ、想像しただけでどんなに素敵になるか、もううっとりしてしまいます。」
「サムハさん、私たちは結婚式までここにはいられないから、絶対絶対写真を送ってくださいね。」
ニャーモさんと手紙さんとキリエさんが同時に同じ事を言いました。サムハさんは笑って
「はい、今度こそ、絶対写真を送ります。約束します。」
と言いました。
ニャーモさんは木でできたトントゥを差し出しました。
「イスラム教では偶像は禁止されているのは知っていますけど、これはイスラム教のものではないし、他の宗教の神様でもないの。ただフィンランドに昔から伝わる妖精さんなの。 サムハさんのお人形だと思って飾ってくれたら嬉しいわ。」
「とってもキュート。トントゥって可愛らしい妖精なのですね。はい、私の机の上に飾らせていただきます。」
「それからこれね。」
ニャーモさんはペンダントを取り出しました。
「これはトナカイの角を切り出して模様を彫ったものなの。どんな模様がいいかしらと考えたけど、お花が一番良いかしらと思いました。サムハさんは大事な大事な珊瑚のペンダントを、ボトルさんにあげてくれたでしょう。その代わりにはなれないと思うけど。
トナカイはフィンランドやもっと北のラップランドでは、なくてはならない生き物なの。
そんな私の住んでいる処の品をあなたにあげたかったの。」
サムハさんは目を見張りました。それは非常に細かく精密に彫られた花模様でした。
「すごいです。私はトナカイは本などでしか見たことがありません。インドネシアにも動物園はありますが、こんなに暑い国なので北に住む動物たちはいません。本物のトナカイの角・・・・とってもすごいです。きっとインドネシア中でこんなペンダントを持っているのは私一人。ニャーモさん、ありがとう!!!」
それからみんなでいろいろな話をしました。キリエさんはサムハさんに送られて、初めて飛行機に乗った時のことを、どんなに怖かったかと語りました。でも今回乗客の処に乗って、やっと飛行機の動きが分かったことなども。
「そうね、あの時は段ボール箱の中で真っ暗で何もわからなかったでしょうね。怖い思いをさせてしまってごめんなさいね。
でもね・・・・やっぱりメールボトル19は、ニャーモさんの処に帰るべきだと思ったの。あなたたちはこんなに暑い国では息苦しいでしょう。涼しい北国があなたたちの居場所だと思ったのよ。」
それから今回の飛行場の手荷物検査場で、突然メールボトル19がロボットになった話をすると、サムハさんはあまりに可笑しくて涙を流しながら笑いこけました。
「あれには私も本当にびっくりして、心臓がどきどきなって、暫く立ち上がれなかったぐらい。この子達ってとんでもない事を考えるから。」
ニャーモさんもそのことを思い出して大笑いしました。
日本に行って宮子さんに会ったことも、橋本おじさんのモーターボートで海に出て、PHR07さんやその奥さんや坊やに会ったことなど、話はまだまだ続きます。
が、もう夕方になっていました。
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