第13話:天使との邂逅、いや闘争
尋問を終えて一息ついた頃。頭の中に突然グレイラの声が響いた。
「とんでもないのが現れてしもうた! 死にたくなければ逃げろ!」
「なんで声が……? とんでもないのが……? 逃げろ……? あぁもういきなり情報を詰め込むなよ!」
ひとまず落ち着け俺……ここは冷静になろう……よし。
グレイラの前にいるであろう強敵は、恐らく人間ではどうにもならない化け物なはずだ。あの荒ぶり方は尋常じゃない。
そして「死にたくなければ逃げろ」とも言っていた。俺に被害が及ぶのを案じてくれたのだろう。随分と優しいもんだ。だがここで逃げるのは……果たしてどうなのだろうか。
レヴィラさんの「命は捨てるべきときまでとっておけ」という言葉が脳裏によぎる。しかし同時に思う。逃げたくない、と。
『それは良い判断だ。そろそろ力試しをしたい時分だろう? ならばそうするがいい。この力、使わないのは損でしかない』
「また幻聴かよ……でも、言っていることは間違いないな。分かった、そうしよう」
未だにこいつの正体がハッキリとは分かっていないが、幻聴なだけあって俺の気持ちを汲み取ってくれたようだ。
てか、本当にこいつは何者だ? 名前は知らないし、顔も見たことがない。ただの幻聴と言っていても仕方ないような状態なのだが……
『あと……そろそろ名前で呼んでほしいものだな。立派なルナイアという名があるのだから」
「ははっ、俺も同じことを思っていた――期待してるぞ、ルナイア」
『もちろん!』
そうか、薄々思っていた通りだったか……ルナイア、いや《
「まずはグレイラの元へ行こう……かっ!」
ロスタリテはこれを「魔法と似た感じ」と説明していた。
実際、魔法を扱う感覚で身体が、世界が自由に動く。
例えば、今は先輩暗殺者が使っていたらしき魔法――まるで風の如く素早く動くことが出来る――を再現している。風景が一秒ごとに大きく変化していくのは実に面白い。
先輩もきっと同じ気持ちだったんだろうな。俺は真似してもできなかったから心は嬉しさで満たされているよ。
魔力の方はというと、一応体感では減っている。だけどそれを超える速さで魔力が回復しているので、人類が誰一人できない「魔法を無限に使う」なんてことができてしまいそうだ。まだまだ試し甲斐があるなぁ!
「ありゃ、もう到着してしまった」
「シェレム――じゃなくってご主人様!? 来たのか――ええい、鬱陶しいな! 〈
「ふふっ、そんな
グレイラの向かい側に立つ女が、魔法のような言葉を詠唱した。その瞬間、全てを燃やし尽くしそうな勢いの炎は――ピタリと。氷に封じ込められたことで世界に固定されたかのように止まってしまった。
「い、今何を!?」
「あら坊や。ここは危ないですから早くお逃げなさいな。じゃないとそこの灰みたいになってしまいますから」
「……灰?」
女は俺から見て右を指し示した。そこには少しばかり火がくすぶっている灰が、確かにあった。
「これは……?」
「私の『救済』の証ですよ――」
「たわけが! 貴様が炎で子どもたちを燃やし尽くしたのを良いように言い換えるでない!」
「子どもたちを……」
やっと分かった。なぜグレイラがあんなにも焦っていたのか。なぜ俺を見る目が怖いくらいに見開かれているのか。なぜさっきから心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのか。なぜ血の気が引いていくのか。
あいつは――本物の化け物だ。
「グレイラ、あれはなんて名前の存在なんだ」
「では私が代わりに。第五席次の使徒、アルカティと申します。あなたの名前をお伺いしても?」
「言うわけ無いだろう。仕事柄でな」
「そうですか……それではシェレムさんとお呼びいたしますねっ」
笑顔で放たれたセリフ。それはあまりにもこの場所には似つかわしくなかった。
「ちっ、聞いてやがったのかよ……性格が悪いな」
「ふふっ。私、こう見えて耳はいいので」
「そうか。じゃあ――死ね」
別れの挨拶を言い終わる頃には既に用意を終わらせていた。
アルカティを囲むのは千本の剣。そして蒼い波動が鼓動と共鳴しつつ漏れ出ている。
そう、あの夜と全く同じ状態なのだ。流石に死んでもらわねば困る。
刹那、フッ――と妙なほどに軽い音がして突き刺さる剣たち。だが、どこか手応えがない。どうにも「軽い」のだ。
数秒後、剣によって起こった土煙が晴れていく。そこには「紫色の血」が付着した剣があるのみで、アルカティの姿はどこにもない。
「シェレムッ!!!」
グレイラが叫んだかと思えば、背後で硬質な音がした。
振り返って見れば、剣の一本を握り血走った目で突き立てるアルカティと、龍化させ鱗に覆われた腕で俺を守るグレイラがいた。
アルカティの服――というか肉体はボロボロで、人の骨より明らかに輝いているそれが、そこかしこから顔を覗かせている。そこにも、もちろん紫の血がついていた。やはりあれはアルカティのものだったようだ。
「しぶといですねぇ、たかが上位龍風情が」
「そっちこそ、天使のくせに苦戦しておるのぉ。よもや人数不利を言い訳にはすまいな!」
「当たり前でしょう!」
泥仕合になると分かってか、アルカティが遠くへ後退した。
「〈
「そんなもの、我の――」
「グレイラ。ここは俺に任せてくれ」
「なるほど。それならばっ……!」
俺の言葉を聞いて、即座に何をしようとしているか理解してくれたようだ。
「さてと」
飛んでくる氷の雨。それらを波動で全て受け止めていく。砕け散るか重力のままに落ちるかのどちらかで、俺に攻撃を加えることができるのは一つたりともない。
「な、何その力! 〈
「無駄だ」
魔法が発動するであろう瞬間だけ、波動で自分の身体を包み込む。
「我が神より賜りし力が……通じない!?」
ははっ、上手くいったようだ。
「さぁ、もう終わりにしようじゃないか」
俺が作り出したのは檻。魔力を大量に使って作り上げた代物だ。
「はっ、一生そこにいるんだな。この羽アリが」
檻を光の速さで動かし、アルカティを収容する。さすがの天使でもこの速さには反応できなかったようで、大人しく入ってくれたようだ。
「
失礼、全然大人しくなかった。むしろ凶暴化している。
う~む……さっきは剣という「点」だから掠って逃げられた、そう思ったから檻にしてみたんだがな。失敗だったかな?
「まぁ良い。人間とトカゲよ、よく聞け。我が神は、神々はきっとお前らを許さない。せいぜい命乞いしながら死んでいくことだな!」
おっと、急に大人しくなったと思ったら意味のわからないことをいい始めて――
「まずい! 逃げるぞご主人様ッ!」
「えっ――」
気づいた頃には、爆音が響いていた。とっさの判断で波動を使い俺とグレイラの身を守る。
グレイラも俺を庇って壁となってくれたがしかし、爆風から完全には逃れられず、思い切り踏ん張って耐えること数十秒。
目を開くと、辺りの建物は全て崩壊し、更地と見紛うほどの空間へと変わり果ててしまっていた。
「こ、これはなんとも……」
「すごい、な」
これが天使。これが神――亡霊の使徒、か。
「……本当に大丈夫かな」
これよりもっと強い奴を倒さねばならないと考えると、なんだか気が滅入ってしまう。
「今日は、もう帰ろっか……」
「そう、じゃな……」
二人とも疲労困憊の中、とぼとぼと帰宅していった。
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