第二幕:龍と仕事と、それと神
第10話:新しい仲間
場所は変わって隠れ家。
ターゲットの暗殺が完了した以上、特にすることもないのでそそくさと帰ってきた次第だ。
ちなみにグレイラの服をどうしたのかといえば、彼女ら上位龍は鱗を自在に変化させることができるらしく、その能力を使って一瞬でメイド服を作り上げてしまった。
なぜメイド服なのか、と聞けば「ご主人様に仕えるのじゃし、それで良かろう?」という感じだった。俺も別に文句があるわけでもないからね。
閑話休題。隠れ家に帰ってきたともなれば、そこにはとある人物がいる。
「やぁおかえりシェレムくん。仕事はどうな――って、シェレムが女を連れてきたああああ!?」
そう、レヴィラさんである。
扉を開け、目が合った瞬間は優雅にお茶を飲む淑女だったのがあら不思議。ティーカップを持ったまま勢いよく立ち上がって全力で叫ぶ変人に大変身してしまった。
「紹介します。彼女はグレイラ=ルラージさんです」
「訳あってシェレム様に仕えることになったメイドじゃ。よろしく頼むぞ、女!」
胸を張って傍若無人な態度で自己紹介――と呼べるかわからない挨拶をしたグレイラ。俺はそれを見てどういう顔をすればいいのか知らないので、取ってつけたような笑顔でなんとかする。
それに対し、レヴィラさんの反応というと……
「メ……イド……? そんなに可愛いのに彼女じゃなくて……!?」
「逆になんで彼女なんですか。いきなり連れてくるわけ無いでしょう!」
「シェレムくんならやりかねない」
「俺のことなんだと思ってんですかぁ!? これは後でお話しないといけないようですね?」
まるで王子様かなんかだと勘違いしていないだろうか。彼女を連れてくる以前に、俺は彼女なんてできたことはない!
「よし、じゃあ二人とも入って入って。お茶くらいは出せるから」
「あ、無理やり話を変えやがりましたね?」
そんな抗議も届きはしなかった。早速お茶を入れに厨房へ向かってしまったからだ。
といってもこの家は大して広くない。多分声は聞こえているはずだ。ちくしょう、さすがは
「とりあえずここに座ってくれ。あまり机も大きくないけど我慢してくれ」
「……ご主人様、楽しそうじゃの」
「え?」
出会ってからここに来るまでの道中、ずっと話をしていた。
俺のこと、レヴィラさんのこと、組織のこと――そのときグレイラはニコニコと笑って楽しそうだった。「主人の話が聞けて嬉しい」とまで言ってくれた。だからこそ意外だった。まさか、内にこんな思いを秘めていたとは……
「我は今までの長い間孤独じゃった。だからちょっとばかり羨ましいんじゃ」
「そうだったんだな……なんかごめん」
「謝ることはない。柄にもなく感傷的になってしまっただけじゃからな」
「そう、か」
「「っ……」」
どどどどうしよう……友人がいない俺はこういう状況を解決する能力を有していないっ……!
「どうしたんだい二人とも。なんかしんみりしちゃってさ」
もしや救世主ッ!? ありがたやありがたや……さっきの罪は全部許してあげちゃう!
「ね、ねぇ、何そのキラキラした瞳は……怖いよ?」
「いえいえ何もお気になさらず。早速お茶会を始めるとしましょう」
「はぁ……分かったよ。でもその前に報告だけしてほしいんだ。面倒なことは私も嫌いだからね。楽しいことはその後だ」
「――了解しました」
報告。その言葉は我々組織の人間として非常に大事な言葉だ。その理由は、ここでミスをすれば、その数と重さによって自分が何を失うかが決まっていくから、だ。裁判といってもいいくらいの重要な行動、それが報告。ミスをしないよう、今までの経験を元に言葉を一つずつ紡いでいく。
「まず、ターゲットであるエイカム・イトカの暗殺は成功。それと同時にジョイビア領主、セイダ・ジョイビアとその近衛四騎士も暗殺しました。監視者・目撃者は恐らくなし。こちら側の損害などもなし。証拠も残していないはずです」
簡潔に、できる限り完璧に。それが規則だ。これだけの情報があれば問題ないだろう。今までもそうやってきた。
「……ふむ。理解した。しかしその少女については何も聞かされていないね。どうしてだい?」
「失礼、失念しておりました。彼女、実は……」
そこまで言ってグレイラの目を見る。それは「本当に言って良いのか」という最終確認。彼女が小さく頷いたのを見て、怪しまれまいとすぐに言葉を続ける。
「上位龍、なのです」
「それは……
「相違ありません」
「なるほど……それを証明するものはあるかい?」
証明、か……難しいことを聞かれてしまった。
彼女の話によれば、今は人化――人に化けている――している状態らしい。それを解いて龍に戻る、というのが一番早いのだが、さすがにこんなところでそれはできない。
どうしたものかと悩んでいるとき、グレイラが口を開いた。
「ではこうすればどうじゃろうか」
龍の要素などどこにもない、真っ白な手のひらを差し出すと、なんとそこから真紅の鱗が浮き上がってきた。それが完全に出てくると、ついにはゴトリと硬質な音を立てて机の上に落ちた。
レヴィラさんはそれを取りまじまじと見ている。次に指で弾いたり、折ろうとしてみたりと、その硬さを調べているようだ。
鱗を弄ばれていることに不満はないのかとグレイラを見るが、不満どころかその顔は嬉しそうであった。あの感じはきっと、疑いがどんどん晴れていく様子が面白くてたまらないのだろう。嘘は言っていないわけだし、仕方のない反応だと思ってしまうけどね。
「確かに……間違いないようだ。しかし本当に驚いた。七大古龍と呼ばれ畏怖される、この世に七体しかいない上位龍が、今、目の前にいるだなんて……」
「そのわりには驚いていないようですが」
「まぁ、暗殺者はときに尋常ならなるものと相対するときもあるってことさ」
なんだか悟りを開いているような顔だ。過去はあまり知らないし語ろうとしないが……やはり気になってくる。いつか教えてくれたら嬉しいものだ。
「そんなこと……あるんですか?」
「実際に今経験しているのに?」
「……確かに」
完全に正論だよ!! 返す言葉もないほどにね!!!
「でも分かったよ。間違いなく彼女は上位龍だ。だから――」
言葉を切ると、不気味なほどにニヤリと笑った。
まずい、これはなにかとんでもないことを考えている予兆っ……!
どう来るかと構えていると、飛び出したのは意外な言葉だった。
「君たちに依頼を出そう。ジョイビア支部の支部長としてね」
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