最強暗殺者は影から世界の嘘を”暗殺”する~俺と少女たちと裏組織による救世暗躍無双~

ねくしあ@カク甲準備中乞うご期待!

序章:月なき可惜夜の亡霊へ

第1話:自殺屋敷の幽霊、その正体

「シェレム。私は……」


 な、なんだこれ……


 辺りに広がる、さっきまでいた場所とは違うどこかに俺は呆然とそう思うことしか出来なかった。


 ――だって、血に塗れた黒き月が浮かぶ地獄のような世界だったから。

 

 見覚えのない少女が俺の名前を親しげに、悲劇的な声で呼んでいたとしても、それは仕方ないことなのだ。


「この――を一生忘れないよ」


 この……なんだって? 

 その声だけを切り取ってしまったような感じがする。肝心なところだけが聞こえなかった。

 

「だけど今はまだ、その時じゃない。シェレム。これだけは覚えていてね。私を、君を、仲間を信じて。そうすればきっと、より良い未来に辿り着けるから」


 さっきからいったい何なんだ!? 仲間なんて俺はいないし、お前を信じたことなんて無いっ!


 いやでも、なんだか目の前の少女はどこか見覚えがあるような――


「どうした、そこの灰髪の少年。私を見つめてぼーっと立ち止まって」


 その言葉に思わずはっとする。その衝撃によってか、今まで見ていた白昼夢のような何かは視界と脳内から雲散霧消してしまった。

 もっとも、今は大きな満月の浮かぶ真夜中なんだけども。


「おーい? どうして無視するんだーい?」


 そんな満月のおかげで景色はよく見え、邪魔するものはなにもない。日付を超えた深夜なのにどこからか聞こえる自然の雑音も、まるで気にならないほどにその光景と目の前の半透明の少女――まるで幽霊だ――は美しかった。


 オニキスのように輝くハイヒールに、夜中でさえ眩しい純白のドレス。肩口まで伸びた艶のある黒髪はそよ風になびき、深海と満天の星空を混ぜたようにすら思える藍色の瞳は、俺を真っ直ぐに見つめている。小さく端正な顔立ちと幼さが抜けきらない声は、俺の脳と心を掴んで離さない。


「おーいったら! どうしたんだーい! ……まったく、どうして私の元には奇妙な変人しか来ないのかな」


 俺よりも少し小さな背を、必死に伸ばして俺の顔を覗き込む少女。その呼びかける声によって現実に引き戻され、ぐるぐると脳内を回る感情を落ち着かせ距離を取る。


「その、俺はあんたにお願いがあって来たんだ。どうか、俺を――」

「――殺してくれ、でしょ。もう分かってる」


 覚悟を決め、精一杯頑張って発した言葉をうんざりした様子で遮られてしまった。しかも答えを的中させて。

 それに驚いてしまった俺は、どうしてと疑問を投げかけようとする。しかし喉元から先に出ていこうとしない。

 

 ため息をつき、少女は気だるげに続ける。


「君も『自殺屋敷』の噂を聞いてここに来たんだよね」

「……その通りだ。俺は死にたくてこの場所に来た」


 ひっそりとした森の中にあるこの屋敷は、いつからか有名な自殺スポットとして知られるようになっていた。


 単純に自殺防止という理由もあるだろうが、何らかの魔物がいると考えた警察はここを立入禁止にした。その後、数回に渡って捜査が行われたものの、何も成果を得られないまま打ち切りとなってしまったようだ。


 それから数年後。次第にこんな噂が流れ始めた。

 

 いわく、その屋敷に住まう幽霊は冷酷無慈悲に首を落とす化け物なのだとか。

 いわく、この世の全てを恨んだ大男の悪魔なのだとか。


 そんな根も葉もない噂とは真逆の性格に真逆の見た目。まるで全て分かっていると言わんばかりの飄々とした態度。

 それには心の中をくまなく覗かれているような気分になってしまう。


 どこか恥ずかしさを覚えながらも、咳払いを一つ。


「それで、俺のことは殺してくれないのか?」

「うーん、そうだなー。どうしよっかな。いやぁ、実を言うとさ。私も死にたいんだよね」

「……は?」


 反射で出たのは馬鹿馬鹿しいほどに呆けたような声だった。


 おかしいだろう。死にに来たはずなのに、殺してくれるはずの存在が死にたいなんて言うのは。冷酷無慈悲なんじゃなかったのか? 

 想定外の出来事に、思わず考えることを諦めたくなってしまった。


「どうしてなんだ? お、俺に出来ることなら解決するぞ!」


 その言葉は咄嗟に出てきた。そして自分でも驚いた。「どうしてそんな言葉が出てきたのだろうか」と。

 それに対して少女は、面白いものを見るような目で俺を見つめていた。よく見れば口角が少し上がっているような気もする。


「へぇ、不思議な事を言うね。ちなみに。私の悩みを解決するのは時間がかかるよ。数年、いや数十年かも。それでも良いの?」

「そうだな。俺が死にたいのはやりたい事が何一つなく、生きる意味が一切なかったから。暗殺者としての生き方を見失ったから。もし、あんたの悩みを解決する手伝いが出来るなら……!」


 そうか。そうだったな。ここに来た理由さえ忘れて死ぬところだった。


 街に生きる若者から田舎の老人まで、俺が見てきた老若男女は、何かしらの生きる希望や目標があった。俺の数少ない友人たちでさえもだ。


 例え本当に数十年かかってもいい。俺が生きられる場所があるのなら、それで構わない。

 殺しなら慣れている。女子供も殺せる。盗みでもいい。犯罪だろうとなんだろうと、誰かの命令で何かできるなら問題ない。生きる希望のない、この空虚な心を導いてくれるのならば――!


「暗殺者、ねぇ……ふふっ、丁度いい」


 俺の言葉に何かを感じたのだろうか、妖しくも美しい笑みを浮かべて楽しげに肩を揺らす。


「じゃあ、私を幸せにしてよ。この世界の〈亡霊〉をみーんな殺してさ」

「……ぼう、れい?」


 聞こえてきたのは再びの想定外の言葉だった。


 ――亡霊。それはこの世界において『禁句』だ。もし街中で言えば、周囲の人は良くて冷たい視線を向け、悪ければ即刻殺されかねないほどの。

 その理由は、最も大きな権威を持つ宗教が信仰する神々への侮蔑の言葉であるから。


 あぁ、ちなみに俺は別に神なんか信じちゃいない。周りの奴らが大体そうだからだ。救ってくれる神がいればそうはならないだろ、って思えるほど悲惨な奴ばっかりなのもあるがな。


「亡霊って、あの六神教むつがみきょうの神を表す……!?」

「そうだよ。六神教の神々に対する侮辱の言葉である〈亡霊〉。実はね、あれは結構的を得ているんだ」


 そこまで言って、彼女ははっとしたような顔をした。


「そ、そう言えば、君は六神教信者だったりしないよね……?」


 そう戦々恐々とした口調で問いかけてくる。

 どうやら今までは格好つけただけで、素の性格はこういう感じなのだろう。しっかりと人のことを考えられる、優しい人物――なるほど。彼女の事が分かってきたような気がする。


「心配するな。俺は神なんか信じちゃいない」

「えー!? それはダメだね。神だけは信じなさい。あ、六神は信じなくていいけど」

「どういう事だよ……?」


 全く以てさっぱりだ。首を傾げ、ため息もつきたくなるくらいに。


 その理由は神という言葉の意味にある。

 この世界では、六神教以外の宗教はもはや異端者扱いされ異教という呼び名で蔑まれてしまうのだ。そのため一般的に神という言葉は、六神と呼ばれるこの世界を創造したとされる六柱の神の事を指す。


 つまり、言い換えれば「六神を信じろ。ただし六神は信じなくて良い」ということになる。それが理解できない理由だ。


「じゃあ教えてあげる。六神は偽りの神――いや神ですらない、ただの亡霊なんだよ? 神を騙って成り代わっただけのさ」


 =====

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 次は戦闘シーンもあります!あともう一話だけでもお願いします……!

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