第14話:踏み出そう、闇の中へと

 家に帰った俺たちは、まず報告――より休むことにした。


 あの戦闘では魔力を大量に使った。回復したとはいえ、大きく体力を削がれるのは致し方ないことだろう。それに気力も使い果たして疲労困憊。それは上位龍であるグレイラも変わらなかったようで、ベッドに倒れ込んでからは泥のように眠っている。


 ……それが俺のベッドじゃなければ、もっと優しくできたんだがな。


 狭い家にベッドはそう何個もない。

 背丈も俺より高い、それも女性と同衾どうきんしなければならないなんてとんだ拷問だった。そういった意味でも気力を削がれた。

 くそっ……あの柔らかさの感覚が妙に記憶に残っている……暗殺者としては不覚以外の何物でもない。ちくしょう。


 ――とまぁ、紆余曲折あって翌朝。俺はレヴィラさんに昨日の出来事の顛末について報告した。

 偽なる星グノーシスのことや、大司教のこと。それから天使についてもだ。特に天使についてはグレイラが補足をたくさんしてくれた。そのおかげでかなり情報を得ることができて勉強にもなった。ありがたい。


 だが、報告の中で気になる部分がいくつかあった。


偽なる星グノーシス……それ、私もほとんど知らないんだよ。上のお方はしっかり認知しているようで、優先的に報告しろって命令が下ってるほどなんだけど……我々下っ端は全然情報が回ってこない。ひどいもんだよねぇ」

「レヴィラさんの知ってる情報はどんなものがあるんですか?」

「いやいや、報告してくれた情報は知らなかったことばっかりだよ。風のうわさで名前を聞いたことがあるだけで、何のためのどんな組織なのかすらも分かっていない。そんな中でシェレムくんは素晴らしい功績を上げてくれたよ! 報奨すら出てもおかしくないって、私は思うね」


 報奨って……そんなことあるのだろうか? 

 真偽の程はともかく、レヴィラさんでも知らない情報を入手できたのは個人的にとても嬉しい。敵わない相手に一歩でも近づけたような気分だ。


 あ、あと他にはこんなものも。


「アルカティの言ってた『第五席次の使徒』ってどういう意味なんだ?」

「それは我が答えよう。まず、あれは天使。六神がそれぞれ一体だけ創造・所有する奴隷のようなものじゃ。といっても酷い扱いをしているとかそういうわけではなく、言うことは何でも、絶対に聞くだけで実質臣下のような感じじゃな」

「なるほど……」


 奴隷、ねぇ。死に際の自爆を見ると狂信者と言ったほうが正しいような気もするが……グレイラは上位龍。長く生きた「知識の集合体」のお言葉なんだし、意味のある言葉なんだろう。


「次に第五席次、というのは序列のことじゃ。六神には第一席次から第六席次まで振り分けがされており、それは強さの順番で決まっているらしい。詳しいことまではさすがに知らないのじゃが、あいつは五番目の強さを持つ神の天使ってことは確かじゃな」

「それは当の神の強さにどれくらい比例するんだ?」

「まちまち、といったところじゃ。天使は神が創るもの。自らの力を分けた分身みたいなものじゃから、天使のほうが強いなんてこともありえるかもしれん。あるいは同じ強さとか」


 ほぉ、それはかなり便利だな! 一割でも力を持っていれば心強い道具になってくれる。俺もそんなものを創ったりしてみたいもんだよ。


 現実的な話で考えるなら、あれが神より強いことを願うばかりだ。あんな死闘、命が何個あっても足りやしない。


「あとは調査次第ってところかな」

「そうだね。私も色々探してみるよ」

「我も他人事じゃなくなってしもうた。協力するぞ」


 ――と、その後も色々と話して報告は終了した。


 ということで、今俺がいるのは六神教の教会の真ん前だ。

 どうしてか、と問われればこう答えるしかない。「ルナイアの指示だ」と。レヴィラさんもそうしようと言っていたのもある。もちろん隣にはグレイラも一緒だ。


「……グレイラは外で監視しておいてくれ。真夜中とはいえ、夜目は利くだろ?」

「承知じゃ。姿を隠して見守っておる」

「それと、敵が来たらあの……魔法? で教えてくれ」


 通信の魔導具はあるものの、あれは魔法ではない。互いに同期されたものを所持していなければならないなど様々条件がある。

 つまりグレイラのあれは魔法なのかが分からない。魔法だとしても聞いたことがない。


「あぁ、魔法で合ってるぞ。了解した、必ずや知らせるとしよう」

「お願いだから、大きな声で言わないでね?」

「あれは仕方ないじゃろう……!」

「ははっ、冗談だよ。それじゃ、行ってくる」

「気をつけるのじゃぞ、ご主人様」


 グレイラの言葉を胸に、〈溶影シャルト〉を発動させ潜入する。内部構造はレヴィラさんにもらった地図を頭に叩き込んであるから問題ない。


 えっと、今いる場所は……礼拝堂か。暗くてよく見えないが、少し欠けた月明かりが窓から差し込んでいて多少は見える。


 と、辺りを見回していると、とある事に気がついた。

 椅子に腰掛けて、なにかを呟く女性がいたのだ。〈溶影シャルト〉を使っているとはいえ、気づかれないようにとこっそり近づき言葉を聞いてみる。


「あぁ、なぜ死んでしまったのです……我が子よ……娘よ……。神敵を討ち取れなかったことに心から深い悲しみを……。あとは必ずや、第五席次であるこの私がなんとかしてあげますからね……」


 これはまずいッ――! 


 瞬時に危険だと気づいた俺は、全力で気配を消しつつも、全速力で逃げた。だが調査の続行のため、逃げたのは教会の奥。こっちなら更になにかがあるはずだ。


 長い階段を下り、辿り着いた階層にあった扉を適当に開け、中を物色していく。


「はぁ……ここなら大丈夫だろ――む? なにか書いてあるな。どれどれ……『グノーシスによる新薬の研究結果と実験経過報告』……あっ」


 ペラペラと中身をめくれば、それはもう大量に出てくる人体実験の数々。写真や文章で細かく説明されており、そこまで詳しくない俺でもある程度は理解できてしまった。

 どうやら薬――効果は毒としかいえないが――の実験をしていたらしい。しかも一部のものは街の住人に散布されているようで、どこからか入手した個人情報もずらり。恐ろしいことこの上ないねぇ。


「素晴らしい収穫だ……もっと探せば色々見つけられるかもしれない……!」


 だが、そうは問屋が卸さない。


「ご主人様。六神教関係者と思しき人物が教会に入ってきたぞ。護衛の聖騎士らしきものも数名。潮時じゃ」

「ちっ……そうか。なら撤退しよう。経路の確保を頼む」

「了解」


 とりあえずこれは使影デポットにしまっておこう。それがいい。


「いやはや残念だなぁ。レヴィラさんの言う報奨、意外と楽しみにしてたんだが」

「……ご主人様。そんな呑気なこといっておる場合じゃないかもしれぬぞ。教会の周囲に結界が貼られて抜け出せなくなっておる。この状態で逃げることは難しいじゃろう」

「――罠にはめられたか!」


 あぁもう、次から次へなんなんだよ!


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