第4話:暗殺者が人助け?
「……全部ショボいじゃないですか。特になんですかこれ、五千ビトって。舐められてますよね。こいつの処分もついでにやってきますよ?」
「あー、それはもう上の方で処理済みらしいからいいけど……とにかく分かった。その赤髪の男ね、いってらっしゃい。ナイフは持ったね?」
「ちゃんとありますって。行ってきます」
財布の二の舞にならないように、と愛用のナイフを隠してある場所に手を触れる。次は予想通り、硬く氷のように冷たい質感があった。
それに満足した俺は、軽快な足取りで光り輝く表の世界へと足を踏み入れた。
「さてと。目的地は……」
辺りを見回す。
目の前の方にはまた裏路地へ続く道があり、左右は普通の道が長く伸びている。人通りはあまりなく、遠くに散見される程度だ。
まぁ、閑散とした場所だからこそ拠点があるわけなのだが。
「あっちか。早速行くとしよう」
方角的には、右に進めば南――街の中心地に向かうことになる。そこに子爵の屋敷があるのだ。ここからでも高い何かの先端部分が見えるほど豪華な作りで、その財力を誇示しているよう。
だがおかしいのだ。子爵如きにそんな建築物を作るほどの財力があるなど。どこかから金が湧き出ない限り無理なのは自明の理。それにこの街は特筆すべきほど金になる産業がないのもあり、なおさら歪さを感じる。
と、内心で子爵を嘲笑していたところで突然声をかけられた。
「あぁ! そこな灰髪の少年!」
「ん? 俺のことですか?」
「そうじゃよ、君じゃよ!」
そういえば、歩いているうちに屋台などが立ち並ぶエリアに来ていたようだ。ここはもう人通りも多く、そこらにある屋台や露店はとても繁盛している。
しかし、ただの屋台の店主に声をかけられる
「この前は本当に助かった! 感謝してもしきれんのじゃ!」
「い、いや……俺、何かしましたっけ」
「何か……? いやいや、何かどころじゃないぞ!」
首を傾げた俺に対し、叫び声を上げる目の前の老人。その目を見れば本気さが伺え、ただのボケではないと伝わってくる。しかし俺には心当たりが全くない。というか周囲の視線を集めるので辞めてほしいんだが。俺暗殺者なんだけど?
「……ほ、本当に覚えてないのか?」
「そうですね。記憶には何も」
「……数日前、君がうちの牛肉の串焼きを沢山買ってくれたおかげでやっとお金が貯まり、重い病気だった一人娘のために特効薬を買うことが出来たんじゃ。最近は容態も悪くなっていて、いつもの売上だと間に合わないような状況の中――颯爽と現れ、命を救ってくれた君には感謝してもしきれないんじゃ」
「へ、へぇ……」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことか。
俺が、かの「自殺屋敷」へ行こうと決心し、持ち金を全部使い切るのに選んだのがどうやらこの店だったらしい。
暗澹とした精神だったために記憶も曖昧で、なぜこの店なのかはよく覚えていない。多分匂いにつられたのだろう。まさかそれが一人の命を救うことになろうとは……俺も予想外だし、暗殺者が命を救うなどというあまりの皮肉に笑ってしまいそうだ。
「だからお礼がしたいんじゃ。この前買ってくれた十五本の串焼き、全部タダで持っていってくれ」
「良いのか? 俺としてはすごく助かるんだが……」
「いいんじゃ。むしろもらってくれんと困る。早く恩返しをしないと、ワシが先に死んでしまうかもしれんからの」
皮肉交じりに笑う店主。俺もつられて自然と口角が上がってしまう。
「だからほら、持っていってくれ」
「いや、今は十本だけもらうことにするよ。あと五本は、元気になった娘さんに渡してもらいたい。もちろん、爺さんも一緒にな」
「……分かった。君のその願い、しかと聞き入れたぞ!」
その言葉と共に渡された、十本もの串焼きを手に、再び目的地へと歩き始める。
「ん、これふはいは」
美味いと思いつつ、懐かしさを感じる。やはり数日前に食べたのは間違いないようだ。
「もう、一本目が無くなってしまった……また今度買いに行くとしよう」
俺の今の目的である殺しの依頼だが、食料を手に入れたのでやらなくたって構わない。だが後回しにするのもよくないだろう。
どうせここまで来てしまったんだ、さっさと片付けてしまえばいい。
「二本目……」
その頃には、領主の屋敷がこの一直線の道の向こう側に見えていた。あと少しだ。
ここまで来ると逆に人通りが少なくなる。領主に用がある人などそういないのだから当然なのだが、コソコソしては怪しいだろう。なのでここは堂々と行く。どうせ見られていないから心配することもない。目撃者は消えるのだし。
「……大丈夫だな。おっと、三本目を行く前に……
目の前にあるのは裏門。ここならなおさら人目につかない。
魔法を使った直後に三本目を一気に口に含み、空中に現れた「暗い影」の中に、持っている串を全て突っ込んだ。
これは、いわば物を収納する魔法だ。さすがに串をつまみながら潜入なんてできないからな。ここに収納しておけば熱いままで保存しておける。
準備も終わったので、ふっ、と軽く息を吐き、二メートルほどの高さの柵を飛び越えた。
「さっさと中に入ろう」
足早に、しかし音は出さず。忍び足で屋敷の中へと潜入する。
どうやらここは客人の立ち入らない、使用人だけの空間のようだ。その証拠に、仕事道具などが壁に立てかけてあったりする。こんなもの、客人には見せられないだろう。あと、それを裏付けるもう一つの証拠がある。
さっさっ――とこちらへ歩いてくる、使用人と思しき服装の女。
ちょうどいい。道を聞く事としよう。
「なんか不気味……お化けとか出たりして……」
「失礼、そこのお嬢さん」
「ひゃあ!?」
奇声をあげ、持っていた箱を後ろに投げるように落とし、自身は派手に転んでいる。さすがに過剰な驚き方じゃないか?
次に遠くに飛んだ哀れな箱に目をやると、コロコロと転がる誰かの生首が。中々物騒だな、と思うも別にそれに驚きはしない。
はて、今まで何個の生首を作ってきたことか……ちなみに俺は既に数えるのをやめている。
「あいたたた……」
「手を貸しましょうか?」
膝をつき手を差し伸べ、優しく微笑みながら声をかける。
「ありがとうございますっ」
俺の手に手を重ねた次の瞬間、適度な力加減で腕を引っ張る。
すると、すぐに身体は起き上がり再び立ち上がることが出来た。
怖がりな目の前の使用人は、ポニーテールにしてある淡い栗色の髪の毛を揺らし、衣服に付着したホコリを落としている。
数十秒後、それも終わったようで深呼吸を一つ。
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次回から戦闘でございますよ~!!!
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