KOUJI ~愛とすれ違いの日々~

鳥尾巻

われ、守護者なり……

 数日前に歯の詰め物が取れて、特に問題なかろうと呑気に構えていたら、思考を遮るほどの痛みが襲ってきた。

 鎮痛剤を飲んでバリ島の魔除けラクササ(ラクシャーサ)の形相で痛みを堪える私。しかし、それでは人間としての尊厳も乙女の体面も保てない。


 ラクササ、ラクシャーサ(仏教では羅刹・羅刹女)はラーヴァナの手下の魔人でヒンドゥー教の神に認められた戦士。鋭い睨みで悪霊や災難を追い払う。

 ラーヴァナは叙事詩「ラーマーヤナ」に出てくるランカー島の鬼の王。ラーマ王子の敵であり、最愛の妻シーターを奪っていく悪いやつ。


「ラーマーヤナ」は面白い。とんでもなく長くて登場人物も多すぎてうろ覚えになってはいる。ストーリー自体は「マンマ・ミーア!王子の后が鬼神にさらわれちゃったから、みんなで助けに行くよ!」という話だった記憶。ラーマ王子を助けるハヌマーンは西遊記の孫悟空の原型かもしれないと言われてたり。


 つらつらと下らないことを思い浮かべ、さらにマハーバーラタについても考えようとしたが、鎮痛剤とラクササ効果が切れた私を鈍い痛みが断続的に襲う。


 本格的にダメだ、これは。歯医者に行かなくては。


 そう決意して、ようやく重い腰をあげた私は、恐る恐る近所の歯医者に予約の電話を入れるのであった。


 そして、出会ってしまったのだ……KOUJIに。


つづく

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