春の嵐

Previously on KOUJI


前回までのコウジは……


何度も期待させて消毒のみの診察。

愛しのコウジはズルい男。(歯医者)

東野幸治似だが先生の本名もコウジと判明。

お高めの最新レーザーで消毒してドヤるコウジ。

希望を打ち砕く長めの治療とレントゲン。

先送りの本歯被せ。

コウジの所に行く為に上着に入れた財布を忘れ、ドラッグストアで恥をかき、コウジを呪う。

唐揚げの鶏皮を齧ったせいで仮歯が取れ、コウジの元へ走るも、歯科助手の女性と受付嬢に軽くあしらわれ、次の予約日まで涙を呑んで耐える。

今日こそ終わりだと意気込むものの、土台作りと型取りだけだと知り、軽く絶望する。

セメント△番の発注ミス?により、歯科助手キリコ(仮名)とコウジの痴話喧嘩を聞かされる羽目に陥り、歯を被せるのは来週に持ち越しとなる。(憎い)


❈❈❈


 朝から冷たい雨が降っていた。

 もう何があっても驚くまい。時折、趣味で占う西洋占星術によれば、今は「水星逆行」の時期なのだ。体調不良、凡ミスや機械の故障、交通機関の遅延、メールや言葉の行き違いが増える時期である。

 3日前から鼻風邪を引いてなかなか治らないのも、KOUJIがミスをしたのも、私の心が壊されたのも星の導きならば仕方ない。高性能レーザー治療器が壊れなかっただけでも喜ばしいことなのだ。


 私は覚悟を決めて、歯科医院の扉をくぐった。待合室で診察を待つ間、壁に描かれた絵を見つめて過ごす。一本の木と、葉をくわえて飛ぶ小鳥たち。鳥はいいわね。自由に飛んでいけて。私の心はKOUJIに囚われたままなのに。


 診察台に上がると、すぐにキリコ (仮名)がやってきて、私の首元に薄いグリーンの紙ナプキンを巻いた。いつもは薄いピンク。これは「診察最後」という目印なのだろうか。

 肌寒さを感じていると、キリコが胸から下を覆うブランケットを掛けてくれた。今日は優しい。やはり最後だからかしら。

 KOUJIがやってきて、被せる予定の歯を見せて説明しながら治療開始。顔には口の部分だけ切り取ったタオルを掛けられ、ナプキン、ブランケットで覆われた今の私は口と手だけしか見えていない。まるでKOUJIから私を覆い隠そうとする誰かの意思を感じなくもない。


 何度かの微調整を終え、△番セメントで固められた私の歯。固まるまでの間、脱脂綿を口に突っ込みながら、KOUJIはキリコと別の患者の話で盛り上がっている。

 世界から隔離されてしまったのは私の方だろうか。急に孤独が胸に迫る。私はこの宇宙の法則に乗り損ね、永遠に虚空を彷徨うことになるのだ。と、絶望しかけた時、何かの福音のようにタイマーの電子音が聞こえた。


「はい、もういいですよ~。脱脂綿取りますね♪お疲れ様でした♪」


 やけにはしゃいだ歯科助手の声に我に返る。私はおずおずと礼を述べ、立ち上がる。すると、キリコが笑顔で私に告げた。


「治療は終了です♪お食事は30分後にお願いします。少し様子見て調整しますので、来週また来てくださいね♪」


 な、なんですって!?遠のきそうな意識を必死で引き戻し、私はフラフラと受付に向かった。受付嬢は雨音のような静かな声で私に尋ねる。


「来週以降はいついらしてもいいんですけど、いつにします?」

「な……なるはやで」

「分かりました。では空きのある来週の火曜日に」


 外に出ると、雨足が少し強まっていた。私は灰色の空を見上げ、胸の内に慟哭にも等しい嘆きが降り注ぐのを感じていた。


続く


ちーくしょー!!(#・∀・)

もう4月だぞ!

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