ジブリ作品のような空気感、そして胸を打つラスト

探検家ロカテリア、女性、御年70歳。
人生の半分をとっくに過ぎて、なんならゴールが近いのに「探検家」などという元気爆発な職業をしている彼女と。
「売れない小説家」という貧乏青年の出会いから、この物語が始まります。

ひょんな出会いから始まった共同生活は穏やかに続き、その描写もとても素敵なのですが。
後半のある日、対極な生き方をする二人が口論になり、年長者たるロカテリアが青年に「ある言葉」をかけます。

作中、その言葉はするりと飛び出さず一旦濁されるので、読者はもやっとするかもしれません。私自身、意地悪な言い方をすれば「随分勿体ぶるなぁ」と思わされました。

しかし、ラストで明かされたたった一言。
それを見た私は、感動して思わず涙ぐんでしまいました。



言葉を操る小説家という存在は作中の青年であり、作者様自身であり、カクヨムを出入りする書き手の皆様であり。

そしてこの短編を読む読者は恐らく様々な年代で、様々な境遇にいる。



その全てに、きっと届く言葉がラストを飾ります。



人間は皆人生の目標がそれぞれ違うけど、一生この言葉を大事にしたい。それくらいインパクトがあり、鮮やかで、美しい言葉がこの物語から貰えます。



言葉ってすごいな、というのが私の素直な感想です。
作中の青年はこの言葉を胸にひたむきに小説を書き続けたのだろうし、それがもう一つのラストを美しく彩ります。

読者はそれら2つの結末を持って、きっと青年と同じ感情体験が出来ると思います。率直に凄い。小説って、こんなことが出来るのか。短編小説って、こんなに存在感を発揮できるものなのか。

私はこのお話をブクマして、折に触れて読みたいなぁと思いました。よければこのレビューを読んだあなたも、そうなってくれたらいいなぁと思いつつ、長いレビューを〆たいと思います。



PS
それはそれとして、おばあちゃん冒険家という設定のロカテリアが超絶良すぎます。一作目から虜でしたが、このお話で好感度が天元突破してもうラブの域です。

え、今年はまだまだロカテリアおばあちゃんと一緒に過ごせるの!? やったー! 次のお題が楽しみです!!

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