同居人は魔法使い 16
「え……?」
今度は俺が歩くのを止めた。
「ヨミくん?」と隣にいた降魔さんが首を傾げる。俺は降魔さんの声には耳を貸さずに後ろを振り返る。
後ろには黒い髪を肩下まで伸ばした女性がこちらを凝視させていた。
「ジロちゃん、ジロちゃんだよね?」
女性は俺に問いかけるようにもう一度呼ぶ。
その時、声の主が誰だかはっきりと分かった。
俺はこいつのことを知っている。と言うよりも知らなきゃ可笑しい。
「
俺がそう呼ぶと向こうはピクリと反応した。斧研と呼ばれた女性は俺の方へとゆっくり駆け寄る。そして、斧研は嬉しそうな表情でこう言った。
「やっぱりジロちゃんだ。クラス違うから中々会えないけれど、久しぶりだね」
「まぁ、そうだよな」
「ジロちゃん……あ、えっと、ヨミくん。ごめんね、どうしても慣れなくて」
「いや、いいよ。別に気にしてないから」
俺が首を横に振ると斧研はほっと肩を落とした。
そりゃあ、仕方ない。俺が突然、呼び方を変えて欲しいと頼んだのだから。斧研が慣れないのも無理はない。
斧研は俺を一度見た後、後ろの方を目にし固まらせる。振り返ると降魔さんが立っていて斧研の姿に首を傾げていた。俺が手を振ると降魔さんもこちらに来る。
降魔さんは斧研を見て俺に尋ねた。
「ヨミくん、この人は?」
「あぁ、斧研って言うんだ。小学校からの付き合いで中学も高校も同じでさ」
「初めまして。
「おや、どうやらボクのこと知ってるんだね」
僅かに目を見開く降魔さんに斧研は「はい」と優しい声で頷く。
「ヨミくんからは、偶に降魔さんのお話を聞くんですよ」
彼女の言葉に降魔さんは納得の表情になる。そして、俺に視線を向けて含んだ笑みを浮かべた。
「へぇ、ヨミくん。ボクの話してるんだ」
「別に良いだろ。大体、アンタとしか家では過ごしてないんだから」
「所でどんな話をしていたんだい?」
「は?! ちょっと!!」
降魔さんは斧研の話に食いつきずいっと顔を近づける。斧研は終始固まると慎重に、と言うよりも頬を赤らめさせ、はにかんだ笑みを浮かべていた。
「やっぱり、実際に見るととってもお綺麗な方ですね」
「え? やっぱりって?」
ん? 待てよ。
それってまさか……。
「お、斧研!!」
俺が急いで止めようとするも、斧研の口が開かれる方が一足先に早かった。
「ヨミくんが前にあなたのことを話してしたんです。とっても綺麗な方だって」
「おい!! それ、本人の前で言うなよ!!」
俺が声を荒げて斧研に詰め寄った。彼女は「ごめん……」と申し訳なさげに謝る。だが、彼女の赤く染まった顔は戻らない。むしろ、さっきの謝罪には申し訳なさとは掛け離れた嬉しそうな声色だった。
斧研、こいつ絶対反省してないな……!!
恨み辛みの視線を斧研に向けるも綺麗な笑顔を浮かべてかわされる。仕方なく諦めると、今度は反対側から視線を感じた。嫌な予感がよぎり、目玉だけをその方向に送る。
すると案の定、話の話題の本人である降魔さんが目にハイライトを沢山持ちながら俺を見つめている。所謂キラキラなお目目ってやつ。
「ヨミくん……!」
「こっち見るな!!」
「ヨミくんがそんなこと思っていたなんてねェ。明日は槍でも降るのかなァ」
「槍って失礼だな」
「フフ、こういう珍しいこともあるんだ。何だか不思……」
ふと、今まで優しそうな笑みを浮かべていた降魔さんの表情が突然険しくなる。眉を顰め、二重の目を鋭くさせた。そして、素早く後ろを振り返る。
「降魔さ……」
俺が呼びかけようとするも、降魔さんは何やら何処かを睨みつけるように来た道を集中させる。美人は睨むと物凄く怖いと言われているが、まさにその言葉がピッタリと当て嵌まる。
何か、警戒している……?
その理由は一体何なのかを聞きたいが、俺はその気まずい雰囲気を打破しようと思い切って声を上げた。
「どうしたの?」
同時に降魔さんの肩が大きく揺れた。降魔さんは俺たちの方を向いて、ほんの僅かだけ目を見開かせていた。黄緑の鮮やかな瞳が大きく映る。
「ううん。何でもないよ」
気がつくと降魔さんはいつもの笑顔に戻っていた。
同居人は魔法使い 囀 @mimume
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