同居人は魔法使い 15
「今日はとっても楽しかったね」
「う、うん。そうだな」
お陰で土産がいっぱいになったけどな。
両手に大きな荷物を持ちながら、帰路へと着く。その中には水族館で販売されていたお菓子等が入っている。降魔さんは、隣のおばさんへのお返しと言って既に渡す相手を決めていた。
俺も、あとで委員長とかにでも渡そうかな。あとは……クラスの仲の良い奴とかにでも。
クラスメイトたちと再会するのはまだ少し先の話だが、渡すことを考えると何故か頬が綻ぶ。
みんな、一体何してるんだろ。苦瀬とかも何やってんだろうな。そう言やあいつ、彼女いるから一緒に出掛けたりしてんだろうな。
「今は彼女とか別にいいや」
今日の出来事で、俺はデートと言うものをよく分かった気がするのだ。女子との距離も友達と接する距離とは断然近かったし、何より色々と心臓が危ない。
そもそも俺が女性慣れしていないことを改めて知った。相手が降魔さんと言えど今日の性別は女性。
今日の俺の反応は明らかに挙動不審でしかなかったと思う。
まぁ、半分は降魔さんの突飛的な行動のせいでもあるが。
そんなことを考えていると降魔さんがふと、 話を持ちかけた。
「今日の夜ご飯何にする?」
「何でもいいや」
「ヨミくん。何でもいいが一番ダメなんだよ」
「だって思い付かないし。それを言う降魔さんは何食べたいんだよ」
「ボクはねェ、何でもいいかな」
「おい」
俺の真似をするな。
降魔さんに向かってキツく睨むも上手くかわされる。
「じゃあ、一個リクエストしてもいい?」
「な、何だよ」
「ボクね、ヨミくんが作ったカレーが食べたいな」
「は?」
俺は素っ頓狂な声を上げる。降魔さんは更に続ける。
「あの味忘れられなくてさ」
「忘れられないって普通のカレーだぞ?」
「ううん。ヨミくんが作ったってことが何よりの特別な証拠さ」
「特別ってまぁ、よく言うよなー」
「お世辞じゃないよ。毎日食べたいなって思う」
「毎日じゃ飽きるだろ」
「そんなことないよ」
「じゃあさ、今日は一緒に作ろうよ」
「え?」
「俺一人で作っても良いけど、俺も久しぶりに降魔さんが作ったカレー食べたいんだ。だから、二人一緒に作れば一石二鳥だろ?」
「フフ、そうだね」降魔さんは納得の笑みを見せた。
「そうだ。これ、降魔さんにあげる」
「えェ?」
首を傾げる降魔さんの前に、小さな紙袋を渡した。降魔さんはそれを手に取り不思議そうに見つめている。
「開けても良い?」その言葉に俺は頷く。
降魔さんは紙袋の入り口を開け、中身を覗いた。すると今度は目を見開かせながら中の物を取り出す。小さな紙袋から水色の宝石がちらりと覗かせた。
「うわァ。凄く綺麗……」
降魔さんは目を輝かせ、それをまじまじと見つめる。降魔さんの色白の手にあるのは、寒色のビーズで装飾されたストラップだった。丸いビーズの輪郭が形を整えて、クラゲの姿を表していた。
「こんな物しかあげられねーけど」
「ううん。てか、いつの間にこんな物を……どうして?」
「降魔さん、それ気になってたでしょ?」
「もしかして、見てたの?」
「べ、べべべ、別にたまたま見ちゃっただけだ!!」
本当の気持ちを知られたくなくて俺は下手にはぐらかしてしまう。
土産コーナーでクラゲのキーホルダーを見つめる後ろ姿に遭遇してしまい気が付けば御馬さんを目で追っていた。
結局のところ、クラゲの水槽エリアを訪れても俺にはゆらり泳いでるだけで何も分からなかった。反対に降魔さんは、遠くを見つめるようにぼんやりと眺めていた。
単に俺の感性が乏しいだけか?
いや、降魔さんが謎すぎるだけなんだ。そう言うことにしておこう。
ちらりと降魔さんを盗み見るとキーホルダーに夢中になっていた。降魔さんの瞳が心なしかきらりと光が輝いている。俺はその表情を見て安堵した。その時、パチリと降魔さんと目が合った。
俺は思わず逸らしてしまう。きっと、また揶揄われるのだろうと思い込んでいた。だが、クスクスと言う笑い声が返ってくることはなかった。
恐る恐る顔を上げると、降魔さんは俺を見て微笑んでいた。
「ありがとう。ヨミくん」
あまりの綺麗な笑みに俺は見惚れてしまっていた。
「別に。俺の方こそありが……いや、何でもない」
「ん? どうしたんだい?」
「べっつに!! 何でもねー!!」
大声を出して俺は降魔さんの横を通り過ぎた。
「待ってよー」後ろから声が聞こえる。普段とはまたソプラノ声に敏感になるも俺は知らないふりをした。
その途中、俺とすれ違った誰かが振り返った。
「ジロちゃん?」
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