同居人は魔法使い 6
「カレーって、あの?」
この前晩御飯で食べたことを思い出しながら言うと、うんうんと肯首する。俺は意外な答えに思わず落胆してしまった。降魔さんは首を傾げた。
「今日はやけに積極的だね。突然ボクの好きなものを聞いたりとかしてさ。何かあったのかい?」
「別に。あったとしても、降魔さんには関係ねーよ」
降魔さんから視線を逸らし、そう言い放つ。降魔さんは疑り深い表情で俺の顔を見つめる。穴が空きそうな程見つめられるも、俺は視線を合わせまいと知らんぷりし続けた。
やがて、観念したのか降魔さんは肩を落とし、椅子から立ち上がる。
「そろそろご飯作るから着替えてね」
「……分かった」
そう言って、俺は自室へとゆっくり向かった。
◇
「よし、今日は降魔さん居ない」
自由登校期間の初日。降魔さんは用事があるからと外出中である。つまり、この家には俺一人しかいない。
「降魔さんはカレーが好きって言ってたよな」
確か、カレールーはあったはず。この前スーパーで買ってまだ残っているから大丈夫だ。野菜も冷蔵庫に入ってある。
俺は冷蔵庫からカレーの材料を取り出し、台所に並べる。まな板と包丁を取り出し、野菜を一通り切っていく。
料理は学校の調理実習を受けたことと、時々降魔さんの手伝いでやったことぐらいだ。カレーは一緒に作ったことあるし、その記憶と半分は勘で任せている。
「玉葱は冷やしとけば目に染みることはないって聞くしなぁ」
それにしても、降魔さんの好きな食べ物がカレーだなんてな。蛇の心臓とか未確認生命体の肉とかもう少しグロテスクなものを想像していたが、中身を見ればありきたりなもので残念。
魔法使いって意外に庶民的なのか。魔法が使えるだけで他は一緒だったりするのか?
「ダメだ、全然分かんねぇ」
魔法使いなんて本ぐらいでしか見かけないんだから分かる筈がない。降魔さんについて知ることさえ難しいんだから尚更だ。
野菜を切り終わった所で俺は、ふととある事に気がつく。
「あ、ジャガイモがない」
冷蔵庫を確認するもジャガイモはなく、どうやら買い忘れたらしい。代わりとなるものを漁るも中々見当たらない。
俺が冷凍庫を覗き、一つの冷凍食品を取り出す。
「これ、いけるかも」
それは、フレンチフライドポテトの冷凍食品だ。フライパンに多めの油を注ぎ、揚げればすぐに出来立てが作れる。そして、電子レンチでも温めれば作れる。
ジャガイモはポテトと同一だし、なんとかなるだろう。
鍋とは別にフライパンを用意する。コンロに合わせて火を通し、油を多めに注ぐ。数分後になると、油の湖からブツブツと小さな泡が湧き上がってくる。
パチパチと跳ね上がる油に、冷凍済みのポテトを入れる。
「そろそろやるか〜」
それとは反対で鍋に、油を注ぐ。ある程度鍋が温まってきたら切った肉と野菜を炒める。全体に火が通ったら水を加えて煮る。
そこに、揚げ上がったばかりのポテトを入れる。その数分後、カレールーを入れて溶けるまで加熱する。
鍋の中でグツグツとカレーの具が泡を吹き、滑らかな黄色が広がる。徐々に香辛料のスパイシーな匂いが鼻に染みる。
顔を近づけて嗅ぐと咽せるからやめよ。
それにしても……。
「案外上手くいきそうだな……」
「あれ? 今日はヨミくんが作ってくれたんだ」
「っうわ!?」
頭上から降ってきた声に思わず肩をビクつかせる。見上げると、ベージュのトートバッグを提げて不思議そうな顔をする降魔さんがいた。
今日は仕事がないらしく、一人で何処かに出かけていたため、ロゴの付いた黒いTシャツとズボンでラフな格好をしている。
と言うか、今日は女性の姿なんだな。いつもより背丈が低く見える。
「降魔さん、帰ってたなら言ってよ」
「何度も言ったよ? ただいまって。でも、ヨミくん全然返事しないんだもん」
だもんって語尾を強調させるな。
でも、帰ってくる時はドアの音に気付く筈だから、それだけ俺が料理に集中していたってことなのかもな。
こう言うことは絵を描くこと以外なかったから驚きかも。
「それより、このカレーはヨミくんが作ったの?」
「まぁ、そうだけど……」
曖昧気味に伝えるも降魔さんは表情を綻ばせている。笑顔で見つめられ目を逸らすと、クスクスと笑われた。
「ご飯よそってもいい?」
「あ、もう炊けてるから良いよ」
「はーい。ありがとう、ヨミくん」
降魔さんは綺麗な笑みを浮かべて食器棚の方へと向かっていった。
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