第14話 秘密な二人

「萌音…………おい、萌音!起きろよ、おい!!」


「んーん?ああ凪くんじゃなーい?何ー?」


「何じゃねーよ、何じゃ!お前政府側に神機の話したって本当か?」


「したけどー。それがどうかしたのー?あと手………離してくれないかしらー?」


 4月26日午前1時、グリーマン研究所萌音の訓練所。グリッドアーマーの調整を済ませ、眠りについていた御造利萌音は西園寺凪に叩き起され、胸ぐらを掴まれていた。

 相変わらずのほわほわしたしゃべり方をする萌音にイラつくが、凪は一旦萌音を解放する。


「なぜ話した?俺らが回収するはずだった神機のはずだろ?お前が神機の研究をするだけでいいというからお前とも協力してるのに。軍に神機を渡そうとする意味はなんだ?」


 凪は萌音を問い詰める。


 当初の予定では暴食の神機は凪が奪還することになっていた。それなのに軍に渡る可能性を作った萌音が許せない凪である。


 西園寺凪は表向きではボーグリップ学園に通うただの生徒だが、実はグリーマン研究所日本支部室長補佐という役職についているのだ。


 凪と萌音は上司と部下の関係。普段は目的が違うこともあり衝突することの多い二人だが、神機を奪還という目的だけは同じであるため今は協力関係を築いている。


「んー、保険をかけたってとこかしらー。あなたのやってる生徒ごっこで作った子達だけで神機を回収出来るとは思ってないのー。だから友達のエマに頼んで情報をあげる代わりに研究させてって言ったのよー。」


「くそが、心配いらねーよ。ちゃんと神機は手に入れる。ただ軍が来るってのがかなりまずいんだよ」


「確かに鉢合わせるのはまずいわよねー。取り合いになって戦うことになるかもねー。大変ねー凪くん」


 大変とか言うなよと思う凪であったがもう萌音に何を言ってもしょうがないと思い、鉢合わせるのがまずい理由を具体的に話す。


「……へー、じゃあ隼人くんとその子は顔見知りなんだ」


「そうだよ。だからそっちが顔合わせるのが1番まずいんだよ。あー、どうしてこんなことになったよ!」


「でもその子変な子よねー?どうしてあなたなんかを手伝うのー?」


「約束したことがあんだよ。いいだろ別に。」


 説明を聞いた萌音は不思議そうな顔をしているが、凪は質問に大雑把に答え、冷蔵庫の奥から飲み物を取り出す。取り出したプラステックボトルの中の液体は緑と黒の入り交じった気味の悪い色をしている。


「よくそんな気味の悪い物飲めるわよねー」


「お前が作ったもんだろ。……飲まなきゃしょうがないだろ」


「行き過ぎた薬は毒にもなるのよー。あんまり使いすぎないでよねー」


 凪が液体を口に運ぶのをまじまじと見る萌音は凪に警告するする。そんなことは聞かず凪はペットボトルに口をつける。

 液体は不味くもなければ美味し訳でもない。ただただ飲む必要があると言い聞かせ、凪は毒だと言われたペットボトル1本分液体を飲み干してしまう。

 凪は飲み終えたペットボトルを握り潰し、ゴミ箱に入れる。


「色はともかく味は改良して欲しいとこだな。俺はまだやることあるからもう行く。」


「はいはーい。ちなみにどこ行くのー?」


「関係無いだろ。俺はお前に協力はしてやるが全部を教える必要は……!?」


 話を終え、凪は訓練所を出ようとすると背後か萌音が手を伸ばして近づいてくる。凪は咄嗟に萌音から距離をとった。


「あらー、残念ねー」


 萌音は残念そうにしながらまた自分の座っていた椅子に戻る。


 間一髪だった、と凪は少し冷や汗を流す。萌音の伸ばした手が自分に当たっていたらと思うと恐ろしいことであった。


 萌音のグリッド『情報の海を泳ぐ《ネットサーフィン》』は戦い向きのグリッドではない。しかし凪の知っている『情報の海を泳ぐ《ネットサーフィン》』は戦闘向きのグリッドなどより遥かに恐ろしいものなのだ。


「お前……今何かしようとしたな?」


 凪は怒りを露わにする。掴みかかってやりたかったが能力を使われても厄介。凪は離れた場所から威嚇する。


「えー、してないよー。私、信用ないかなー?ごめんって頭なでなでしてあげよーとしてただけなのにー」


「どうだかね。そもそも謝るつもりあるなら政府軍に最初から言うなよ……いや、お前は神機に触れればそれでいいのか。敵じゃねーのはありがたいけど厄介だよな、お前」


 凪は萌音のことを信用している訳では無い。まだ萌音の下について2年も経っていないのに、相手の全てを知ることは無理な話である。現に自分が神機と関わるためなら手段を選ばないような行動を取っている萌音に凪は頭を悩ませている。


 だが1つだけ確実だと思うこともある。萌音はただ神機を知りたいだけ。探究心の塊の萌音は神機に触らせる機会を与えていれば味方のままでいてくれるだろうと凪は思っている。


 凪は捨て台詞を吐いて部屋を後にした。


「信用はして欲しいんだけどなー。凪くんがなんか隠してるっぽいのは分かるけどー。私も同じだからしょうがないよねー、ふふふっ」


 萌音は凪が出て行ったのを確認して、モニターの画面に手を入れ、6枚の写真を取り出す。それを机に並べて萌音は考えることにする。


「こればっかりは私のグリッドでも分からないから頭使わないとねー」


 萌音は顎に手をやり、6枚の写真に目を通す。



『大人が1人、子供が1人、そして7つの首の蛇の絵』

『大きな大人が1人で手を挙げて立っている絵』

『7人の兵隊が槍を向けあってる絵』

『円の中にいる7人の兵隊とその円の上に立つ7つの蛇の頭の絵』

『7人の小さな兵隊が槍を持って7つの蛇の首を切る絵』

『切った蛇の頭に襲われる7人の兵隊の絵』




「ごめんねー凪くん。まだ凪くんは知らないと思うけど石碑は2枚じゃなくて実は6枚あるんだよねー。まだ他にもあるかもしれないけど。今はこれだけで考えてみよー」


 萌音は写真を並べ替えながら、自分の中で神の書を楽しそうに作っていた。







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空腹のドナウ ゴシ @54540054

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