第13話 グリーマン研究所

 4月25日の午後6時、グリーマン研究所日本支部の入口に到着したエマ・アルコーンは日本支部グリッドアーマー部隊に所属する榊隼人と河原木仁カワラギジンを連れて研究所内に入る。


 研究所の1階は中央に受付パネルが1つあり、少し離れてその周りを囲むようにして7つの太い透明な柱が立っているだけであった。


 受付に着くエマ達は受付パネルを操作し、今日会う予定であるグリーマン研究所日本支部室長、御造利萌音オツクリモネの名前を入力する。

 しばらくするとパネル画面に萌音との面会場所が表示され、経路通りに進むことを指示される。


 3人はパネルに指示された柱の中に入り、8階まで上がることにする。

 柱内の透明なエレベーターでゆっくりと上がって行くエマ達は2階、3階、4階とそれぞれの階にあった研究施設を1つずつゆっくり見ることができた。その中で隼人は6階を通る時に質問をする。


「河原木さん河原木さん。あれ何ですかね?あの絵が描いてある大きい石。蛇とか兵隊みたいなの描かれてるやつ。」


「さあな。昔の人が作ったものじゃないかな。昔は怪物退治とかしてたのかも」


「お前らは勉強というものをしてきとらんのか?あれは『神機の書』っていう神機に関することが描かれてると言われてる石碑よ。受験勉強でも写真問題で出るレベルの知識だぞ」


 エマは隼人の質問に呆れ顔で答える。隼人は写真で見たことあったと思い出し、河原木はなんの事やらという顔をしていた。


 隼人達が今見ている神機の書に描かれているのは、体1つに頭が7つある蛇が、7人の槍を持った小さな兵隊に首を切られているシーンである。


「後もう1つ石碑って見つかってましたよね?確か、槍を持った7人の兵隊が、切った蛇の頭に襲われてる絵でしたよね?」


「お、隼人は偉いぞー。それに比べて河原木は。戦闘でも負けてその上頭でも負けてたらどうしようもないぞ!少しは隼人を見習いなさい」


 隼人は欲望学の試験で、2つの石碑の写真から想像出来る神機の在り方について書けという記述問題を解いたのを思い出し、2つ目の石碑の絵をエマに言う。

 それを聞いたエマは、狭いエレベーターの中、河原木にしっかりしなさいと言いがら隼人の尻を撫でていた。


 エマの尻撫では普通の人がやる頭を撫でる行為と同義である。

 この人は下半身好きなんかと、正樹が前に言ったエマを股間の人という表現があながち間違ってないのかもと思う隼人であった。


「あの....その2つの石碑ってどういう意味があるんでしょうか?」


 河原木はエマにしっかりしなさいと言われたので、少しは知識をつけようと思い、2人に質問する。いつもぼーっとしてる河原木が成長しようとしている、答えねばと思う2人だが


「.......」


 分かるわけないだろと思いながら、早く8階に着くことを願った。








 8階に着き、少し廊下を歩くと扉が1つあり、扉の上には汚い字で「もねのしけんじょー」と平仮名で書かれた紙がセロハンテープで貼ってあった。


「......御造利さんてやばい人ですか?」


 隼人はエマに質問するが、面白いやつだよとだけ言って試験場に入る。


 萌音の試験場と言われるその部屋は入口付近にモニターやらボタンやらがぎっしりと並んでおり、ガラスの壁を挟んで奥には訓練をするであろうスペースが設けられていた。


「ごめんねー、わざわざアメリカから来てもらってー。私今やること多くて動けないのよー」


 ほんわかとした声が聞こえる。声の主は萌音らしいのだが、本人はどこにも見当たらない。隼人と河原木は萌音を探してみる。椅子の裏、机の下、ガラス向こうの訓練所。どこを探しても見つからない萌音だったがエマの顔を出しなさいという掛け声と共に本当に顔だけ出てきたのだ。


「ごめんねー、エマ。今ね、神田会と聖なる果実園の関係調べてる最中だったのー」


 試験室の複数あるモニターの1つから前髪のだらーんとした萌音が顔だけ登場するのだった。呪いのビデオとかで見るシーンに直面した隼人と河原木は雄叫びをあげて腰を抜かす。


「あ、あ、あ、顔。モ、モニターから顔が」


「ごめんなさーい。驚かせちゃったわねー。今出るから待ってねー、よいしょ

 よいしょ」


 あわあわする隼人に萌音は謝りながらモニターからどんどん飛び出してくる。


「萌音の能力は誰が見ても驚くね。大学の時からお化けでたって噂になるくらいだったもんな」


「私そんなに怖い見た目してないもん。エマとかより断然私の方が可愛いんだから」


 大学学生時代の思い出を語るエマに萌音はエマより怖くないと言う。それに対してエマが私も可愛わよと言い出した時は吹きそうになる隼人だが、吹いて、しばかれる河原木を横目で見て、笑うのを堪えて良かったと思う。


 萌音の持つグリッドは『情報の海を泳ぐ《ネットサーフィン》』というものらしく、自分が入ったモニターから半径20kmであれば個人の持つデータなども閲覧できるというものらしい。


「それ凄くないですか?」


 能力を聞き、びっくりする隼人に萌音は


「でも私貧弱だからなのかなー。セキュリティーとかウイルスとかに負けちゃうから見たいもの全部見れるわけじゃないのよねー。あいつらほんと邪魔なのー」


 と能力の欠点を話す。


「大学の時もテストの答え盗み出そうとしてセキュリティーに負けてボロボロになってたな、萌音。あの時のお前は.......いや、今はそんなこと話に来たんじゃなかった。わざわざ呼び出した要件は?」


 河原木をしばき終えたエマは楽しそうに萌音に話しかけるが、すぐさま目的を思い出し、呼び出した理由を聞く。


 萌音がエマ、正樹、河原木を呼び出した理由は2つあった。1つは欲望国から得た情報を元にアップデートしたグリッドアーマーの模擬テストを行うこと。そしてもう1つは先ほど萌音が口にしていた神田会と聖なる果実園がやろうとしてることを伝えるためだと言う。


「ヤクザと宗教団体の話がどうしたって言うの?わざわざ呼び出してまで言うことなの?」


 エマは萌音の2つ目の理由に対しては理解ができなかった。関東を仕切るヤクザである『神田会』と食べ物は神の恵みだと説く宗教団体『聖なる果実園』。

 その2つの団体が何をするかは知らないが、警察ではなく、わざわざ軍人を呼ぶほどのことかと思う隼人達であった。


「私が説明するより見せた方が早いわね。よいしょよいしょ」


 萌音はモニタ画面に手を入れ、1枚の手紙を取り出す。


 萌音の能力は得た情報を引っ張り出すことも可能で、神田組幹部のメールを具現化してエマ達に渡す。エマ達はその手紙を読んでみることにする。




 南原ナンバラ


 神機を運び入れる算段がようやくついた。

 5月4日の午後6時から起動テストを果実園の地下で行う。

 教祖であるお前が動かせないなら計画は変更せざるを得ない。

 動かせない場合は教祖を降りてもらい、動かせる人間を教祖として上げる。

 暴食に特化したお前のことだから大丈夫だとは思うが。

 あと時間には遅れるなよ。

 俺たちで新しい国を作る。また連絡を入れる。


 劉玄リュウゲンのphoneからの送信






「.......神機を運び入れる?なんですかこれ」


 メールの文章を読み終えても理解出来ない河原木にエマと隼人は呆れてしまう。


「簡単に説明すると神田組が暴食の神機を手に入れたからそれを使って国を作ろうって劉玄って人から南原って人にメールされてます。でもこれ本当なんですか?なんか嘘くさいというか。そんなどこぞのヤクザが見つけましたーてなるもんなんですか神機って?」


「.......いや、嘘とも言いきれないのよ隼人。神田組ってのは『西』と繋がりがあると言われてる反社勢力なの。もしヤクザとしてではなく国絡みで動いてるなら有り得ないことじゃないのよ」


「西ですか......」


 隼人はエマの説明でヤクザでも神機を見つけることが出来る可能性があると認識を改める。そしてエマは


「でもなんでこの情報をわざわざアメリカ軍に所属してる私に見せるの?今は同盟を結んでるアメリカと日本だけど神機を手に入れたら独占して世界政府加盟から脱退、日本の敵になることも有りえるのよ。普通ならわざわざ私を呼ばないで日本軍だけに情報を伝えるはずよ。何考えてるの、萌音?」


 萌音にきつく、現実味のある話をぶつける。だが萌音は不思議そうな顔で返答を返す。


「私はねー。神機の研究をできればいいのー。エマなら神機を手に入れたら私を頼ってくれると思って。他の人より先に研究したいのー。それに私は日本とかアメリカとか政治的な話は興味無いのー。ごめんねーエマ」




 御造利萌音の欲はただ知ること。


 生まれてから死ぬまでを知らないものを知るだけの人生でいいと思っている萌音にとって政治的なことはどうでもいい。ただただ自分の元に神機が集まり、研究して解明できればと願う萌音であった。




 萌音の言葉に頭を抱えるエマだったがすぐに気持ちを切り替えた。


「榊隼人!、河原木仁!」


 エマの掛け声に隼人と河原木は背筋を伸ばす。


「榊、河原木両名には神機奪取の特別任務を言い渡します。直ちに日本支部の全グリッドアーマー隊員を招集しなさい。集まり次第詳しい作戦を伝えます。なお本作戦は秘密保持を要すると考え、他言することを一切禁じます。行動に移せ!」


 世界政府アメリカ支部の軍部技術主任としてではなく、特殊戦略アーマーグリッド部隊総主任という立場でエマ・アルコーンは命令をする。


 隼人と河原木はエマに敬礼し、急いで部屋を飛び出そうとする。






「あのー、まだグリッドアーマーのテスト終わってないですよー」


「.......両名直ちに御造利室長の指示の元、テストを開始しなさい。行動に移せ!」


 萌音の指摘後、エマは真っ赤な顔で2人に指示を出す。自分達も忘れてたのは悪かったと思う2人は、エマを笑ってやらず、行動に移すのであった。





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