第12話 ゆったりとした1日

 4月21日、なんてことないただの平日。

 楓正樹は家で昼飯の納豆そうめんを食べながら原稿用紙を見つめていた。


 なぜ平日の昼間に学校にも行かず、ペンを片手に持って昼飯食べているか。

 当たり前のことだ。




 停学になって反省文を書かされているからだ!!!




 停学期間は1ヶ月。

 罪状は器物破損、校内での暴力行為、グリッドの無断使用。

 それ以外に学校で重い罪ってあるのか?と思うほどに勢揃いした罪状。

 退学になってもおかしくないレベルの罪状であったが、何故か1ヶ月の停学で済んでいるのである。

 美音、凪、そして隼人のせいでえらい目にあったと、自分のことは棚に上げ、3人を責める文章しか考えつかず筆が止まる正樹であった。


「入学して2日で1ヶ月停学休みって。やっぱり俺、学校向いてないんじゃないかな」


 くわえ箸で天井を見つめる正樹は、引き続き反省文を書くため、今から書く内容である、凪との戦いの後の話を思い出す。








 美音は正樹に昼休みに起きた出来事について話す。


 事の発端は美音が正樹と行動し始めたことにあったのだ。

 元々美音が1年の頃から、ホーグリップ学園には「楓美音親衛隊部」と言われる、男子生徒のみで結成された非正規の部活動があったらしい。

 親衛隊員の主な活動は美音を陰ながら見守り、支えること。

 美音様はみんなの美音様というのが親衛隊達が掲げる理念で、美音に近づく男は陰ながら排除していたようだ。そのせいで美音の友達である凪とも因縁があるようで昔から凪と親衛隊は犬猿の仲だったたらしい。

 そんな美音親衛隊が今回排除しようとしていたのが正樹なのであった。

 美音と登校し、一緒に飯を食べる男など親衛隊からすれば殺害対象でしか無かったのだ。

 だが正樹は美音の実の弟ということもあり、力ずくでというのは美音に嫌われると思い、直接美音に相談するためゴミ処理場に呼び出したのだ。


 呼び出され、親衛隊から正樹と離れて欲しい、くっつき過ぎであると指摘された美音は


「あんたたちに関係なくない?てかあんたたちの方が離れなさいよ。正樹と昼ごはん食べたいのに呼び出したりして。今まで邪魔して来なかったから放ったらかしにしてたけど。そんなに邪魔するなら親衛隊なんていらないわよ!!」


 と親衛隊を突き放したらしい。


 1年間美音を想い、尽くしたと自負のある親衛隊は逆ギレして、美音に手を出そうとしたとこに犬猿の仲の西園寺凪が割って入ったのだという。


 倒れてた男子生徒達は、手を出そうとしたのを見た凪が美音を守るために蹴散らしたもの。

 破れたスカートと額の血は倒れた男子生徒にスカートを掴まれた際に、振り払おうとしたら破れてしまい、離れた勢いで壁に頭を激突して怪我しただけ。

 凪が腕を掴んで美音の怪我を見ようとしたところに参上した正樹だという。


「ってことだから悪いのはこいつら。勘違い正樹ー.....あいたたた」


 心配して損したと思った正樹は美音の横っ腹をつねる。

 凪に対しても勘違いだったとはいえ多少の怒りは残っている。


「グリッドまで出して戦う必要全くなかったよな。途中で言ってくれれば気づいたのに」


「楽しくなっちゃたんでしょ、凪のことだから。でもドラゴンまで出してこいつ!うちの可愛い正樹が焦げ焦げになったらどうするつもりだったのよ!!」


 美音は倒れ込む凪に蹴りを連発する。


 だが気を失っているのか、凪は一向に動かない。


「気を失ってる?えっと....このドラゴンどうするんだ?」


 正樹と美音は取り残されたドラゴンを見上げると、屋上から何かが降ってくるのが見えた。



 断頭ギロチン



 黒い大きな刀がドラゴンの首をはね、その勢いのまま刀は地面に突き刺さる。

 地面はひび割れ、周りの木々は倒れて行く。


 やばいと思い正樹は、凪と美音を抱え、最後の力でその場から離脱するため飛び上がる。


 黒い刀を片手に砂埃すなぼこりの中で呑気そうに手を振る人影。


「何してくれんだよ、隼人!」


「助けに来たぞー正樹ー」


 隼人は刀を突き上げ、龍の首取ったどーと叫んでいた。








「.......って、器物破損は隼人のせいじゃないか!」


 筆を進める正樹は反省文の結末まで書き終え、机にペンを叩きつける。


 1ヶ月の休みとなると他の生徒と進行度にかなり開きが出てくるだろう。

 それに問題を起こした生徒だとバレていれば、友達もできず、勉強を教えて貰うことも出来ない。

 学園戻ってもいいことないであろうとうなだれる正樹の元に


「正樹様、お友達がお見えになっていますよ」


 信者であるスティーブンが隼人を連れてきたのだ。


「お、今反省文書き終わったのかー。おっそー」


「誰のせいで書かされてると思ってるんだ!問題解決したって時にさっそうと登場して、地面割って停学とか。ギャグ漫画の主人公じゃないか」


「元はお前が勘違いして西園寺先輩に殴りかかったから悪いんだろ!お前がグリッドでドラゴン消しといてくれればこんなことなってないんだよ!!」


 無理を言う隼人の唇を正樹は指でつまむ。負けじと隼人も正樹の耳を引っ張り、涙目でじゃれ合う。


「ってことだから、久しぶりにグリッドで特訓しようぜ。グリッド使わなくなってから何年経つよ?昨日の体たらくを見ててわかった。お前弱くなってるよ。昔ならあんなドラゴン一瞬だっただろ?」


「いや、使えるようにならなくていいんだって、俺料理の勉強するって決めたんだから.......あれ?お前見てたって言った?」


「あ....いや、その....てへ」


「てへじゃないよ。西園寺先輩とグリッドでやってたのただ見て?終わってたのに地面割ったの?お前それなんか意味あるんか?見てたなら最初から来るか最後まで来ないかのどっちかにしろよ!!」


 ドラゴンに気づいてすぐさま斬りかかったのではなく、様子見した上で誰も得しない行動をしたと告白する隼人には、仏の正樹でも許せないものがあった。


「わかった付き合うよ。泣いてごめんて言わせるから覚悟しろよ、隼人」


 正樹は着物では動きずらいと思い、着替えるために1度自室に戻ると隼人に伝え、待ってもらう。


「そういや、さっき俺を連れてきてくれたおじさん。どっかで見たことあるような気がするけど....まあいいか」


 隼人は一瞬だけスティーブンのことを考えたが、自分の知り合いじゃないからいっかと思い携帯で動画を見ながら待つことにした。








 楓の樹の裏山の奥深く。

 森を抜け、大岩が多く転がる平坦な土地で正樹と隼人は特訓を始める。


「行くぞー正樹ー。1000本ノック開始ー」


「1000も出来ないから。せめて10にしてくれ」


 隼人はスタートの掛け声と同時にグリッドを発動。黒い大剣で地面から生えた岩を稲の栽培かのように切り分け、浮いた岩山を大剣の側面で正樹目掛けて打つ。

 正樹はその人1人大の岩を地面に着く前にハングリーパペットで喰らい尽くす。

 子供の頃によくやっていたノック改め、グリッドノックを2人どちらかがギブアップするまでやるのだった。


 結果は21回目のノックで正樹がギブアップ。体力に自身のある隼人に、どちらかと言えば貧弱な正樹がかなうはず無かった。


「次グリッド鬼ごっこやるか?」


「勘弁してくれ。俺が悪かったから。飯食おうや」


 隼人が意気地無しーとおちょくってくるのを無視して、正樹は木陰に入り、スティーブンが持たせてくれたおにぎりを食べることにする。


「お前さっきも飯食ってなかったか?」


「グリッド使ったら腹減るんだよ」


「まさか、グリッドって空腹度が関係してるのか?」


「暴食やからね、ってんなわけない。ただ動いたから減ってるだけだよ」


 暴食のグリッドって空腹度関係あるんかなと一瞬隼人の冗談を受け入れ、正樹はつっこむ。


 実際のところはどうなのだろうか。未だに欲望研究でグリッドの発動条件や使用上限などについては解明されておらず、グリッド能力持ちの人間はその辺を感覚でやっているのだ。


「そういや今度俺エマさんの護衛でグリーマン研究所に行くことになってたんだ。お前も来てみるか?」


「いや、いいわ。てか無理だろ。たしかエマさんて股間の人だろ?」


「いや、女性を股間の人って失礼な」


 正樹の冗談に隼人は笑う。


 グリーマン研究所とは欲望学について研究する世界最大の機関であり、今ある欲望に関与する知識やグリッドなどはグリーマン研究所でほとんど解明されているものである。ちなみにホーグリップ学園もグリーマン研究所が出資している学校である。

 グリーマン研究所は軍の施設ではなく個人が持つ法人団体で、政府は欲望についてのことはグリーマン研究所に委託してる形を取っているのだ。


「こないだ話したアメリカでの対談あったろ?そこで欲望国から得られた情報を元にしてグリッドアーマーのパワーアップをするんだと」


 グリッドアーマー。グリッドの能力を上げる機体らしいが、ただでさえ強い隼人に必要なものなのかとも思う正樹。だが神機とやるならそれでも足りないという隼人。

 それを聞いて神機に少しだけ興味が出る正樹だったが、自分とは無縁なものを知っても意味無いと思い、隼人に聞くことはしなかった。


「そういやお前、西園寺先輩に連絡したや?こないだ別れ際に電話しろって電話番号貰ってただろ?」


「いや.......まだしてないね」


「一応連絡しといたら?殴った件はお前が悪いんだし。それに先輩の言うことはできるだけ聞くのが、社会に出るためには必要な事だよ正樹くん」


 隼人の社会知ってるみたいな口ぶりにはイラッとする正樹だが、勘違いして殴ったことは確かに謝るべきことだと思った。


「でもあの人変な人なんだよなー。関わりたくないなー。俺の事忘れててくれないかなー」


 隼人に言われても全然乗り気になれない、社会不適合者の正樹くんであった。




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