第4話 ロサンゼルス会談
ロサンゼルス大使館正門前。アーサーとチェンは大使館を取り囲む警備隊によって拘束されていた。
「なんでこんなことなるよ。どうする?殺るか?」
「気が早いですってチェンさん」
何かにつけて殺ると言うのは良くないとアーサーはチェンに注意する。
なぜアーサーとチェンが拘束されているのか。事の発端はアーサーのロサンゼルスの街を見て歩きたいという願いをチェンが止めれなかったことから始まる。
アーサーは自国の建造物にロサンゼルスの街並みを取り入れることに興味があった。元々は世界政府が手配した車で大使館に入る予定であったが、アーサーが街を見ながら歩いて行くと言い、ホテルを1人飛び出してしまったのだ。急いでアーサーを追いかけ、捕まえるチェンだが、捕まえたのがもう大使館付近ということもありアーサーを説教しながら歩いて大使館に向かった。
そして大使館につくも、2人は会談の場に近づく怪しい不審者とみなされ、警備隊に取り押さえられているのだった。
「だってこいつら私達の話聞く気ないよ。協力してあげる立場の私達をこんな扱い。許せないね」
「チェンさんの全身真っ黒姿が怪しいと思われてるんですよー。なんで私服で来ちゃったんですか」
黒スーツのアーサーと黒装束に黒マスクのチェン。警備隊が怪しいと思えるような格好であるのは間違いないと思う。
だがチェンの言うことも理解できる。事情を説明したにも関わらず、警備員たちは
「子供がくだらない嘘言ってないで帰れ」
の一点張り。
対談の前に問題を起こすのは避けたかったが、仕方ないかもしれない。時間に間に合わないのは傲慢国の王として恥ずべきことだと思うアーサー。チェンの言葉に乗るようで嫌だが、少し力を見せてやれば頭の硬い大人たちも分かってくれるであろうと思い、アーサーがグリッドを発動しようとすると
「お前らが捕まえているのは傲慢の王と嫉妬の王だぞ。今すぐ手を離せ!」
正門の方角から若い男の声がする。その声に従い、警備員たちはすぐさまアーサーとチェンを解放する。警備員たちはその場から離れ、正門が視界に入ると、そこには自分達と変わらないくらい若い、スーツ姿の少年がいた。
「榊から王は2人とも若いと聞いておいて良かったです。大変失礼致しました。政府を代表して謝罪させていただきます」
少年は深々と頭を下げる。そして少年はアーサーとチェンを対談の場へ案内すると言う。
チェンは怒りを抑えられないのか、体についた砂ぼこりをはらい、目が血走ったままで少年の後をついていく。
だがアーサーはついて行く前に確認しておきたいことができた。
「俺が言うのもなんだけど政府の首脳会談に君のような若い子がいるのはおかしいよね。君....グリッド使いなんじゃない?」
アーサーが考えを口にすると同時に、チェンはまたどこから取り出したのか、クナイを片手に臨戦態勢に入った。
「待ってください。戦う気なんてないですよ。申し遅れました。私の名前は
天馬は警戒をといて貰うため自己紹介を始める。
だがチェンの目には天馬が余計怪しく映ってしまう。
16歳の子供にしては言葉遣いや立ち振る舞いが出来すぎている。明らかに訓練された子供であり、神機を奪うために用意された刺客ではないかと疑ってしまう。
チェンが一息いれ、腰を低くしたところでアーサーはチェンの前に手を伸ばす。
「いや、確認したかっただけなんだ。わざわざ大使館の前で襲って来るなんて思っていないよ。襲撃するなら軍事演習中、ホテルの風呂の最中でも出来ただろうからね。ただすごく興味があったんだよ。大臣の護衛となればさぞかし強いグリッド能力を持っているのだろうって」
アーサーは言葉の通り、子供のような興味の眼差しを天馬に向けていた。その表情を見たチェンは呆れかえり、血走った目も元に戻っていた。
「機会があればお披露目しますが、その機会がないことを願っています。それにアーサー様のお目にかかる程のグリッドではないと思いますよ。私のグリッドは武器を出したりするような戦い向きのものではないですから」
そう言うと天馬は、誤解がとけたのを確認した後、再び対談の場へと2人を案内するのであった。
「護衛に来てるのに戦う系じゃないグリッドてなんだろね、チェンさん」
「美味しい茶菓子でも出してくれるグリッドとかじゃないか、ふっ」
「....チェンさん」
天馬のグリッドに興味が湧いてしょうがないアーサーに、チェンは冗談で返し、1人で笑っている。チェンも冗談とか言えるのだなと思うアーサーであった。
暗い部屋の中、中央に置かれた大きな丸机に天井から照明が当たる。アメリカ、日本、イギリス、東ロシアの首脳陣が横並びに座り、対面する形でアーサーとチェンは席に着く。
部屋を暗くして何の意味があるのか。警戒心が上がる欲望国陣営に対し、アメリカ大統領であるガラン・ヴィンセントが察したかのように口を開く。
「緊張なされるなお2人方。こういう場での雰囲気に慣れないのだろう。これも国を担う者であれば、経験して損は無いですぞ。これから先も友好関係を築くため、このような席は多くなることでしょう。今のうちに慣れることをおすすめしますぞ」
ガランはアーサーとチェンに話しかける。アーサーとチェンは口には出さないが同じ思いを持っていた。
「雰囲気作りで部屋暗くする、漫画とかの見すぎじゃないか?」
2人が警戒していたのは、雰囲気がどうと言うより、首脳陣の後ろに隠れているであろう護衛の方であった。天井の照明は中央の机とアーサー達を含めた首脳陣6人だけにあたり、他は真っ暗で何も見えない状態。
天馬を確認した段階で、グリッド能力持ちの人間が多く配置されていることは容易に推測できる。暗闇から急に襲われたら、と思うとグリッドの能力に自信のあるアーサーとチェンも警戒をとくことは出来なかった。
「いや、ガラン殿。お2人は雰囲気ではなく、暗闇から襲われないかを警戒してるのではありませんか?協定を結んだとはいえ、元々は警戒し合った国同士。雰囲気は大切かもしれませんが、お2人のことを考えるのであれば明るい場の方が話も円滑に進むのではありませんか?」
日本の総理大臣、獅童天蓋は護衛陣に明かりをつけるよう申し出る。
暗闇の奥からパチンと電源ボタンの音がなり、部屋は一面明るくなる。
するとそこには6人の首脳陣に加え、黒スーツの護衛が12人もいたのだ。
「ご配慮感謝します、獅童殿。本当のところいつ襲われてもおかしくないと思い、ずっと警戒してたのです」
え?まともに話せるんだ。
アーサーはチェンの綺麗な話言葉を聞き、驚きを隠せなかった。
その驚きに気づいたチェンは机の下でアーサーの太ももをつねる。
「いや、気が利かず申し訳ない。若いお2人方はこういう経験がないから緊張されてると思いましたぞ。心配なされるな。協定を結んだのだ。襲ったりはしませんぞ、ガハハハハ」
ガランは声高らかに笑う。
ガラン・ヴィンセント
またの名を鉄拳制裁のガラン。ガランの名は鎖国状態の欲望国でも有名であった。
2020年にアメリカで起きた強欲国の人間数百人による大型ショッピングモール襲撃事件をガラン1人で解決した話は2人の耳にも入っていた。たまたま買い物をしていた一般人のガランは武器も持たず、素手でテロリスト達を一掃してしまったという。
その後ガランはスーパーマンの生まれ変わりなどとニュースで取り上げられ、国民の支持を得て、今の地位にいるのだ。
ガランの話は噂話程度に思っていたアーサー達であったが、いざ対面してみるとその話が嘘とは思えないくらいデカいのだ。身長は2m近くあり、ガタイもアーサーとチェンを足しても勝てないくらいゴツい。
正直、護衛いらないだろうと思う程の強者の風格で、国を任されている政治家には到底見えなかった。
「今1番襲われたくないのはガランね。あれはやる人よ」
チェンはガランの高笑いの中、ヒソヒソとアーサーに伝える。アーサーもチェンの意見には同意見だ。
素手でという話であったが、たぶんグリッドが使えるのであろう。欲に特化した強欲国の人間、グリッド使いも多くいたことだろう。それを1人でなぎ払うというのはグリッド使いであれ相当なこと。
まさか軍隊以上に政治家を警戒するべきだとは思ってもみなかった2人であった。
「しかしあれですな。お2人ともお若のに国を治める王であるという。国の建国はお2人とも自分でなされたのかな?」
この男は痛いとこをつく。天蓋の質問にアーサーはなんと答えるべきか頭を回転させる。
アーサー・ルシリエッタとチェン・チーリン。
2人は『王だった』のではなく『王になった』のだ。
17歳のアーサーと20歳のチェン。2人の歳と欲望国ができた年数を比較すれば、建国したのがアーサー達でないことは考えたらわかる事だ。
だが途中から王になったことを認めてしまうと『神機は奪っても使用可能である』ということが公に露呈してしまう。
さてどうするものかと思うアーサーに天蓋は
「協定を結んだとはいえ言えないこともありますわな。今の質問はお話出来る関係を築けた時にでも返答してください。興味本位とはいえ足を踏み入れすぎましたかな?」
と困ってる様子をすぐに察し、話を切り上げたのだった。
獅童天蓋。
情報は皆無だがアーサーとチェンは天蓋への警戒もある意味怠るべきではないと共通認識を持つこととなった。
これ以上天蓋に話されるのはまずいと思い、アーサーとチェンは会談の本議題である強欲国と憤怒国の話、そして世界政府の軍備増強の手伝いについて語り始める。
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