第2話(2)強行手段

「そうだ、それがいい」


 強平が自らの発言にうんうんと頷く。


「か、勝手に納得しないでもらえる⁉」


「いい考えだと思うんだが……」


「どこがよ!」


「生徒会として同じ時間を過ごせば、互いのことをよく知ることが出来るだろう?」


「そ、それはそうかもしれないけれど……」


「理解も深まる……」


「う、うん……」


「もうそうなれば……」


「そうなれば?」


「知人という関係性と言っていい。違うか?」


「そ、それはまあ……」


「……心おきなくビンタが出来るな」


「い、いや、そうはならないから!」


 美蘭が右手をぶんぶんと左右に振る。


「ならないか?」


 強平が首を傾げる。


「ならないわよ!」


 美蘭が声を上げる。


「ふむ……」


 強平が顎に手を当てる。


「だ、大体ね! 繰り返しになるけれど!」


「うん?」


「知り合いにビンタなんかしないから!」


「知り合いの度合いにもよるだろう?」


「知り合いの度合い?」


 美蘭が首を捻る。


「ああ」


「どういう意味よ?」


「そのままの意味だ。顔見知り程度よりは、例えば生徒会としての活動をともにこなして、多くの時間を一緒に過ごせば、親しい間柄になれる……」


「ま、まあ……」


「……というわけでビンタだ」


「い、いや、というわけでとはならないから!」


 美蘭が左手をぶんぶんと左右に振る。


「なんでだ?」


 強平が首を捻る。


「こっちがなんでだなのよ⁉」


「互いの親密さが深まったわけだろう?」


「深まったとしても、そういうことには普通はならないのよ!」


「そうか……」


 強平が腕を組む。


「そ、そもそもとしてね!」


「ん?」


「生徒会の活動なんてほとんどしていないんでしょう⁉」


「む……」


「なんか準生徒会とかが実質動いているとかなんとか……そんなところに入ってもしょううがないわ。交流を深める余地がないでしょう」


「むむ……」


「違う⁉」


「……」


「………」


 強平が黙る。沈黙が流れる。


「……そこはあれだ……」


「あれって?」


「なんらかの活動機会を設けるさ」


「活動機会を設けるって、そんなことが……」


「出来るさ、なんてたって会長だからな」


「う……」


 胸を張る強平に対し、今度は美蘭が言葉に詰まってしまう。


「どうだ?」


「ど、どうだって言われても……」


「生徒会に入れ」


「い、いや……」


「嫌なのか?」


「嫌っていうわけじゃないけど……」


「生徒会活動などをすれば、内申点も大幅にプラスされると思うぜ?」


「う、う~ん……」


 美蘭が腕を組んで考え込む。目の前にいる人物の正体は最上戦隊ベストセイバーズのレッドセイバーである。その者に接近しておくのは悪いことではない。むしろそれがこの学院に潜入した目的のようなものだ。


「悪い話じゃねえと思うんだが」


「…………」


「……………」


「………………」


「そんなに考え込むことか?」


「……生徒会に入ったら、目立つんじゃないの?」


「? まあ、それは多少はな」


「女子会員もいないっていうじゃない」


「ああ、そう言われると男所帯だな……」


「ふむ……」


 美蘭はさらに考え込む。出来る限り学院生活を平穏に過ごしたいのだ。潜入調査をしているものが目立ってしまってはいけないだろう。いわば敵地に飛び込んできたようなものである。時にはリスクを冒す必要も出てくるだろうが、それは今ではないはずだ。レッドセイバーが誰かということは掴めた。現時点ではそれで十分ではないのだろうか。


「どうした?」


「……やっぱり……」


「やっぱり?」


「生徒会へのお誘いはお断りするわ」


「!」


 強平が驚く。


「じゃあ、そういうことで……」


 美蘭が立ち去ろうとする。


「ま、待ってくれ!」


「待たない」


「そこをなんとか!」


「ならない」


「この通りだ!」


「⁉」


 美蘭が驚く。強平が土下座をしてきたからだ。


「お前しかいないんだ! 頼む!」


「ちょ、ちょっと!」


 美蘭が困惑する。


「……これは一体全体どういうことですか?」


「‼」


 美蘭が声のした方を見ると、整った青みがかった短髪に眼鏡をかけた、スラっとした体格の青年が生徒会室に入ってきていた。

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