第6話(4)調査報告
「ふう……」
朝に生徒会へ正式に入会し、昼休み、そして放課後の生徒会室での業務を終えた美蘭が長い廊下を歩く。この時間帯には、もう校舎に人はいない。
「……」
美蘭は用心深く周囲を確認した後、サッと空き教室へ入る。端に寄せられていた机と椅子を運んで、そこに座り、机の上に鞄から取り出した端末を置き、操作する。
「……定期連絡、定期連絡、こちらミスコンプリート。どうぞ……」
美蘭が端末の画面に向かって話しかける。
「……聴こえておるぞ、ミスコン……」
「! 首領……⁉」
画面の向こうから年老いた男性の声が聴こえ、美蘭は驚く。
「どうした、ミスコン?」
「ミスコンプリートです……首領御自ら、どうなさったのですか?」
「部下からの報告を直接聞いて何か問題があるのか?」
「い、いいえ、問題はございません……」
美蘭は思わず頭を下げる。もっとも、首領の姿はこちらからは見えない。
「よい、頭を上げろ……」
「は……」
「潜入調査の報告を聞こう……」
「はい……わたしの予想通り、我が『悪の組織』にとって忌々しい敵、『最上戦隊ベストセイバーズ』はここ、『最上学院』に通っていました」
「通っている……ということは?」
「ええ、この学院の生徒たちです」
「若いとは思っておったが、学生だったとはな……」
「ベストセイバーズの五名はこの学院の生徒会を構成するメンバーです」
「! な、なんと……」
首領の口調に驚きの感情が混ざる。
「それぞれ学院内でも一目置かれています」
「ふむ……灯台下暗しというべきか……案外目立つ存在だったのだな」
「ええ……ですので……」
「む?」
「わたしは本日、その生徒会へ入会することに成功しました」
「! それは重畳……流石の手際だな」
「ありがとうございます」
「……ということはだ」
「はい、お察しの通り、ベストセイバーズ各人との接触をそれぞれ開始しております」
「ふむ、それは朗報だ……」
首領が満足気に答える。
「現時点での各人について報告させて頂きたいのですが……」
「ああ、構わん、報告せよ」
「は……ではまずピンクセイバー……正体は桃新愛一郎、生徒会の書記を務めております」
美蘭が端末を操作して、愛一郎の画像を表示させる。
「ピンクセイバーは男子か。てっきり女子かとばっかり思っておったわ……」
「……お言葉ですが」
「ん?」
「ピンク=女という価値観はもう古いものです。アップデート為された方が賢明かと」
「そ、そうか……」
「続けます。この桃新ですが……」
「うむ……」
「自らを『最愛』だと誇っております」
「最愛?」
「ええ、要は自分大好きです」
「ナルシストというわけか?」
「必ずしもそういうわけではありませんが、それに近いかと……後は女装趣味を持っていて、女装した姿も褒めてもらいたがっています」
「はあ⁉」
「……続いてはグリーンセイバーですが……」
「い、いや、なにかとんでもないことを聞いた気がするのだが……」
「……続けます」
「ピンクセイバーについてもう少し聞きたいのだが……」
「生憎、時間は限られております。次の報告事項へ移りたいのですが」
「あ、ああ、悪かった……続けてくれ」
「はい、グリーンセイバー……正体は文緑速人、生徒会の庶務を務めております」
美蘭が速人の画像を表示させる。
「む……画像が乱れておるようだが?」
「申し訳ありません……たいへん素早く、なかなか写真に納めることが出来ませんでした」
「……つまり、これはブレているということだな」
「ええ、なんと言っても『最速』を誇る男ですから……」
「最速か……」
「スピードが段違いです……その反動で、焦らされたい願望があるようです」
「はああ⁉」
「次のメンバーですが……」
「ま、また気になる言葉が耳に入ったのだが……」
「時間がございませんので」
「つ、続けろ……」
「はい、イエローセイバー、正体は黄田谷雄大、生徒会の会計を務めております」
美蘭が雄大の画像を表示させる。
「ふむ……なかなかいい体つきをしておるな。パワーがあるのも頷ける」
「『最大』を誇っております」
「最大か……」
「敵ながら人間として器の大きさを感じます。その為、多少罵られても平気なようです」
「はあああ⁉」
「続けます……ブルーセイバー、正体は青港正高、生徒会の副会長を務めております」
美蘭が正高の画像を表示させる。
「む……なかなか賢そうだな……」
「眼鏡=賢いというのは少々安直な発想かと……」
「なにか言ったか?」
「いいえ、なにも。この青港が実際の生徒会の職務を取り仕切っております」
「そうか」
「自らのことを『最高』と誇っております」
「最高か……」
「自分を高く評価している反動か、他人に上から見下されたいようです」
「はああああ⁉」
「続けます……レッドセイバー、正体は赤千代田強平、生徒会会長を務めております」
美蘭が強平の画像を表示させる。
「こやつがリーダーか……」
「直情型のきらいはありますが、一応はリーダーとして尊重されているようです」
「ふむ……」
「『最強』を誇るだけあって、その戦闘能力はズバ抜けております」
「最強か……」
「その反動なのでしょうか……自分を痛めつけて欲しいようです」
「はあああああ⁉」
「報告は以上です」
「よ、よく分からんことがいくつかあったのだが……?」
「詳細については調査を続行します」
「う、うむ、これからもその調子で頼む……」
「はっ、お任せください……見回りが来たようです。この辺で失礼します」
美蘭は一礼して、通信を切った。
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