第1話(4)最強のレッド

「クモ怪人さま!」


 全身黒タイツの者が蜘蛛の顔をした怪人に近寄り、敬礼する。


「……どうだ?」


「はっ! 学院の敷地内への侵入に成功しました!」


「それは分かっている!」


「ええっ⁉」


「ええっ⁉じゃない! 現にこうして私もここに立っていいるではないか!」


「た、確かに……」


「感心している場合か……」


 クモ怪人が呆れる。


「えっと……」


「敷地内の重要施設は抑えたのか?」


「はっ! 現在それを実行に移そうと検討している段階です!」


「検討している場合か! さっさと実行に移せ!」


「はっ! おい!」


 戦闘員が他の戦闘員を促す。クモ怪人が笑いながら呟く。


「ふふっ、この最上学院を占拠してしまえば、大変なことになるぞ……」


「そうなのですか?」


「ああ、ここには政治家や官僚、大企業の社長などの金持ちの子どもらが多数通っている……ということは……どうなる?」


「ど、どうなるのですか?」


「わ、分からんのか?」


 クモ怪人が戸惑う。


「まったく分かりません!」


「まったく分からないのに作戦行動をしているのか?」


「はい!」


「返事は良いが……疑問は抱かないのか?」


「ええ、まったく! 我々は悪の組織に絶対の忠誠を誓っていますから!」


「そ、それは結構なことだが……少しは考えた方が良いと思うぞ?」


「我々は所詮、組織の歯車です! 歯車が意思を持つ必要はありません!」


「う、うむ……ある意味見上げた意識だ……とはいえ、目的は把握しておけ……この学院の子どもを人質に取れば、多額の身代金が得られる……」


「! な、なるほど!」


「理解したら、行動に戻れ」


「はっ!」


「待て!」


「!」


 赤いスーツを着た男がその場に駆け付ける。


「てめえらの悪事もそこまでだぜ!」


「レ、レッドセイバー⁉ 何故にこんな場所に⁉」


 クモ怪人が驚く。


「何故って、そりゃあ……」


「そりゃあ?」


「い、いや、言う必要がねえだろう!」


「ちっ……」


「あ、危うく引っかかるところだったぜ……」


「む……」


 クモ怪人が周囲を見回す。レッドセイバーが尋ねる。


「どうした?」


「貴様一人か? 他の連中はどうした?」


「今日は俺一人だ」


「なにっ⁉ な、舐めているのか?」


「それはこっちの台詞だ。たったそれだけの人数で、この巨大な学院を占拠しようだなんてよ……考えが甘すぎるぜ」


「ふん! 貴様さえ片付ければ、それもたやすいことだ! おい、かかれ!」


「はっ! 行くぞ! お前たち!」


 クモ怪人の指示を受け、戦闘員たちがレッドセイバーを包囲する。


「戦闘員か……雑魚が何人集まったって一緒だぜ?」


 レッドセイバーが呟く。


「我々は戦闘員の中でも選抜された面々だ! お前にだって勝てる!」


「へえ、選抜ねえ……それじゃあ、お手並み拝見といこうかな?」


「舐めるなよ! 行け!」


「おおっ!」


「えっ……?」


「おりゃあ!」


「……」


「がはっ⁉」


 向かってきた一人の戦闘員をレッドセイバーがパンチ一発で倒す。


「ああっ⁉ この部隊でも随一の力自慢をワンパンで……な、ならば、お前が行け!」


「うおおっ!」


「いや……」


「うおりゃあ!」


「………」


「ぐはっ⁉」


 レッドセイバーが向かってきた戦闘員の突進をかわし、キック一撃で倒す。


「ああっ⁉ この部隊でも随一のスピード自慢を一撃で……そ、それならば……!」


「お前ら、数の優位性というのを活かせよ……」


 レッドセイバーが呆れたように呟く。


「はっ、そ、そうか! よし! お前ら、一斉にかかれ! どおりゃあ!」


「よっと! ほっと!」


「なにいっ⁉ あ、当たらん⁉」


 一斉に飛びかかってきた戦闘員たちをレッドセイバーは軽々とかわしていく。


「お前らの攻撃が当たるかよ……そらよ!」


「げはっ⁉」


 レッドセイバーの反撃で、戦闘員たちはあっという間に全員倒される。


「ふん、選抜と言ってもこんなもんか……むっ⁉」


「はははっ! 隙ありだ! レッドセイバー!」


 レッドセイバーの体にクモ怪人が放った糸が絡みつく。


「むっ、蜘蛛の糸ってやつか……」


「ただの蜘蛛の糸ではないぞ! 鋼鉄並みの硬度を誇る! 貴様はもう動けん!」


「……ふん!」


 レッドセイバーが蜘蛛の糸を引きちぎってみせる。


「‼」


「『最強』の俺の前では無駄なことだ……そらっ!」


「ごはあっ⁉」


 レッドセイバーのパンチでクモ怪人は遠くへ吹っ飛ばされる。


「終わったな。戦闘員どもの確保は警察にでも任せて……さてと……」


 レッドセイバーは生徒会室に窓から戻り、変身を解いて、強平に戻る。美蘭が問う。


「……私の前で変身しても良かったの?」


「まあ、知られても構わない。アンタには聞きたいことがあるからな……」


「! 聞きたいこと?」


 美蘭が身構える。潜入がバレたのかと考えていると、強平が近寄ってくる。


「いや、頼みたいことと言った方が良いか……」


「頼みたいこと? !」


「頼む! 今朝みたいに俺をビンタしてくれ! 俺が強すぎるあまり、誰も俺の体を満足させてはくれないんだ! だが、アンタの強さなら、俺の望みは叶う!」


「⁉ へ、変態⁉」


 目の前で土下座する強平を見て、美蘭は困惑する。

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