第4話(3)合同スポーツテスト

「え?」


「ええ?」


「え……?」


「ええ?じゃないの! なにが模範たるべき存在よ! 話している内容が全然模範的じゃないわよ!」


「う……」


「む……」


「むう……」


「これ以上、くだらない話を続けるっていうのなら帰るわよ!」


 美蘭が生徒会室から出ていこうとする。


「い、いや、ちょっと待て……」


 強平が慌てる。


「待たない!」


「お、おい!」


 強平が正高に目配せする。


「お待ち下さい、亜久野さん。雑談はここまで、本題に入りましょう」


「……本題?」


 美蘭が立ち止まって振り返る。


「ええ、本日のお手伝いをお願いしたいことです」


「ふむ……」


「……お願い出来ますでしょうか?」


 美蘭が頷く。


「ええ、その為に来たのだからね」


「それはなによりです」


 正高が微笑を浮かべる。


「へへっ……」


「良かった~」


 強平と雄大も笑みを浮かべる。


「それじゃあ、行こうぜ」


「そうだね~」


「どこに?」


 美蘭が問う。


「行けば分かるさ」


「いいえ、亜久野さんと向かうのは私だけです」


「はあ⁉」


 正高の言葉に強平が驚く。


「……合同スポーツテストの視察……」


 校庭に来た美蘭が呟く。


「ええ、そうです」


 正高が頷く。


「わざわざ生徒会が視察する必要があるんですか?」


「この最上学院のスポーツテストは、なかなか特殊な種目もありますから」


「特殊な種目?」


「ええ、安全性などを確認しなくてはなりませんから」


「そういうのは教員の方の仕事では?」


「生徒自治という観点から、生徒会としても視察しないわけにはいきません」


「そういうもの?」


「そういうものです」


「……特殊な種目というのは?」


「例えば……」


 正高が視線を向ける。それに合わせて美蘭も視線を変える。


「おらあっ!」


「!」


 サンドバッグをパンチで殴り飛ばす強平の姿があった。


「す、すげえ!」


「前回の記録を更新しているぞ!」


「へへっ、当たり前だろうが、『最強』だぞ?」


 強平が鼻の頭を擦る。


「えっと……」


「『サンドバッグ殴り飛ばし』ですね」


「スポーツテストに必要ですか⁉」


「我が校伝統の種目です」


「は、はあ……うん?」


「そらあっ!」


「‼」


 大きなドラム缶を投げ飛ばす雄大の姿があった。


「おおっ!」


「こっちも記録更新だ!」


「ふふん、当然、『最大』だからね~」


「あ、あれは……」


「『ドラム缶投げ飛ばし』ですね」


「また聞いたことのない種目が⁉」


「あれも我が校伝統の種目です」


「は、はあ……なるほど、安全性の確認……理解出来ました」


「それは良かった。視察を続けましょう。あちらは百メートル走です」


「よ、良かった……普通の種目もあるんですね……⁉」


 美蘭が驚く。百メートルをとてつもないスピードで走る、緑色の髪の、細身の青年を見たからである。全力疾走したにもかかわらず、青年は涼しげな表情をしている。


「ま、また記録更新だ!」


「おいおい、マジで金メダル狙えるだろう……!」


「か、彼は……?」


「生徒会庶務、文緑速人ぶんりょくはやとさんです」


「は、速い……」


「……副会長、お疲れさん。参加しなくて良いの?」


 速人と呼ばれた青年が正高の姿を見て、近寄ってくる。


「はい、生徒会の職務ですから」


「『体育館側面登り』、新記録が出たぞ!」


「! 『最高』の私の記録を破るとは……ちょっと行って参ります……!」


「あ……」


「ふふっ、油断しているからだよ……この最上学院の『最速』の自分にとっては無縁の話だけれどね……『最強』、『最高』、『最大』もいいけれど、最速には敵わないよね、そう思わないかな? っていうか、君かわいいね、この後お茶でもどうかな?」


「て、手が速い⁉」


 速人から声をかけられ、美蘭が面食らう。


「どうかな?」


「……わたしの気が向いたらね。その時は永遠にこないかもしれないけれど」


「‼」


 速人が美蘭をじっと見つめる。美蘭が慌てる。


「……あ、い、いや、今のは……!」


 校庭内にブザーが鳴り響く。速人が舌打ちする。


「サブグラウンドの方に悪の組織が侵入した⁉ すぐに駆け付けられるのは……自分だけか……『セイバーチェンジ』!」


「えっ⁉」


 速人が左腕に着けた腕時計を操作すると、緑の眩い光に包まれ、ヒーローの姿になる。


「悪の組織をさっさっと片付けてくるよ」


「グ、グリーンセイバー⁉」


 颯爽と走り出していった速人の背中を美蘭は驚きの目で見つめる。

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