第3話(3)活動の手伝いはカツ丼から

「いかがでしょうか?」


「い、いや……」


「あまり乗り気ではないようですね……」


「え、えっと……」


「生徒会に入るということはそれなりにメリットがあるかと思いますが……」


「う、う~ん……」


 美蘭が腕を組んで考え込む。目の前にいる二人の正体は最上戦隊ベストセイバーズのレッドセイバーとブルーセイバーである。彼らに接近しておくというのは決して悪いことではない。それがこの学院に潜入した目的のようなものだ。


「悪い話ではないと思いますが」


「……」


「そんなに考えることでしょうか?」


 正高が首を捻る。


「………メリットは内申点がプラスされるということでしょう?」


「ええ、そうです」


「あまりそれはね……」


「進学にも有利ですよ?」


「進学ですか……」


 美蘭が苦笑する。そこまでこの学院にいるつもりはさらさらない。


「進学などについては考えていないと? 余計なお世話かもしれませんが将来の進路についてはそろそろ考えておくべきだと思いますよ」


「それについてはご心配なく」


「え?」


「い、いや、こちらの話です……」


「はあ……」


「ふむ……」


 美蘭はさらに考え込む。出来る限りは学院生活を平穏に過ごしたいのだ。潜入調査をしているものがいたずらに目立ってしまってはやはりいけないだろう。正高が口を開く。


「それならば、提案があります……」


「提案?」


「生徒会の活動を少し手伝ってもらってから判断するというのは?」


「活動を手伝う?」


「ええ、この学院のことも色々と把握出来ると思いますが……」


「はあ……」


 美蘭が自らの顎に手を添える。確かに考えてみれば、学院内で色々と動き回るならば、『生徒会会員』という肩書があれば、なにかと便利ではある。


「……どうでしょうか?」


「ふむ……分かりました。手伝わせていただきます」


「それは良かった」


 正高は笑顔を見せる。


「………」


「それでは早速ですが、お手伝いいただきます」


「い、今からですか?」


「はい」


「なにをするんですか?」


「こちらにどうぞ……」


「は、はい……」


 正高が生徒会室の外に出る。美蘭が続く。


「お、俺も行くぞ!」


 強平が後に続く。三人はある場所に着く。広いスペースに生徒たちが大勢いる。


「こ、ここは……?」


「学生食堂です」


「が、学食⁉ な、なんて広さ……」


 美蘭が周囲を見回しながら唖然とする。


「二千人は一斉に食事出来るようになっているからな」


「え、ええ……」


 強平の言葉に美蘭は驚きをあらわにする。正高が眼鏡の縁を抑えながら呟く。


「なんといっても当学院は超のつくマンモス校ですからね」


「こ、ここでなにを?」


「さあ? 知らね」


 美蘭の問いに強平が首を傾げる。美蘭が戸惑う。


「し、知らねって……」


「やれやれ……何をしに来たのですか、貴方は……」


 正高が呆れる。


「う、うるせえな、なんだよ」


「……学食の新メニューを試食します」


「へっ?」


「既に用意してもらっています。こちらです」


「! こ、これは……」


 正高が指し示した先には、大きな器に山盛りになったカツ丼が置いてあった。


「『ギガントカツ丼』だそうです。正式にメニューに取り入れるかどうか、わたしたち生徒会の判断を仰ぎたいと……」


「え、ええっと……」


 美蘭が困惑する。強平が苦笑気味に首を傾げる。


「判断するまでもないんじゃねえか?」


「……この話を進めたのは貴方ですよ、会長。書類にちゃんと目を通さないからこんな事態になるのです……」


「えっ……ちっ……さ、三人で食えば余裕でイケるだろ! 行くぞ!」


「ええっ⁉ 私たちも⁉」


「仕方がありませんね……」


 強平に促され、美蘭と正高も席につく。しばらくして……。


「む、無理……」


「こ、この量はさすがに……」


「く、苦しいですね……」


「なんだ、なんだ、揃いも揃って情けねえなあ~」


「!」


 身長が高く、大柄な体格で、黄色い髪をした青年が強平たちを覗き込む。正高が呟く。


「生徒会会計、黄田谷雄大きたがやゆうだいさん……やはりここは貴方にお願いします」


「良いぜ~」


「! あ、あっという間に平らげた……」


「トレーニングが足りてないんじゃねえか? 時代はマッチョだぜ~。お前らはヒョロ過ぎる。この最上学院の『最大』のオイラを見習いな~」


 雄大と呼ばれた青年が力こぶをつくる。美蘭が呟く。


「『馬鹿の大食い』とも言うわよね……」


「‼」


 雄大が向かいに座る美蘭をじっと見つめる。美蘭が慌てる。


「……あ、い、いや、今のは……!」


 学食内にブザーが鳴り響く。強平が舌打ちする。


「悪の組織が侵入したか⁉ 現在出動出来るのは……くそ、腹一杯で……」


「わたしもです……」


 雄大がすっと立ち上がる。


「……生徒はみんな避難したな。オイラが行くよ……『セイバーチェンジ』!」


「えっ⁉」


 雄大が左腕に着けた腕時計を操作すると、黄色い眩い光に包まれ、ヒーローの姿になる。


「ちょっと待ってな。悪の組織をちゃちゃっと片付けてくるぜ~」


「イ、イエローセイバー⁉」


 窓から飛び出していった雄大の背中を美蘭は驚きの目で見つめる。

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