第3話(2)要請

「頼む!」


「頼みます……!」


「た、頼まれても!」


「お願いだ!」


「お願いします……!」


「お、お願いされても!」


「この通りだ!」


「この通りです……!」


 強平と正高は揃って頭を下げる。


「い、いや、頭を下げられても……」


 美蘭はただただ困惑する。


「おい、青港、困っているじゃねえか」


「貴方のせいでしょう……」


 強平の言葉に正高は呆れた様子を見せる。


「なんで俺のせいになんだよ」


「貴方は少々……いや、かなり強引過ぎます……」


「ああん?」


「もっと紳士的にお願いしないと……」


 見下して欲しい云々は果たして紳士的なのだろうかと思ったが、美蘭はとりあえずは黙っておくことにした。


「紳士的だと?」


「ええ」


「それならば話は簡単じゃねえか」


「はい?」


 正高は首を傾げる。


「青港、お前は遠慮しろ」


「……意味が分かりかねます」


 正高は眼鏡の縁を抑える。


「分かるだろうが」


「納得いく説明を求めます」


「はあ……いいか? 俺は会長で、お前は副会長だ」


「……それがなにか?」


「なにかじゃねえよ、ここは会長に譲るべきだろうが」


「……意味が分かりません」


「分からねえだと?」


「ええ、さっぱり」


 正高が眼鏡をクイっと上げる。


「分かるだろうが。副会長は会長に譲るべきだ」


「べきだと言われてもね……」


 正高が苦笑する。


「なんだよ」


「それでは……」


「あん?」


「私が抱えている生徒会の業務をお譲りしてもよろしいのですね?」


「なっ……⁉」


「助かります」


「こ、断る!」


「断る? 副会長は会長に譲るべきなのでしょう?」


 正高が首を傾げる。


「そ、それとこれとは話は別だ!」


「随分と都合の良いことをおっしゃいますね……」


「う、うるせえな!」


「言うに事を欠いて、うるさいとは……」


「や、やかましい!」


「それも同じことでしょう……やはり……」


「やはり?」


 強平が首を捻る。


「……貴方は生徒会長の職にふさわしくありませんね」


「な、なにを……⁉」


「今の問答でもそれは明らかです」


「お、俺は選挙で選ばれたんだよ! 覚えているだろう⁉」


「あの選挙もかなりの僅差だったでしょう」


「き、僅差でもなんでも勝ちは勝ちだ!」


「よく意味の分からない……やたら勢いだけはある演説で生徒の人気をかっさらっただけに過ぎません……」


「その人気がなによりも大事なんだろうが!」


「貴方には色々と問題があります……」


「問題だと?」


「その強さを鼻にかけて、他校の生徒たちといさかいを起こしたことも一度や二度ではないと聞いています……」


「! そ、それは……」


 強平がばつの悪そうな顔をする。


「どうやら事実のようですね。これは由々しき問題ですよ」


「あ、あれは他校のバカどもに絡まれていたうちの生徒を助けただけだ!」


「だからと言って暴力を振るうというのは感心しませんね」


「暴力じゃねえよ! ちょっとだけ痛い目に遭わせてやっただけだっつうの!」


「物は言いようですね」


「け、警察沙汰になっているわけでもねえ、相手も納得しているんだろう⁉」


「……脅したのでは?」


「ああ言えばこう言うやつだな!」


「違いますか?」


「ふざけんな! そんなことするわけがねえだろうが!」


「ふむ……まあいいでしょう……」


「ったく……」


「赤千代田……会長、貴方の弾劾はまた機会を見て……」


「ちっ、しつけえな……!」


「それよりも……」


「ん?」


 正高が美蘭に視線を戻す。


「見下してくださいますか?」


「は、話が戻った⁉」


 美蘭が戸惑う。正高が重ねて尋ねる。


「いかがでしょうか?」


「い、いや、そう言われても……」


「俺へのビンタが先だ!」


「先も後も無いから!」


 美蘭が声を上げる。


「……」


「な、なにか?」


 黙って自分を見つめてくる正高に美蘭が首を傾げる。


「先日、会長からもお話があったようですが……」


「え?」


「私の方からも要請させていただきます」


「よ、要請?」


 美蘭が首を捻る。


「亜久野さん、生徒会に入ってくださいませんか?」


「ええっ、ま、また、その話⁉」


 美蘭が面食らう。

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