第3話(4)最大のイエロー

「ハチ怪人さま!」


 全身黒タイツの者がハチの顔をした怪人に近寄り、敬礼をする。


「……どうだ?」


「はっ! 学院の敷地内に侵入成功!」


「うむ……」


「各ポイントに散らばりました!」


「うむうむ……」


「続いての指示をお願いします!」


「ああ、私は体育館に向かう」


「はい!」


「生徒をはじめとする学院の関係者たちを体育館へと誘導しろ」


「はっ!」


「体育館に集めた後は……私のこの針で刺す……」


 ハチ怪人が自らの尻のあたりから生えている鋭い針をさする。


「……」


「なんだ?」


「い、いえ……」


「気になることがあれば言ってみろ」


「い、いや、別にないです……」


 戦闘員が右手を左右に振る。ハチ怪人が重ねて尋ねる。


「ないことはないだろう。言ってみろ」


「よ、よろしいのですか」


「ああ、構わん」


「えっと……その針で刺すのですか?」


「そうだ」


「何の為に?」


「! な、何の為にだと?」


「ええ」


「そ、それはあれだ……」


「あれ?」


 戦闘員が首を捻る。


「針で刺すことによって、刺した者を自由に操ることが出来るのだ……」


「……本当ですか?」


「いや、試したことがないからよく分からんが……」


「えっ⁉ 試したことがないんですか⁉」


 戦闘員が驚く。


「あ、ああ……」


「……大丈夫なんですか?」


「そ、そんなことを心配する必要はない!」


「すみません!」


 戦闘員が再び敬礼をする。


「……まあいい、それでは、貴様も持ち場につけ」


「………」


「なにかまだ気になることがあるのか?」


「あ、い、いいえ……」


「構わん、言ってみろ」


「……関係者を体育館に集めるということですが……」


「そうだ」


「一人一人刺すのは効率が悪すぎるのでは?」


「…………」


「どうなのでしょうか?」


「ええい! やかましい! 一番確実な手段であろうが!」


「ははっ!」


 戦闘員が三度敬礼をする。


「……よし、それでは私に体育館に向かう……!」


「待ちな!」


「!」


 黄色いスーツを着た男がその場に駆け付ける。


「お前らの悪だくみもそこまでだぜ~!」


「イ、イエローセイバー⁉ どうしてこんな場所に⁉」


 ハチ怪人が驚く。


「それを言う必要があるか?」


「まあ、無いが……」


「あえて言うなら……」


「い、言うのか?」


「悪の臭いを嗅ぎつけたまでだよ」


 イエローセイバーがマスクを軽く擦ってみせる。


「ふ、ふざけるなよ!」


「いやいや、大真面目なんだけどな~」


「……うん? 貴様一人か? 他の連中はどうしたんだ?」


「ああ、今日はオイラ一人だよ」


「なにっ⁉ な、舐めているのか? おい、かかれ!」


「はっ! 行くぞ! お前たち! イエローセイバーを包囲しろ!」


「戦闘員か……やめとけよ、怪我するぜ?」


「我々は戦闘員の中でも訓練された面々だ! お前にだって勝てる! 行け!」


「おおっ!」


「……!」


「がはっ⁉」


 向かってきた一人の戦闘員をイエローセイバーが軽々と投げ飛ばす。


「ああっ⁉ な、なんて力だ⁉」


「オイラと力比べなんて、まったく良い度胸しているね~」


「な、ならば! この部隊でも屈指の俊足のお前が行け!」


「うおおっ!」


「うおりゃあ!」


「ぐはっ⁉」


 イエローセイバーが向かってきた戦闘員の突進を冷静に見極めて、投げ飛ばす。


「ああっ⁉ この部隊でも屈指の俊足を……お、お前ら、一斉にかかれ! どおりゃあ!」


「ふん……」


「げはっ⁉」


 イエローセイバーの反撃で、戦闘員たちはあっという間に全員倒される。


「馬鹿正直に群がってきてくれて、助かったぜ……むっ⁉」


「はははっ! 隙ありだ! イエローセイバー!」


 イエローセイバーの懐に入ったハチ怪人が針を刺そうとする。


「……ふん!」


「‼ は、針が折れた⁉ なんて固い筋肉だ……!」


「『最大』マッチョなオイラの前では無駄なことだよ~そらよっ!」


「ごはあっ⁉」


 イエローセイバーによってハチ怪人は遠くへと投げ飛ばされる。


「終わったな。戦闘員たちの確保は警察にでも任せようか……さてと~」


 イエローセイバーは生徒会室に窓から戻り、変身を解いて、雄大に戻る。美蘭が問う。


「……私の前で変身しても良かったのですか?」


「ああ、ここにいたか。まあ、知られても構わない。君にお願いしたいことがあるからね~」


「! お、お願いしたいことですって?」


 美蘭が身構える。雄大が近寄ってから大柄な体を屈める。


「お願いだ! さっきみたいにオイラを罵ってくれ! オイラは最大と呼ばれるくらい器は大きい。だから、思いっきり罵倒されたいんだ! 君の遠慮のない物言いにピンと来た!」


「⁉ へ、変態⁉」


 目の前で土下座する雄大を見て、美蘭は困惑する。

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