第5話(4)最愛のピンク
「サソリ怪人さま!」
全身黒タイツの者がサソリの顔をした怪人に近寄り、敬礼をする。
「ふむ……首尾はどうだ?」
「はっ! 学院の敷地内に侵入成功しました!」
「ふむ……」
「各員、各ポイントに展開準備が整いました!」
「ふむふむ……」
「続いての指示をお願いします!」
「ああ、私はこの駐車場にある車をあらかた破壊する。バスを除いてな」
「はっ!」
「リストアップしておいた、生徒をはじめとする学院の関係者たちをここに連れてこい」
「ははっ!」
「ここに集めた後は……私のこの針で……」
サソリ怪人が自らの尻尾の先端にある大きな針をゆっくりと上向かせる。
「……」
「ん? どうかしたのか?」
「い、いえ……」
「なにか気になることがあるならば言ってみろ」
「い、いや、別にないです……」
戦闘員が右手を左右に振る。サソリ怪人が重ねて尋ねる。
「ないことはないだろう。言ってみろ」
「よ、よろしいのですか?」
「構わん」
「えっと……その針で始末してしまうのですか?」
「そんな訳が無いだろう」
「え?」
「集める意味をよく考えてみろ。人質として活用するのだ。それくらい分かるだろう……まあ、それだけではないがな」
「それだけではない?」
「……ただ人質にするだけではあまりにも芸が無い……私のこの針を刺し、毒を巡らせて体の自由を奪い取ってしまうのだ」
「な、なんと……」
「万が一逃げられてしまっては面倒だからな」
「な、なるほど……」
「貴様も持ち場につけ」
「ははっ!」
戦闘員が再び敬礼をしてその場を離れようとする。
「……よし、それでは私も車のタイヤをパンクさせるか……すぐには追ってこれないようにしなくてはならないからな」
「待て!」
「!」
桃色のスーツを着た男がその場に駆け付ける。
「あなたたちの企みもそこまでです!」
「ピ、ピンクセイバー⁉ ど、どうしてこんな場所に⁉」
サソリ怪人が驚く。
「悪の気配を感じ取ったまでです……」
ピンクセイバーが両手を広げながら呟く。
「悪の気配だと?」
「ええ……如何にも小悪党がいますよって感じがしてね」
「こ、小悪党だと⁉」
「気に障ったのなら申し訳ないです」
ピンクセイバーがわざとらしく礼をする。
「……ん? 貴様一人か? 他の連中はどうした?」
「ああ、今日はボク一人です」
「なにっ⁉ な、舐めているのか?」
「舐めているわけではありません。ただ、すぐに駆けつけられるのがボクだけだったんです」
「ちっ、一人で来たことを後悔させてやる! おい、かかれ!」
「はっ! 行くぞ! お前たち! ピンクセイバーを包囲しろ!」
「戦闘員連中か……やめといた方が良いですよ? 怪我するだけです」
「我々は戦闘員の中でも特に訓練された面々だ! お前にだって勝てる! 行くぞ!」
「おおっ!」
「……!」
「おおおっ!」
「……‼」
「おおおおっ!」
「……⁉」
ピンクセイバーは戦闘員たちからの攻撃を食らうがままになる。
「はははっ! なんだよこいつ! こっちから攻撃し放題だぜ!」
「へへっ、ビビっちまったんじゃねえか⁉」
戦闘員たちが笑う。
「……」
「がはっ⁉」
戦闘員に対し、ピンクセイバーが反撃する。戦闘員たちが倒れる。
「ああっ⁉ な、なんだ⁉ どうした⁉」
サソリ怪人が驚く。
「足りないですね……」
「ちいっ! ならば私が自ら……! 行くぞ! ピンクセイバー!」
ピンクセイバーの懐に入ったサソリ怪人が尻尾を振り、針を突き刺す。
「……む!」
「毒を食らえ!」
「……むう……」
「はははっ! これでもう動けまい! ……なんで動けるのだ?」
サソリ怪人が首を傾げる。ピンクセイバーがため息交じりに呟く。
「だから、足りないんですよ……」
「な、なにがだ⁉」
「『愛』が‼」
「あ、愛だと⁉」
「『最愛』を誇る……自分自身のことを最も愛するボクの前では多少の毒など、わずかなスパイスにはなっても、なんの障壁にもなりえません! えい!」
「ごはあっ⁉」
ピンクセイバーの放った強力な衝撃波によってサソリ怪人は遠くへと吹き飛ばされる。
「……終わりましたね。戦闘員たちの確保は警察に任せましょう……さてと……」
ピンクセイバーは生徒会室に窓から戻り、変身を解き、愛一郎に戻る。美蘭が尋ねる。
「……わたしの前で変身しても良かったの?」
「今さら知られても構いません。他のメンバーの正体も見たのでしょう?」
「え、ええ……」
「それよりも貴女にお願いしたいことがありまして……」
「! お、お願いしたいこと? ちょ、ちょっと失礼……」
嫌な予感がした美蘭がその場を離れようとする。
「待ってください!」
「ええっ⁉」
生徒会室を出ようとした美蘭の前に愛一郎が先回りする。身構える美蘭に対し、愛一郎がゆっくりと近寄ってから、その小柄な身を屈める。
「お願いです! さっきみたいにこれからもボクを認めてください! ボクは最愛と呼ばれるくらい自らを愛している。だけど、他人からの承認も同じくらい欲している! 貴女のさっきの言葉にピンと来ました! 出来れば女装趣味を事あるごとに褒め称えて欲しい!」
「⁉ へ、変態⁉」
目の前で土下座する愛一郎を見て、美蘭は困惑する。
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