第6話(2)チヤホヤ
「! ど、どうぞ……」
正高が美蘭の入室を促す。
「失礼します……」
美蘭が生徒会室に入る。
「いや~亜久野ちゃん!」
「! は、はい……?」
速人が一瞬で美蘭との間合いを詰める。
「は、速え⁉」
「お、おお……」
速人のスピードに強平と雄大が驚嘆する。
「おはよう!」
「お、おはようございます……」
「今日の君は……一段と素敵だね……」
「え……」
「さ、早速の仕掛け⁉」
「どうなるか……?」
驚く正高に対し、愛一郎は冷静に状況を見つめる。
「……素敵だよ」
「す、素敵だなんて……いきなりそんなことを言われても……」
見つめてくる速人から、美蘭は照れくさそうに視線を逸らす。
「! こ、これは……?」
「悪くない反応のようだね……」
正高から視線を向けられた愛一郎が頷く。
「と、ということは……?」
「ああ」
雄大の呟きに愛一郎が反応する。
「チヤホヤすりゃあ良いってことだな⁉」
「ニュアンスがあれだけど、まあ、そんな感じかな」
強平の言葉に愛一郎が首を縦に振る。
「そうと決まりゃあ! おい!」
「え?」
強平が美蘭に近づく。
「お前! あれだな……」
「おはようございます」
「お、おはよう……」
丁寧に頭を下げてくる美蘭に対して、強平は面食らう。
「あ、あ~あ……」
「出鼻を挫かれてしまいましたね……」
雄大が頭を抱える横で正高が苦笑する。
「……あ、あのよ!」
「! 立て直しが速え!」
話を続けようとする強平を見て、速人が舌を巻く。
「はい?」
美蘭が首を傾げる。
「今日のお前はあれだな……」
「あれ?」
「な、なんていうか……」
「……」
「い、一段と凛としていて、とっても良いと思うぜ?」
「!」
強平の言葉に美蘭は少々赤らめていた顔をややポッとさせる。
「おお……悪くない反応⁉」
雄大が小声で呟く。
「あれだな、『百戦錬磨』って感じだぜ」
「え?」
「そして、『一騎当千』って感じでもあるな」
「え……?」
「さらに、『勇猛果敢』って雰囲気も漂わせているな」
「ええ……?」
「マ、マズい!」
「ど、どうしたの?」
「何がマズいんだ、愛一郎ちゃん⁉」
愛一郎に雄大と速人が視線を向ける。
「強そうな言葉を使い過ぎだよ、あれでは……」
「弱く見えてしまいますね……」
正高が眼鏡のフレームを抑えながら呟く。
「かえって逆効果だ! 流れを変えないと……!」
「よ、よし、オイラが! あ、亜久野さん!」
雄大が声をかける。
「はい。おはようございます」
「お、おはようさん……」
美蘭が頭を下げてきたので、雄大も挨拶を返す。
「気勢を削がれてしまいましたか?」
「いや、どうなるか見てみよう……」
正高の言葉に対し、愛一郎は首を静かに左右に振る。
「きょ、今日はあれだね……いつにもまして人としての器が大きく感じられるよ!」
「‼ は、はあ……」
雄大のやや漠然とした言葉を受け、美蘭は顔をさらに赤らめる。
「‼ わ、悪くねえのか⁉」
速人が驚く。雄大が畳みかける。
「今日の君はエベレストよりもデカいよ」
「はあ……」
「付け加えれば、アマゾン川よりもデカい!」
「は、はあ……」
「さらに付け加えれば、イグアスの滝よりもデカい!」
「えっと……」
「ああ! マズい! 速人くん!」
「雄大ちゃん! その辺にしておけ! ……なんだよ、エベレストがどうとかって……?」
愛一郎の声に応じ、速人が雄大の体を抑え、小声で囁く。
「は、迫力があるっていうことを伝えたかったんだよ……」
「はあ?」
「スケールが大きいと言うのかな?」
「アマゾン川うんぬんで喜ぶかよ……!」
「だ、駄目だったかな……?」
雄大が俯く。正高が前に進み出て、美蘭に声をかける。
「亜久野さん、おはようございます……」
「あ、おはようございます」
「今日の貴女は一段と……華麗かつ優美ですね」
「! ど、どうも……」
正高の言葉に美蘭は顔を大分赤らめる。正高はここを好機と捉える。
「華美であり、絢爛としていますね……」
「え……?」
「要はあれです……綺麗ですね……」
「あ、ああ、どうも……」
「亜久野さん、おはよう♪ 今日もかわいいね♪」
「⁉ あ、ありがとうございます……」
「眼鏡は語彙力が逆効果だったか、愛一郎くらいのシンプルさがベストってことだな……」
顔を思い切り赤らめる美蘭を見て、強平が頷く。
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