第5話(2)唖然、愕然、悄然、呆然
「!」
「あ……」
美蘭の前にピンク色のショートボブで、美少女と見間違うほどの男子が現れた。パンツ姿の制服でなければ、その華奢な体格も含めて女子だと判断するところだった。
「おい、遅せえぞ」
「ご、ごめん……」
ショートボブの男子が部屋の中に進んできて強平に謝る。
「生徒会活動は時間厳守だぜ」
強平が両手を組む。
「で、でも……」
「あん?」
「ボクが遅れたのは、クラスでの用事を頼まれたからで……けっしてフラフラと遊び歩いていたわけじゃないよ。担任の先生に確認してもらえば分かるよ」
「む……」
「そもそも、大体においてなのだけど……」
「ん?」
「強平君の方が圧倒的に遅刻回数は多いのだけれど……」
「む、む……」
ショートボブの指摘に強平が顔をしかめる。
「ふっ、至極当然の反論ですね……」
正高が笑みを浮かべながら眼鏡をクイっと上げる。
「正高君、笑っている場合じゃないよ」
ショートボブが視線を正高に向ける。
「はい?」
「生徒会長のこの怠慢ぶり……副会長である君にも責任があるんじゃないかな?」
「ど、どうしてそうなるのですか?」
矛先が急に向いてきたことに正高が戸惑う。
「指導力の不足だよ」
「じ、自己責任の範疇でしょう……」
「いつも言っているじゃないのさ」
「な、何をですか?」
「私が実質ナンバーワンだとかなんとか……」
「そ、それがなにか?」
「ナンバーワンに立っている自覚があるなら、きちんと周囲を指導・監督をしなくちゃいけないんじゃないかとボクは考えるよ」
「む、むう……」
正高が眼鏡のフレームをペタペタと触る。
「へっ、こいつは口ばっかりなんだよ」
強平が笑う。正高がムッとして言い返す。
「あ、貴方がだらしないのがいけないのです……!」
「あ? 責任転嫁かよ?」
「いいえ、責任追及です」
「はいはい、ちょっと待って」
ショートボブが両手をポンポンと叩く。
「ん?」
「む?」
強平と正高が揃って視線をショートボブに向ける。
「そういう無駄な争いはどうでもいいから」
「む、無駄だと⁉」
強平が声を上げる。
「無用と言った方が良いかな?」
「む、無用……」
強平が唖然とする。
「ふっ、言ってくれますね……」
正高が苦笑する。
「無為と言った方が良いかな?」
「なっ……!」
「それとも無能かな?」
「む、無能……⁉」
正高が愕然とする。
「ははっ、形無しだな……」
「笑っている場合じゃないよ、雄大君」
「え?」
ショートボブが雄大に視線を向ける。
「このような無益な争いを放置している責任について何か思うことはないのかな?」
「オ、オイラに何の責任があるっていうんだ⁉」
「ないとは言わせないよ」
「え、ええ……?」
雄大が戸惑う。
「君の役職は何?」
ショートボブが問う。
「せ、生徒会会計……」
「そう、これは君の職務怠慢でもあるよ」
「しょ、職務怠慢……」
ショートボブのストレートな物言いに対し、雄大は悄然とする。
「……」
「どこに行くの? 速人君」
「‼」
そろりそろりと部屋から出ようとした速人をショートボブが呼び止める。速人ははた目から見ても分かりやすく動揺する。
「逃げ足が速いのは感心しないな……」
ショートボブがため息交じりに呟く。
「い、いや、逃げるわけじゃなくてな……」
「じゃあどこに行こうというの?」
「ト、トイレに行こうとしたんだよ」
「それなら堂々と申告すれば良いじゃないか」
「あ、ああ、まあ、それはそうなんだが……」
「報告・連絡・相談……人間社会の基本中の基本でしょう」
「そ、そうだな……」
「君は様々な局面でその調子だよね……先走りが過ぎるというか」
「ス、スピード感というのも大事だろう?」
「細かいことを疎かにしがちなんだよ」
「こ、細かいことは良いだろう?」
「庶務がそれでは困るよ、組織が上手く回らない。それでは……」
「それでは?」
「無軌道な暴走だ」
「ぼ、暴走……」
速人は呆然とする。
「……今日のことはしっかりと書き記しておくからね、これまでと同様に……!」
ショートボブがその場にそれぞれ立ち尽くす四人に対して呼びかける。
「え、えっと……」
美蘭がようやく口を開く。ショートボブが美蘭の方に視線を向けて微笑む。
「亜久野美蘭さんですね、初めまして、生徒会書記の
「は、初めまして……」
「まだお客様ですよね、お茶でも入れましょう。気が利かなくてすみません」
「ま、まともだ……」
美蘭が正直な印象を小声で呟く。
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