第9話 曙
由緒正しきとある教会で一組の男女が身内のみを集めた結婚式を催していた。立派な食事や煌びやかな装飾に彩られた会場は、笑顔に満ちた二人の門出を祝福する。
男性は白いタキシードを。女性は黒いドレスを身に纏って招待人達の挨拶に対応する。
痛ましい事件から五年が経過していた。沼能は裁判の結果死刑となり、教団は政府によって強制的に解散させられた。
同時に一連の関係者も軒並み逮捕されていき、海洋探索隊の連続殺人事件も無事に解決した。
逗針は教団に加担したとして逮捕。少年院を出た後は海洋探索隊を間接的にサポートできる職に就いて必死に働いている。
黒いドレスを着た女性は管理栄養士になるために大学に進学し、白いタキシードを着た男性は正式に海洋探索隊になって最前線で救命活動をしている。
「……」
男性はふと思い出していた。探索隊に仮入隊するための大会で優勝した日に父に言われた事を。
あれから周りを大事にするようになった彼は、あの時父は何を伝えたかったのか。それを理解できるようになっていたのだ。
昔の記憶に浸っていると隣から女性が声をかけてきた。
「ちょっと、どうしたのボーっとして」
今、二人の前には机に置かれたホールケーキがあり、それを切るための長い包丁を一緒に持っている。
呆けるには危なっかしい状況だった。
「ちょっと耽ってただけだよ。ていうかさ、やっぱり結婚式なら大学卒業後にするでよかったんじゃないか?」
彼の言葉に彼女は頬を膨らます。
「嫌だ。二十歳を超えて直ぐの今がいいの!」
「……わかったよ」
素っ気ない返事をしてしまった男性は少しだけ耳が赤くなる。それを見た女性は思わず空いている方の手で口元を覆いながら微笑を浮かべた。
そしてお互いの目を見て気持ちを落ち着かせた二人は、夫婦として初めての共同作業を行った。
探索隊志望者の報復 リート @fbs
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