第6話 発露

 逗針 鉄斗は昔から能力が突出しており、周りからは神童として祭り上げられていた。

 故に挫折を知らず、ちやほやされる日々を過ごしていた。


 とんとん拍子で話が進んでいった彼だったが、海洋探索隊に仮入隊した辺りで壁にぶち当たった。一般的な表現でいうところの成長限界である。

 いくら神童ともてはやされていたからといって、努力を怠ったことはなかった彼だったが、それゆえに自分はこれ以上先には進めないことに誰よりも早く気が付いてしまったのだ。


 彼は絶望した。俺は試験を突破して正式な探索隊員になれないのか。同期が次々と関門を越えていく中、鉄斗は一人、足踏みを強いられていた。

 何年頑張っても探索隊員になれない焦燥感と己の不甲斐なさに打ちのめされそうになった時、その男は現れた。


「僕の言う通りしていれば強くなれるよ」


 初めは嘘八百だと突っぱねた。しかし、日数を重ねていくうちにとうとう心が折れてしまった彼は、藁にも縋る思いで男の提案を飲んだ。



「そこをどけ鉄斗!!」


「嫌だね」


 両者は激しい殴打戦を繰り広げる。風圧で黒い髪が大きく揺れ、体中痣や切り傷だらけになる。

 錬人は建物の奥の方にある窓が無い部屋に狙いを定めていた。だが、鉄斗が邪魔をして進めない。


 苛立ちが錬人の総てを包み込む。


「お前も俺も! 小さい頃に親父に助けてもらったから探索隊目指したんだろうが!! なに真逆のことしてんだよ!!!」


 体術による攻防が続く中、錬人は声を裏返しながら叫んだ。鉄斗は脚に力を集約しながら唸り気味に呟く。


「お前も同じようなことしてんだろうが」


 錬人の動きが一瞬鈍る。彼はそれを見逃さなかった。鉄斗は胴体に横から蹴りを入れ、すぐに一回転して元の位置に戻ると右拳を自身の後頭部付近に構える。

 錬人は横腹を中心に躰がくの字に曲がり、呼吸が若干詰まっていた。


 そこに鉄斗のストレートが彼の顔面を強襲しようとした時だった。


「ちょっと静まろ。幼馴染でしょ!」


 今しがた現場に到着した茜が鉄斗の拳に待ったをかけたのだ。彼女は二人の間に割って入り、彼の攻撃を両手で受け止めると全体重を掛けて後方へ押し返す。

 思わぬ来客に不意にたじろいだ鉄斗は一歩引いて彼らと距離をとる。


 茜は周りに注意を払いながら錬人と目を合わせる。彼は狼狽していた。


「な、なんでここに」


「あなたが心配で心配でいけなかったから来たの!!」


 言い澱む彼の額に瞼を腫らした茜がデコピンを一発。彼女の黒いポニーテールが微弱な風でふわりと揺れる。

 すると突然、教会の扉辺りから大人数の足音が聞こえてきた。


「警察だ! お前達を連行する!!」


 令状を掲げた茶色いコートを羽織った黒髪の男性を先頭に、続々と重装備をした警察官が雪崩れ込んでくる。

 早すぎる展開に焦りを感じたのか、それとも見知った幼馴染らを手にかけなければならないこの状況に覚悟を決めたのか。何かを悟った鉄斗は左腕を高らかに突き上げる。


「出陣!!!!!」


 彼が号令をかけた途端、ひな壇の床が開いて武装した敵兵が警察官目掛けて大量に押し寄せてきた。


「なっ!」


 鉄斗と敵兵を除いたすべての人が突然の奇襲に狼狽えた。敵兵と警察が衝突する寸前、茜は錬人を促した。


「場所はわかるんでしょ! 早くいって!!」


 彼女の言葉に無意識に反応した錬人は奥の部屋に向かって走り出した。彼の行く手を阻もうと迎撃態勢に移る鉄斗に茜がすぐさま対応する。

 錬人は敵兵の隙間を潜り抜けていくと、奥の部屋へと侵入する。中には地下へと続く階段があり、彼は転がるように降りていく。


 進んだ先には不気味なお札が貼られた扉があった。錬人は慎重に扉を開ける。そこには明かりがついておらず、変わりに得体のしれない液体が多種多様な実験器具や不気味な物品を鈍く光らせていた。

 奥の方には大きな木製の机と椅子が置かれており、奴はそこに座っていた。


 棒のように細い体で猫背ながらも長身で、背丈の半分ほどまで伸びている銀髪が象徴的な彼は、黄色い目で錬人のことを見下してくる。


「入り込んできたかドブネズミ。仕方がない。僕が直々に駆除してあげよう」


 沼能は徐に立ち上がる。錬人は右手で彼を指差して宣告した。


「これよりお前の罪を咎める」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る