第7話 強くなった
本来、生物学上女性の筋肉総量が男性の筋肉総量を超えることはない。いくら時代が進もうともこの事実は変わらない。
野乃花 茜はこの限界を突破するため様々な策を講じた。結果、あらゆる流派を混ぜた独自の戦闘体系ができ、陸上において並の相手に負けることはなくなった。
茜は鉄斗の連撃を華麗に受け流す。彼の額から頬にかけて汗が大量に流れ出していた。
「何で……あいつの傍に引っ付いて泣いてばかりいたお前がこんなに強んだよ!!」
茜は攻撃を躱しつつ髪に括り付けたゴムを取ってポニーテールを解く。黒真珠のように輝く長髪は、錯乱する彼の視線を奪った。
「さぁね。色々と理由はあるけど、一つは諦めなかったことかしら」
彼女は僅かな脚力で相手の懐に潜り込むと、一本背負いで鉄斗を床に叩きつける。同時に、右腕の骨を折る。
「ウガァァァァァァァ!!!!!」
彼は片方の手で患部を押さえながら転げ回る。茜はそれを冷酷な目で見つめる。
「言っとくけど、例え幼馴染だとしても錬人に手を掛けようものなら容赦しないから。彼を生涯懸けて支えるのが私の夢であり目標。そのために強くなった。ただそれだけ。あなたはどうなの?」
躰を丸めてひどく痛がる鉄斗を見下ろす茜。ゴキブリを見るかのような彼女の
「う、うるせぇ……うるさいんだよ!! 何やっても越えられない壁はどうやったって越えられないんだよ!!」
鉄斗は体を起こすと、彼女の首にやけくそ気味で飛び掛かる。
「少なくとも、私は乗り越えたわよ」
茜は彼の悪あがきを軽々と躱すと、
鉄斗は白目を向いて倒れた。一方、警察の方は苦戦はしたものの無事に敵集団を鎮圧し、全員に手錠をかけた状態で車両へと連行していた。
現在の状況を確認した茜は、警察の人に鉄斗を引き渡した後大急いで錬人のもとへと走った。
薬品まみれの薄暗い部屋で錬人は苦戦を強いられていた。事前に設置されていた罠や武器などが彼の生命を刈り取ろうと躍起になる。
実力だけで見ると錬人の圧勝である。がしかし、策などを含めた総合面では沼能の方に軍配が上がっていた。
「ほらほらいつまで踊ってるんだよ!」
沼能は椅子に足を組んで座ったまま動いていない。錬人は、次々と出てくる鉄の棘や矢、飛来する得体のしれない液体などのせいでなかなか彼に接近できずにいた。
「クソッ!」
体には浅いながらも着実に傷が増えていく。焦燥に駆られた錬人は一か八かの大博打に出ることにした。
彼は全身に力を籠めると、全ての罠を捨て身覚悟で踏み越えていく。死ぬことを恐れないその足取りは、沼能が机の上からナイフを取って立ち上がらせるまでに至った。
錬人の眼差しは彼の喉笛一点に絞られた。
「必ず贖わせる!」
錬人は左手で首をとっ捕まえようと腕を伸ばす。その時だった。
「少々血が上りすぎているようだな」
沼能はナイフを握っていない方の手で試験管を投げつける。中には何も入っていない。だがしかし、頭に血が上っている錬人の視界を奪うには充分であった。
錬人は咄嗟に両腕で顔面を覆う。彼はこの瞬間を望んでいた。
「胴体が空いてるよ」
ナイフが錬人の心臓に狙いを定める。そして振り抜かれた。だが、ナイフが彼の心臓に届くことは無かった。
試験官が地面に落ちて乾いた音が鳴った時に錬人はそっと目を開ける。直後、彼の心臓の鼓動が早くなる。
視界に映っていたのは、肩から血を流して倒れている茜だった。彼女の左肩には沼能のナイフが深く突き刺さっており、息は絶え絶えだった。
そして、彼はまだ気が付いていなかった。一体今、自分は何をどうしたいのか区別がついていないことに。
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