十二の式神使い  

保志真佐

第1話 プロローグ 黒い翼



 今日は満月の夜。


 太陽が放つ膨大な光量を月は一身に受け、ちょうど良い光量である反射光を纏う。


 目が焼き切れてしまう程の太陽光は、今や見惚れてしまう程の黄金色となり、月を際立たせる。


 しかし、その光は人の目の感受性により、蒼光へと変わり、地上に降り注ぐ。

 この蒼白い色は見る人によって幻想的にも、不気味にも映るだろう。


 それは人それぞれ。

 少なくてとも、ある一人の女の子はこう思っている。


 「………今日もお月様が綺麗」


 屋根裏から見える月は窓を通して、少女を青く照らす。


 もうすぐ寝る時間なので、彼女は寝間着を着たラフな格好である。


 汚れ一つない綺麗な腕と足を伸ばし、大きく背伸びをしてから手首や肩を回す。

 体をほぐすためだ。


 やっぱり寝る間に、月を眺めると落ち着く。


 さて、寝るか。

 そう思った彼女は徐に背中を丸める。


 すると、彼女の寝間着の背中部分がモゾモゾと動き始める。

 そして寝間着の後背にわざわざ入れた二つの切れ目から”黒い物体"が顔を出す。

 

 彼女の背中から生えた黒の物体は段々と広がっていき、それは少女の身長と同じ長さと大きさにまで達した。


 ……こっちも、しっかりと広げておかないと


 特にこっちは昼間の時、人に見られないように背中に小さく纏めて上着を着ているので、寝る時はこうして背中から出して凝りを取っているのだ。


 ここは屋根裏で自分しかいないので思う存分それを広げ、伸ばす。


 バサ……バサバサ。

 なので、月の光により黒い物体は段々と鮮明に見えてくる。


 黒い物体は柔らかそうな綿の集まりである。


 それは羽だ。


 細長く広げられた羽毛の集まりは飛行機の主翼のような形状であり、扇子のように見事な曲線を描いていた。

 鳥が青空という世界を自由自在に翔けるために身に付けている身体の一部。


 羽…いや翼だ。


 月下の少女は黒い翼を携えていた。


 それこそ黒い翼を白へ塗り替え、光輪を付ければ、まさに神話や絵本に出てくるような天使そのものの姿である。


 

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