第14話 間話 彼女の眼に見えるのは



 彼女の朝は早い。


 「ふぁあ……」


 大きな欠伸をしながら起床する。

 屋根裏の窓を見れば、かすかに空が明るい。

 彼女は大体、太陽が地平線から出てくる前には起きている。


 彼女は布団から上がり、上に腕を伸ばし背伸びをする。

 

 バサッ。

 そうすることで自身の背中から生えている黒い翼も大きく横へ伸びていく。


 いつもは誰にも見せること無いこれも、寝る際は布団からはみ出す勢いで広げているのだ。


 布団をきちんと畳み、梯子を下って屋根裏部屋から一階へ降りる。


 「………」


 一階はシーンと静まりかえっている。

 自分が起き始めたときは大抵、村の人達や祖父もまだ寝ている。


 まだ寝ている祖父を起こさないように、そろりと台所へ向かう。

 台所には村の共有井戸から汲んできた水の入った桶がある。

 桶の水を一杯掬い、飲み干す。

 

 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。

 寝起きだと、喉が渇く。

 乾いている分、飲み水も美味しい。


 喉を潤した後は、また屋根裏に続く梯子を登る。

 祖父が起きてくるまで、何もすることがないので、窓の外の景色をただ見ているのが私の朝の日課だ。


 見えるのは、村の風景や村の外にある草原、遙か先にある山々、そして変わっていく空。

 者心ついた時からほぼ毎日のように見ている屋根裏からの景観。


 不思議と飽きない。

 特に空を見ているのは。

 

 そうして何かするわけでも無く、長い時間ボーと外を眺めていると、ちらほらと起きて家の外に出てくる村人が現れる。

 それから、もう少し時間が経つと、


 あ、また走ってる。

 

 ここ最近、この時間帯になると、村の外周を灰色髪で自身と同い歳の子が走り始めるのだ。

 彼女の目はかなり良いので、屋根裏からでも汗をかきながら一生懸命走っている姿が窺える。


 しかも二日程前から彼だけで無く、この村の村長の息子である茶髪の男の子も一緒に走っているのだ。


 仲が良いのかな?

 そう思いながら彼女は灰色髪の男の子を遠くから観察する。


 うん、今日も相変わらず身体から”何かが”湧き出ている。

 彼の身体からは何らかの白い光の粒ような物が何個も発生し、彼の周りを舞っている。

 

 いつからそうなのかは忘れたけど、少なくともずっと前。


 私は自分が周りとは明らかに違い存であることは者心ついたときから分かっていた。


 祖父はそんなこと無いって言うけど、翼を生やした人間を私は他に知らない。

 あるいは知らないだけで、世界に沢山いるのだろうか。


 翼もそうだが、私の”眼”も普通じゃ無い。


 この眼から見える灰色髪の子の白い光はどうやら私しか見えていないらしい。

 そして彼からの光だけで無く、”自身から漏れ出す物”も私以外は見えていない。


 ふと、自分の手を見ると、そこから漏れ出すのは紫のような薄い光。

 これが何なのかは私にも分からない。


 徐に握りこぶしを強く握ると、バチッ!

 静電気が走ったような音が聞こえた。


 気のせいだろう。

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十二の式神使い   保志真佐 @hosimasa

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