第13話 読み書きできるためには
気づいたら、朝になっていた。
昨日もこれあったな。
真っ先に思い出すのは、直前で少女……兎の式神に言われた言葉。
【字も読めないお方を主と認める事は出来ません。当然契約も出来ません】
う~ん……どうすれば。
簡単に言えば、俺が字が読めるようになれば良いだけなんだけど。
読めるようになるためには当然活字が書かれた本が必要になってくる。
こんな村に本なんていう贅沢品は無い。
……………待て!あるぞ!
考え込んでいた俺の頭にパッと浮かぶ。
本なんて、俺がさっきまでいた場所に山ほどあった。
言わずもがな、兎の屋敷にある書斎だ。
あそこから本を拝借して、文字を勉強すれば良いんだ。時間はかかると思うけど。
……………ん?待った。
解決したと思った俺の思考にブレーキがかかる。
あの書斎には何冊か本を開いてみたけど、文字の形から多くの言語が載せられていた。
俺は今いる国も知らない。
だから、どの言語が俺の国の言語か分からない。
うっ………また壁にぶち当たった。
取り敢えず、これ以上悩んでもしょうがないと判断した俺は布団から起き上がって、マメキチを呼び出す。
「マメキチ。出て来い」
すると、俺と同じ髪と目が灰色の幼い男の子が瞬間移動のごとく出てくる。
『シュウ様、やっと出してくれた!酷いよ!昨日は折角外に出してくれたのに、あれから一度も出してくれなかったでしょ?!』
あれからというのは、母さんに朝ご飯を食べるように催促された時だな。
あの時は、またすぐに呼び出してやるよ、と言ったのに今に至るまで一度も呼んでいない。
「ああ、ごめんな。昨日は走ってから…レオのせいで森に行って、家に帰った時は凄い筋肉痛で呼ぶ余裕がなかった」
本当はご飯食って、日課の走り込みをして、呼び出そうと思った。
けれど、最悪にもレオの介入で一緒に走っていたと思ったら、何故かドリトルさん達の木材集めに俺も連れて行かれた。
……まったく何がしたいんだ、アイツは。
悪態付く俺を見て、マメキチは首をかしげる。
『レオって、シュウ様の……友達?』
「……………ただの知り合いだ。友達じゃない」
マメキチに、そして自分にも言い聞かせるように言い放つ。
レオの話は置いといて、俺は今日の夢の内容をマメキチに語る。
十二の扉の内の二つ目が解禁され、そこで四つ耳の兎になれる少女に出会ったこと。
字も読めない方とは契約する事は出来ないと言われた事。
『……そっか。シュウ様は兎に会ったんだね。あの子って本が好きだからね。きっと兎はシュウ様と一緒に本を読みたいから、契約して欲しいなら字を読めるようにしてこいって言ったんだよ』
「そ、そうなのか?」
俺と一緒に本を読みたい……て、そんなことあるのか?
そんな可愛らしい理由があったと?
確かに読書好きって印象は受けたけど、真っ赤な目から垣間見える冷たい視線には、誰の介入も受けずに読書したいってイメージしか湧き出ないが。
よく分からないけど、何はともあれ文字を学習する必要があるって事だ。
それによくよく考えてみれば、俺はレオほどではないけど、いずれこの村を出て、冒険者になりたいとは思ってる。
冒険者になるのに文字が読めません、書けませんでは話になら無いと思う。
将来を見据える意味でも、文字を学習する必要があるって事だ。
「あのドリトルさん。文字を勉強するのは、どうしたら良いんですか?」
「ん?」
「文字?」
「急にどうしたんだよ、シュウ?」
俺の質問にドリトルさんだけで無く、ナギサもレオも疑問の顔を作る。
文字を勉強する必要があると決めた時から、取り敢えずいつもの走り込みで持久力を鍛えた。
……当然ながらレオは村の入り口で俺を待ち構え、俺の隣で走っていた。
はぁ…明日は別の入り口からスタートしようかな。
終わった後は、聞きたいことがあったからドリトルさんの所に行った。
……何故かレオもついてきた。
お前はストーカーかよ。
ドリトルさんは、今日は村の柵の修理をしていた。
そばでナギサもそれを手伝っていた。
取り敢えず俺も手伝った。勿論、レオも。
それにしても、柵を支えるための紐を固く結ぶのは意外と難しいだな。
結び方も特徴的だ。
ふと隣にいるレオを見ると、ここをこうして…と一回聞いた結び方をもう覚えて実行してる。
くそっ!何だか負けた気がする。
そんなしょうもない事を俺が考えているうちに柵の修理が終わった。
後は少し前の通り、ドリトルさんを見つけた俺は早速聞きたいことである文字の学習方法を質問したって訳だ。
「文字を勉強したい。こりゃあまた急な話じゃな」
「はい……ちょっと冒険者になる上で文字が読み書きできるようにした方が良いと思いまして」
まぁ…本当の理由は兎の式神と契約するためだけど。
ひとまず冒険者になるためだと言っておく。
だけど、こんな冒険者関連の事を言うと黙っていられない奴が一人いる。
勿論レオである。
「お、おい!冒険者になるためには字が読めないとだめなのか?!」
レオがそんなの聞いていないぞって感じで目を剥いて、俺とドリトルさんを交互に見る。
いや、そもそも冒険者問わず、あらゆる面において読み書きの修得は必須だろ。
何をそんなに驚いて……・
「そうじゃな。冒険者はお主達のような村出身の者も多いから別に読み書きが出来なくとも、冒険者ギルドで働く者は総じて読み書きは出来る。じゃから読み書きが出来ないだけで冒険者に慣れないわけでは無い」
それを聞いたレオはもの凄く安心した表情をした。
何だ?文字を勉強するのがそんなに嫌なのか?
だが、そんなレオの安心しきった顔もドリトルさんの次の言葉で絶望の顔になる。
「だが、ワシからしたら読み書きが出来ないのは致命的じゃ。字が読めなければ、冒険者への依頼書をまともに見ることも出来ぬし、装備や薬を買うために店に寄っても商人から騙されることが多々ある。ワシも若い頃はそれで苦労した」
レオの顔色はみるみる青ざめる。
「マ、マジですか……。じゃあ、尚更文字は読めないといけませんね」
「その通りじゃ。しかしレオよ。何故そんなに青ざめる?」
レオは堪忍したようにボソボソ話す。
「実は………俺の親父は読み書きが出来る人で、俺んちには字を覚えるための本が何冊かあるんですよ」
「え?ほ、本当か?!」
いきなりのビックリ情報に、俺はいつものレオに対する拒否感を一瞬忘れて、レオに食い気味に顔を寄せた。
「お、おう?!本当だ」
俺の反応にレオは少し引いてしまう。
「え、えっと…話を戻すと、ずっと前、俺にも読み書きが出来るように親父が教えようとしたんです。………でも俺、そういうの苦手で。字を見ると、いつもクラクラするんです。それで俺は冒険者になるから読み書きなんて出来なくても良いって、ほったらけにしました」
なるほど。
レオは運動センスは抜群だけど、座学がめっぽう苦手と。
もう完全な脳筋だな。
……いや、そんなことよりも!
村長宅には、本なんていう贅沢品があったのか?!
こんなド田舎の村に本なんて無いと勝手に思い込んでいた。
完全に灯台下暗しだった。
しかも読み書きを習得するための本があるなんて。
凄く都合のいい話に思えてくるが、たまたまだろう。
よし!村長のところで読み書きを勉強すれば、兎とも契約してもらえるかも知れない。
ドリトルさんも同じ事を考えたのか、一つ頷いて俺の方に向き直る。
「ならば話は簡単じゃな。村長の家でシュウとレオ………あとナギが読み書きを勉強すれば良いことじゃ」
「………え?」
これを聞いて、疑問の声を上げたのは俺でもレオでも無く、ナギサであった。
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