第9話 冒険者を目指す同士
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十二の式神使い
ep.9 008 冒険者を目指す同士
掲載日:2024年03月08日 00時00分
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本文
俺とレオは村を二周走ったところで終わった。
「はぁはぁはぁ」
俺は息が限界で、全身からも大量に汗をかいている。
もう走れない。
しかし対するレオは、
「ふぅ~、こんなに真剣に走ったのは初めだ。はは、体から汗が止まんねぇ」
額からの汗を手で払いながら言ってはいるが、その実レオは全くの余裕である。
そんな余裕綽々な様子にイラッとくる。
くそ!こっちは二ヶ月間毎日走ってようやく村を二周出来るようになったのに涼しい顔しやがって!
しかも態々俺の隣を並ぶように走りやがって!
レオは俺よりも三歳年上の九歳である事を考慮しても、生まれついた運動のセンスに差があるように感じる。
俺との差を見せるために俺に合わせたのか?
………いや、レオはそんな奴では無いか。
レオはムカつくほど良い奴だ。
伊達にこの大きくも無い村で何年も過ごしていない。
レオはそういう事をする奴でないことぐらいは分かっている。
どうせ俺を追い抜かそうと思えばいつでも出来るのに、それじゃ俺に悪いとでも思ったのだろう。
分かってる………分かっているが、やっぱり腹が立つな。
こういう運動が出来て、気遣いで出来るところとか、前世のアイツにそっくりだ。
俺はレオに気づかれないように小さく舌打ちし、横目で睨み付ける。
「いやあ、走るって意外と楽しいな。なぁ、シュウ。今日から毎日お前と走ろうと思う。強い冒険者目指して」
レオは腕を曲げ、気合を入れるポーズを取りながら俺にニッと笑う。
「……………は?」
思わず、そんな呟きをしてしまった。
これから毎日俺と走る。
………何だこれ?拷問か?
何で俺が嫌いなお前と走らないと行けないんだ?
俺が走っているのは前世のような弱い俺にまたなりたくないからだ。
「……そ、そうか」
だが、勿論正直にそんなことを言うことも出来ず、顔を引きつらせているのを見られないように別の方向を見て、そう言った。
そしてお互い…というか主に俺が息を整え終わった後、俺達は村の中へと戻った時、
「ん?シュウに…レオ?二人揃って珍しいの」
「あ!ドリトルさん!」
レオが元気の良い声を上げる。
そこには斧を片手に孫娘のナギサと手を繋いだドリトルさんがいた。
恐らくこれから森へ木材集めに行くのだろう。
対するドリトルさんは普段は他の子供達と遊んでいたり、大人達の手助けをしているレオが、自分で言うのも何だが、余り他人と関わり合いを持とうともしないボッチの俺と一緒にいることに疑問を感じている様子だった。
「はい!俺達同じ冒険者を目指す物同士で切磋琢磨していました!!」
レオは急に俺に寄ってきたと思ったら、肩に自身の手を置き、宣言するように言う。
「お、おい!くっつくな!」
「な、なるほど……?」
「?」
レオの突然の同士発言にも眉根を寄せたが、俺の肩に手を載せ、密着してきたことに忌避感を感じてすぐに離れさせた。
そんな俺の反応にレオは気にしていなかった。
ドリトルさんはなんて答えて良いのか分からず、曖昧な返事をして、ナギサは訳が分からないと言った表情をしていた。
俺は掻い摘まんで、さっき俺達が走り込みをしていた事を説明する。
ドリトルさんは頷いてみせる。
「そうか、お互い同じ目標のために走り込みをしていたと言うことか。良い事じゃ。目標への到達は地道な努力。じゃが、何故レオが今日になって?」」
「昨日シュウがここ最近の走り込みをしていうのは冒険者になるためだと知って、俺…シュウが冒険者を目指しているのに嬉しくなっていても立っても要られなくなったんです。それで俺も今日からシュウと一緒に走ろうと思いました」
ドリトルさんは何度も肯定するように首を縦に振る。
「ふむ、なるほど………それにしても二人共冒険者を目指しているとはのぅ。それは……」
「勿論、ドリトルさんみたいになりたいからです!!」
「そうか、そうか……。じゃが、冒険者の道は簡単ではないぞ。常に死と隣り合わせとは言わんが、いつ死んでもおかしくない職業じゃ。………それでもなりたいというのか?」
ドリトルさんは少し凄みを効かせて言った。俺達を本気で心配しているのだろう。
しかしレオは全く臆していないように真っ直ぐ答える。
「はい、なりたいです!!例え、冒険者になって死んでも俺は本望です!!………というか、冒険者になっても死なないように今日から鍛錬をしようと思いました」
「……レオは純粋でまぶしいのぉ。………それならワシから言うことは無い。鍛錬頑張るのじゃ」
「ありがとうございます!!」
レオの言葉にドリトルさんは輝かしい物を見ている風貌で納得して、激励の言葉を投げる。
その後、ニッコリと笑い、ナギサと繋いでいた手を離し、その手で俺達の頭を交互に撫でてくれた。
レオはとても嬉しそうである。
対する俺も心地よい気分になった。
それをされると丁度良い湯加減のお風呂に入っているかのように心が芯から温まる感じがするのだ。
俺を転生させてくれた老人の天使様でも思ったが、やはり俺は優しい老人の笑みに弱いらしい。
前世は嫌いな人ばかりだったが、悪い事だらけでは無かった。
特に前世のお爺ちゃんとお婆ちゃんはいつも俺に優しかった。中学校に上がる前に二人とも死んじゃったけど。
死ぬ前にお墓参りぐらいしておけば良かったかな?
一通り撫で終えた後、ドリトルさんは再びナギサの手を掴み、踵を返して南の入り口へ向かう。南方向の森に行くのだろう。
「ではワシらは森で木材を集める。今日も頼むぞ今日も頼むぞ、ナギ」
「うん、おじいちゃん」
そんな二人に対して、いつもありがとうございます、お疲れ様です、などの労いの言葉を投げようとした時だった。
レオは急に、
「あ、待ってください!俺も手伝います!!」
とか言い出して、ドリトルさんに付いていこうとする。
「ん?どうしたんじゃ、いきなり?」
「俺今日から本気で冒険者目指そうと思って考えたんです。体力作りの走り込みだけで無く、元冒険者のドリトルさんを間近に見ることで冒険者というものを直接学ぼうかなと。……だから、その木材集め俺も手伝わさせて下さい!!」
レオの勢いのある気迫にドリトルさんもナギサも少し面食らっているが、了承する。
「は……?いや、まぁ…手伝ってくれるのに越したことは無いが、ただの木材集め……」
「ありがとうございます!頑張ります!」
ドリトルさんの返事が言い終わるのを待たずに気持ちの良い返事をして、ドリトルさんに付随しようとする。
そんなレオに、俺はまぁ頑張れよ…と心の中で無機質に思いながら家に戻ろうとする俺の腕をレオが掴んだ。
何だ?と思い、見たレオの顔は微笑んだ表情であった。
「待て。シュウも一緒に行くんだぞ」
「……………は?」
本日二度目の、は?である。
ズドーン!!!
バタバタバタ!!……キャア!キャア!キャア!
バキバキバキ!!ドサッ!!
森に響き渡る爆発らしき音とそれを聞いて周囲にいた鳥達が驚いて一斉に飛び立っていき、泣き叫ぶ音。
続いて樹木が倒れ、地面に激突する音が俺の鼓膜を揺らす。
「「す、凄ぇ……」」
俺とレオは共鳴するように感嘆の声を漏らす。
「ドリトルさんって……やっぱ凄ぇんだな」
こればかりはレオに同意だ。
たった今、ドリトルさんは僅か”一撃”にして樹木を斧でへし折ったのだ。
最初に聞こえた爆発のような音は斧を樹木に叩きつける音であった。
「おーい、落ちるぞ!気をつけろ!」
ドリトルさんは再び別の樹木を一撃で叩き折る。
俺はその光景をあり得ないといった風に見つめる。
実際、前世の地球ではあり得ないからだ。
人は主に木を伐採する際はチェーンソーを使って切るが、それでもすぐには分断できない。
テレビで見た木こりが手斧でやっていた伐採でも、何十回も斧を木の断面に叩き込んで漸く倒れるものだ。
例え、ゴリラが斧を持っても樹木を一撃で叩き折るのは無理なはずだ。
これは異世界だから可能なことなのか?
異世界系のアニメでよく見る身体強化系の魔法でも使っているのだろうか?
……異世界って不思議。
だが、不思議なのはそれだけでは無い。
根元から叩き折った樹木をドリトルさんはだいたい一メートル間隔で輪切りのようにまた切る。
そして、その切ったものを薪割りの要領でちょうど良いサイズに切り取る。
こうしてたき火や家の修復に使える木材が出来上がるのだが、
「ナギ、そこに置いてくれ」
「分かった。……ふっ、よいしょ」
その輪切りにされた樹木をナギサが軽々と持ち上げてドリトルさんのそばに置いているのだ。
俺も一回輪切りにされた樹木を押してみたが、ビクともしない。
多分だが、百キロぐらいはあるな。
それを俺と同い年の女の子が普通に持ち上げて運んでるよ。
……異世界って不思議。
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