第8話 マメキチの能力
「で、出てきた!!」
夢のような出来事が夢じゃなかったと知って驚き、大声を上げてしまった。
人になっている鼠は驚いた俺に気にせず、ちょこんと床に正座しており、自身の手を握ったり開いたりして自分の体を確認していた。
「夢じゃなかったんだ!」
『シュウ様!出してくれてありがとう!』
口は動いていないはずなのに声が聞こえる。
顕現されたのが余程嬉しかったのか、またしても俺に抱きついてくる。
「わ!ちょっ待て!」
俺はまたハグされた状態を引き離そうとすると、
「どうしたの、シュウちゃん?」
俺が朝っぱらから大声で叫んだものだから、母さんが心配して自室に入ろうとする。
「あ、やば!おい、鼠!一旦隠れろ!」
『え?』
背中を叩いて、隠れるように促す。
と言っても、俺と同じ歳ほどの子供がこんな狭い自室のどこに隠れろと言うのだろうか。
慌て過ぎて冷静な思考が出来なかった。
突然の隠れろと言う無茶振りで、幼子の姿である鼠も先程までのハグを中断し、急いで隠れる場所を探すためか俺の部屋を見渡した。
しかし、
「急に大きな声出して」
とうとう母さんが俺の部屋に顔を出した。
「いやぁ…これは…」
俺は母さんに顔を向けたまま、どう答えようか分からず、言葉を濁す。
なかなか良い言い訳が思いつかなかったが、取り敢えず…。
「変な夢でも見ちゃって、それで大声を上げたんだ。大丈夫だよ、母さん」
「あら、そうなの。」
まぁ、嘘ではないが。
母さんはふふ、可愛いわねとか言って居間は戻って行った。
俺は取り敢えず何とか誤魔化せた事に安堵に大きく息を吐き、すぐさま人化した鼠のいる方向へ顔を向ける。
ソイツはいなかった。
どこに行ったのか辺りを見渡すと不意に俺の手に何かが触った感じがして手の方を見ると動物の鼠がいた。
「何だ?鼠に戻れるのか?」
今度は母さんに聞かれないように小さい声でチョロ吉に問う。
『これぐらいお手の物!』
頭の中に声が伝わる。
鼠のチョロ吉は細長い顔を描くコクコクと上下に揺さぶり、再び光ったと思ったら先ほどの男の子の姿に変身した。
今度は二回目なので一回目ほど驚かなかったが、それでも鼠がいきなり人になったら多少なりとも驚愕してしまう。
「それで、お前は何が出来る式神なんだ?」
今度こそ母さんに聞かれないように、小声を意識して鼠に聞く。
『ボクはこれが出来るんだ!』
待ってましたと言わんばかりに鼠は立ち上がり、目を閉じ、まるで忍者が忍法をする時の印の作り方のような手の形を作る。
そして手元が、人化した際と似たように白く光り出す。
『〈增〉』
何が起きるのか直視していると、何とびっくり…灰色髪の男の子の姿が"増えた"。
分身だ。
始めは一人が二人に増え、二人がそれぞれ二人ずつに増え、四人になり、四人が八人とまさに鼠算式に増えてくる。
俺の狭い部屋の広さもあるのか、分身は八人で止まる。
「お、おお?!」
普通に驚く。
勿論、音量は絞って。
俺は驚きを隠し切れないまま、八人に近づき、触っていく。
触れる。
増えた分身体は幻ではなく、しっかりとした実体。
人の姿になった鼠の能力は実体のある自分の分身を作り出すものであった。
『どう!シュウ様!』
驚き喜ぶ俺を見て浴衣を着た八人の男の子は誇らしげに胸を逸らす。
同じ顔の八人が同じ動作をするのは威圧感があるな。
「本当に凄いよ。お前の力は」
興奮しながら素直に称賛する。
またしても俺の能力がファンタジー感が増した事にテンションが上がってしまった。
称賛された鼠は照れたように顔を緩ませる。
だが、その後何かに気が付いた表情をして、鼠は恐る恐る俺にお願いをしてくる。
『あの……シュウ様。ボクに……名前をくれない?』
「名前?」
『そう。シュウ様が付けてくれる名前が欲しい。……だめかな?」
「いや別に名前ぐらいは」
そう言えば、俺はずっとコイツをお前とか鼠呼ばわりしているな。
さて、どんな名前が良いか……。
う…そんな期待する目で見られると変な名前は付けられない。
「う~ん………………マメキチ?」
これは前世でお爺ちゃんとお婆ちゃんが生きていた時に飼っていたハムスターの名前だ。
ちょっと手抜きか?
『マメキチ…マメキチ………マメキチ?!良い名前!ありがとう』
……まぁ、本人は喜んでいるし、問題ないか。
「俺の最初の式神は鼠…いや、マメキチか。他の十一体の式神はどんな奴なんだろう」
『えっと…ボクの後だから、多分………』
マメキチが言い終わる前に、
「シュウちゃん!ご飯が出来たわよ!」
居間から母さんが呼んできた。
「あ、うん!今行く!ごめん、マメキチ。一旦戻ってくれないか?」
『え、もう?……分かった。ちょっと名残惜しいけど、ボクを戻すように念じれば、またあの空間に戻ることが出来るよ』
マメキチはかなり残念そうに顔を凹ませる。
そんなマメキチの頭を撫でる。
うん、サラサラな質感で触り心地抜群だな。
「大丈夫だ。またすぐに呼び出してやるよ」
『本当?!』
「ああ、本当だ。それじゃ、マメキチ戻れ」
さっきの凹んだ顔は嘘かのようにマメキチは表情を輝かせる。
言葉に出しながらも頭の中でマメキチを戻すように念じると、出てきた時と同じように、まるで瞬間移動をしたかみたいに一瞬で消えた。
その後、俺は父さんと母さんとで朝食をとり、日課である村外周を走った。
………のだが、
「………なんでレオも走ってんだ?」
俺が走っていた途中でレオが突然、隣で走り出してきたのだ。
「そりゃあ、俺もシュウと同じく冒険者目指してるから、強くなるために俺も走ってんだよ。一人だけ抜け駆けはさせねえよ」
レオは至極真面目に答える。
どうやらレオは俺を同じ冒険者を目指す同士であると勝手に決めつけ、俺がここのところ走り込みをしているのに対して対抗心を燃やして、一緒に走っているという訳らしい。
……いや、別に抜け駆けしたくて走ってねぇよ!
くそ、最悪だ!
何が悲しくて嫌いな奴と走らないと行けないんだ。
レオを見てると、前世で俺を裏切ったアイツを思い起こさせる。
しかも口ぶりから、今日から毎日俺の走り込みに参加する気だ。
マジで勘弁してくれ!
昨夜から今朝にかけての十二の式神能力の話云々、そしてマメキチ召喚でファンタジー感を実感して高揚していたのに、レオのせいで一気に気分が下がった。
ちなみに当のレオは俺の思考など知らん顔で、はぁはぁ、こりゃあキツい……とか言いつつ、額に大量の汗をかきながら真っ直ぐ前を見て、走っている。
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