第7話 上州の戦

「長野口及び、倉賀野口を川岸に沿って布陣せよ。さすれば武田勢は迂闊に渡っては来まい。二刻程、足止めできれば上出来じゃ。とりかかれ!」

「ははっ!」


長野口は下田正勝軍、和田業繁軍。

倉賀野口は上泉伊勢守軍、内田頼信軍。


それぞれ上州各地から集めた兵力だけで編成されており合計約一万八千である。


「川の内側には和田殿、よろしくお願いします。」

「承りました。それでは敵が近づけば威嚇程度でよろしいですな?」

「構わん。」


一方、武田陣


「上州の境まで先陣は到着いたしました。」

「義信には先に攻めることがないよう重々に指摘せよ。」

「承知いたしました。」

「ここらで夜営をいたす!警戒を怠るな!」


これが長野勢に伝わった。


「まさか……、夜陣とは。戦略変更じゃ。伊勢守殿!」


武田軍総勢、約四万である。


惨劇はその夜に動き出した。 


この時期の上州は赤城山、つまり北側からの風が強くなり目も開けられず息もろくにできないほどなのである。

長野勢には追い風、武田勢には向かい風であった。


「この風のせいでしかも夜で周りは真っ黒じゃ。陣をしいても意味はあるまい。」


武田陣に馬蹄が近づく。気づくものは一人もいない。風がうるさいのである。


「甲斐と上州は似ているはずがなかろう。信濃の戦で学ばなかったのか。」


長野勢の突撃の先陣は伊勢守軍、約三千。精鋭である。


「同じ戦い方では痛い目に遭うぞ信玄よ。」


同軍が魚鱗の陣に形成する。突撃しやすい陣形である。


「貴殿の負けじゃ。」


精鋭三千は武田陣に突撃した。


「敵襲ー!」


気づくのが遅すぎた。

先鋒大将、武田義信が目覚めた頃には敵味方入り混じりの形相である。


「父上に援軍を申し出ろ!今すぐにじゃ!急げ!」

「義信様!迂闊には動きませぬよう。山県昌景様が横合いから参っておりますゆえ!」

「その前に瓦解するわっ!」


事実崩壊に等しい。長野の先鋒は既に信玄本陣にまで達していた。


「丸くなれ!敵を寄せ付けるな!」

「お館様!既に義信様の陣は総崩れにございます!」

「義信は?」

「山県昌景様の軍勢に守られて無事脱出しております!」


その時、長野勢は引き出した。長い時間、出撃していれば危ないと伊勢守は判断した。

その直後に内藤昌豊軍が箕輪城に進軍する。


「追撃せよっ!深追いはするな。なるべく多くの兵を討ち取れ!」

「ならんっ!昌豊にすぐに引けと急げ伝えよっ!」


これも遅い。箕輪城から長野業正本人が出撃。自然、長野勢の士気は上がり、攻撃はますます鋭くなる。


これにより内藤軍は壊滅。


信玄本陣に命からがら逃げ込み、武田軍は箕輪城のだいぶ離れたところに布陣した。


上州の気候は更に荒れる。


武田の敗北である。









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