第5話 長野堰

水害は免れた。

業正と箕輪の民衆が時間と労力をかけ作り上げた堰のおかげであった。


(この長野堰は未だ群馬県に現存している。)


民衆政治の象徴が完成し伊勢守が甲斐の国に出向いている途中にますます業正と民衆の結束力は増した。


「殿、この堰が完成したことにより今まで作れなかったところに田んぼが作れますぞ。」

「うむ。ただ民の負担にならぬようにの。」

「ははっ。」

「しかしの、越後の国からの使者はまだか?」

「あ、あと一刻で参りましょう。」


業繁は泡をくってこたえる。

その一刻後であるが、長尾からの使者より先に伊勢守が箕輪城に到着した。


箕輪城 大広間


「まぁ、予想通りであるわ。」


業正は面倒くさそうに答える。


「相手は武田軍二万三千の兵、来月にも攻めて来ましょうぞ。」

「確かに、程よい時期といえば来月程度か。」

「しかし今回は少し違いますぞ。」

「ああ、裏に北条と今川がいるのか。」 


武田家は五ヶ月前、今川家と北条家とともに三カ国同盟を結んだばかりなのである。今川は東海道に集中しているが、北条と武田はそれぞれ信濃国と上州をにらんでいる。

信玄が上州を攻めるために北条氏康の力を借りることは誰でも予想できた。


「北条も加わるとなると面倒くさいのぅ。」

「しかし先年に北条は今川に敗れておりますゆえ。十分な戦力は捻出できないのではありませぬか。」

「だとすれば北条は我らへの軽い牽制程度であろう。」

「今川は遠江に集中しておりまするゆえこちらには来ませぬ。」

「さすれば武田に対し集中的に叩けばよい。上州の各侍方、このたびはお集まりいただき感謝します。即座に武田に対する方針は決定いたしますゆえ。お待ちしてくだされ。」

「ははっ。」


業正は今度は別方面に使者を送る。


関東の佐竹義重である。














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