第4話 伊勢守と信玄

書状を読んだ直後の信玄は不機嫌であった。

見るからにわかる信玄の形相に居並んだ家臣は息をのんだ。


「読み終えられたのであれば御返答を承りた…。」

「長野業正とやら歳はいくつだ。」

「五十六でございますが?」

「左様か。」


息を一つ、ついてから信玄は


「上泉伊勢守とやら、我の一門となる気はないのか?」

「甲斐の国より上州のほうが居心地がようございますゆえ。お断りいたします。」


これを聞いた武田家臣団は前のめりとなる。


「お館!此奴を我らで殺した後にさっさと上州に攻め入りましょうぞ!五十六の老人なら早く済みますぞ!」

「お館!決断のときですぞ!」


昌景と信君が進言する。


「できるのであればここにいないわ。」


重い空気が漂う殿中に伊勢守の声が響く。


「来るなら来られよと言うのが我が殿の意向でございます。もしよろしければ御返答を……。」

「攻め入る、以上である」

「左様ですか。ではこれにて。」

「待たれよ!」


武田の家臣団から屈強な二人。津瀬信賢と島山成が阻む。


「まず我らを剣術にて制してから上州に戻られよ!」

「おっ!」


信玄は笑みを作り見物人の一人として参加した。


「では、」





彼ら武田家臣の二人の声は二度と聞くことは無かった。







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