第9話 箕輪城攻防

「義信様。暗闇の中ですがあともうしばらくして箕輪城付近かと。」

「わかった。皆、もうすぐ箕輪城に着く。音を一切立てぬようにせい。味方同士の合図を忘れるな。」

「はっ。」


武田勢は箕輪城、倉賀野口付近に到着しようとしている。



だがその付近に武田勢が全く気付いていなかった間道の入口があった。



「殿。武田が間道の入口を通り過ぎたようです。」

「頃合い、と言いたがろうが後陣には信玄本陣がある。間道から通ったとて挟み撃ちにされてしまう。さて……。」

「どうなされますか?」

「上泉殿、農民たちはどれぐらい集められそうかの?」

「はぁ……。三千程でしょうか。」

「使われなくなった枯れ草も箕輪城の倉庫にたんまりとあろう?」

「はい長年使われていませんが?」

「作戦は決まった。頼信殿、枯れ草をたらふく持ってそのへんの平野に蒔き散らし燃やしたてよ。風は武田勢の方向、煙が上がり、」



((武田を炙り出せば良い。))



「箕輪城の明かりが消されているが?」

「さて業正はどんな魂胆ですかな?」


武田勢は遠くに箕輪城があるのを視認できていたが、明かりが全く灯されていないのを訝しんだ。その頃には既に頼信軍が枯れ草を敷き詰め終わっているところであった。


「一応、父上に使いを立てよ。進むか否かと。」

「ははっ。」

「義信様、万が一に備え全員具足を着させましたがよろしいでしょうか?」

「承知。」



その時である。枯れ草に火をつけられ煙がもうもうと上がったのは。



「義信様、敵の策です!風により煙がこちらに覆われてきます!」

「皆の者、備えよ!」


煙に包まれたのは義信軍だけではない。

信玄本陣にも煙は達していた。


「全軍に退却命令を出せ!今すぐにじゃ!」


そして長野軍は間道を伝い義信軍の背後を襲った。


「敵襲でござますっ!今すぐに本陣の方へ!」

「義信様、目立つ兜はお脱ぎください。標的にされます。」

「わかった。即座に退く!急げ!」


義信軍の側面及び、信玄本陣の前方から一斉射撃が行われた。これにより両陣は最悪の混乱に陥った。


「お館様!甲斐まで退きますぞ!耐えられませぬっ!」

「義信は!」

「ご無事です!ご無事ですから早く!」

「っ…!」


本陣の、後方から正勝軍が突撃した。

同時に義信陣には上泉軍が頼信軍と合流し攻撃を開始する。


「おのれっ!業正!老いぼれめが、必ずや攻め滅ぼすわっ!見ておれっ!」




躑躅ヶ崎の援軍に助けられた武田勢はしばらくは上州から手を引き、鳴りを潜めた。


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