第4話 初配信、開始!
レイスさんの後についていく形で、僕は山を登ってレイスさんの家まで向かっていた。とはいえ、僕はこの二年間ほとんど部屋から出ていなかった身。そんな僕に山道はあまりにもしんどすぎて、途中でぶっ倒れてしまった。
「イブキー! 頑張れ、まだ半分も来てないぞー!」
「うっ……、引きこもりだった身にはこれが限界です……!」
「この山道を登り切るのも修行の内だと思って! ほら頑張って!」
レイスさんはそう言うが、本当に僕の体は限界を迎えていた。自分で思っていた以上に貧弱だったんだな、僕って。
ついに僕は体が動かなくなり、その場に座り込んでしまった。
「はぁ……、仕方ないなぁ。舌噛むなよ?」
レイスさんはため息を一つつくと、僕を軽々と持ち上げて、そのまま全力で駆け出してしまった。
物凄くあっさりと持ち上げられてしまったことも驚きだが、人を担いでこの速度で走れるのはおかしくないですか? Sランク冒険者凄い……。
「よしっ、着いたよ。ここが私の家だ!」
そう言ってレイスさんは急ブレーキをかけて、僕を降ろした。
ここまでの速度で目が回っていて立つことさえおぼつかなかったが、次第に平衡感覚が戻ってくると、目の前の家に衝撃を覚えた。
山の中でこの周辺が大きく切り開かれていて、その中心に位置する豪勢な屋敷。レイスさんに似合う洋風な雰囲気で、一人で住むには勿体ないほどの大きさだった。
「レイスさん、こんな所に住んでたんですか⁉」
「そう。これが私の家。イブキは今日からここに住んで修行するの」
そう言ったレイスさんは屋敷へと向かう……かと思いきや、僕を連れて反対方向に進んで行ってしまった。
「……レイスさん? どこ行くんですか?」
「この辺り一帯はね、全部私の所有地なんだ。だから、この広大なフィールドで修業できるんだよ! 凄くない⁉」
レイスさんに連れられるがまま進んでいた僕は、その広さを思い知って驚愕した。
その場所だけが他よりも一段と開けていた。広さはさっきの屋敷よりも広いかもしれない。そして地面には、レイスさんが鎌を振るったであろう斬撃の跡がいくつも残っていた。
これだけの広さがあれば、修行には十分すぎるかもしれない。
「それじゃあレイスさん、そろそろ屋敷に……」
「え、今から修行するんだよ?」
レイスさん、いきなり鬼畜すぎません? さっき山登りで使い果たした体力はまだ回復していないのですが。
「まあでも、今からやるのはちょっとした物だから。気楽にできると思うよ」
そう言いながらレイスさんは、配信用のカメラを取り出して電源を入れた。
え、いきなり配信までするの……?
「大丈夫、緊張しなくて良いよ! 今からやるのは、視聴者への自己紹介と、魔法の適正検査。イブキ、自分の魔法の適性が何だか分かってないでしょ」
魔法の適正……、確かに、ちゃんと調べた事は無い。高校の授業で調べた事もあったらしいが、その前に不登校になってしまったので……。
「基本だから分かると思うけど、攻撃魔法は大まかに九個の属性に分類されてるの。人によっては派生した魔法を扱う事もあるけど、大体の人はこの九つのうちのどれかを使ってる。今からイブキには九属性の超初歩魔法を使ってもらって、その威力で適正属性を見分けるわ」
レイスさんは大まかな説明を終えると、すぐに配信を開始してしまった。
「ちょ⁉ レイスさん、僕まだ心の準備が……!」
「大丈夫だから! 落ち着いて、ゆっくりで良いから自己紹介して!」
カメラがこっちを向いているのはすごく緊張したが、僕は落ち着くために深呼吸をしようとした。
『あれ、さっきの助けられてた子じゃん』
『何でまた配信に出てるんだ?』
『もしかして二代目弟子⁉』
しようとした時、空気と一緒に何か言葉が入って来た。口調的に配信のコメントみたいだが、脳に直接響くような感覚だった。
「あ、言い忘れてたけど、配信のコメントはわざわざ確認しなくても伝達魔法で直接脳内に伝わってくるから、心配はいらないよ~」
レイスさんはそう言うが、僕としては視聴者の反応がリアルタイムで飛んでくる方が緊張してしまう。でも僕は伝達魔法の解除方法なんて知らないので、受け入れるしかなかった。
改めて僕は深呼吸をして、覚悟を決めて口を開く。
「―――初めまして! 僕、神威イブキです! レイスさんの弟子になりました! よろしくお願いします!」
……またやっちゃった。緊張しすぎて物凄く早口になってしまった。多分早すぎて聞き取れなかったよね? あー……、第一印象最悪だろうな。
『早い早いw』
『でもやっぱり可愛いなw 見てて面白いw』
『レイスさん、今度はこのほっそいのを鍛えるのかー。こりゃ見物だな!』
『【10000】新弟子入門祝だ! イブキ君、キツいだろうけど頑張れよ!』
「良かったじゃんイブキ、反応良好だよ」
コメントを聞いて、僕は唖然としてしまう。レイスさんは僕に向かってピースサインをしてくれていた。
あぁ……、やっぱりこの人達優しい! 良い人の元には良いファンが集まるんだなぁ……!
「彼が私の新しい弟子。苗字で分かった人もいるかもだけど、Sランク冒険者の一人で、勇者の血を引いている神威ナオトさんの息子だよ。皆、優しくしてあげてね」
『え⁉ あのナオトさんの息子なの⁉』
『神威家ってやっぱり……、勇者の末裔の一族だよね⁉』
『超すごいヤツじゃん、イブキ!』
レイスさんはしれっと、僕が勇者の末裔だという事をばらしてしまった。視聴者さんもすごく期待している様子だ。
期待してくれている所ごめんなさい、僕めちゃくちゃ弱いんです……。
「まあでも、彼はまだ弱いから。だから私がイブキをSランクまで育てる! それが今回の修行シリーズの最終目標!」
そして最後に、レイスさんの爆弾発言。
「え……、僕をSランク冒険者に⁉」
「うん。だって、勇者を継承するんでしょ? それなら、なるしかないでしょSランク!」
僕は改めて、勇者を継承することの責任を思い知らされた。
確かにそういえば、これまでの勇者継承者は全員Sランクだったと聞いている。市民や冒険者を安心させるためにも、勇者はSランク程の力がないといけないのだろう。
「というわけで、まずは最初の修行! イブキの適正属性を見極めよー!」
高らかに宣言したレイスさんは、いくつかの藁人形の的を用意した。そして、僕に説明を始める。
「さっき言った通り、イブキには今から九属性の魔法をあの的目掛けて放ってもらう。魔法の使い方は私が教えるから、言われた通りにやってみて!」
レイスさんは早速、僕の右腕を掴んで、的の方向に伸ばした。
「集中。体の中の魔力を感じ取って。具体的には丹田のあたり。魔力を知覚できたら、その属性のイメージを頭の中で反復する。まずは炎だから、火とかをイメージしてみて」
僕は言われた通りに、丹田に力を入れてみる。不思議なことに、体の内側に何か強大なエネルギーが脈動する感覚を覚えた。これが魔力なのだろう。学校の授業で魔法を習った時は、ここまで繊細に知覚しなかったので、少し新鮮だ。
次は炎のイメージ。辺り一帯を焼き尽くす業火を頭の中に思い浮かべる。そして気が付いたら、伸ばした手の先に炎の魔力が現れていた。
「そしたら、それを的目掛けて放つ! ファイアボール!」
「はい! ファイアボールっ!」
僕が力を込めて叫ぶと、炎の魔力は球の形となり、的へと飛んでいった。
だが、炎の球はどんどん失速していって、的に着弾した時には一粒の火の粉になってしまっていた。
『炎は駄目だったか……』
『そういえば兄弟子は炎だったよな』
『まあそう落ち込まずに! 次行ってみようぜ!』
レイスさんと視聴者に言われるまま、僕は次々と魔法を放った。
水、風、雷、木、氷、岩……。試してみたが、どれも的を傷つける事さえ叶わなかった。
「あと二つ……、光と闇だね」
僕は集中して、頭の中で光のイメージを反復した。
光と言えば父さん。あの人も光の魔法を使っていた。光り輝く戦士の姿を思い浮かべる。
目を開けると、手の先には煌々と輝く光の魔力があった。さっきまでよりも反応が強い気がする。
「よしイブキ、行け!」
「はい! ライトボール!」
僕が放った光の球は、さっきまでとは比べ物にならない速さで進んでいった。そして、傷つける事さえ叶わなかった藁人形を貫通してしまった。
『おぉ……!』
『イブキは光か……、お似合いだ!』
『ひとまずおめでとう!』
「イブキは光属性ね……! 成程なぁ……」
そう言ったレイスさんの表情は、若干の悲しみも混じっているような気がした。
「レイスさん……? どうしたんですか?」
「いやぁ……、やっぱり師匠として、私と同じ闇属性を望んでいたところも少しあってね……。イブキ、闇魔法もやるだけやってみてくれない?」
『レイスさん、こういう所可愛いw』
『こういう所見るために配信見てるんだ!』
『尊い……! 凄く尊い……!』
少し悲しがるレイスさんは、いつもと違って可愛げがあった。やっぱり、コメントの人達もそう思うよね?
まあとりあえず、言われてしまったからにはやるしかない。僕はまた集中して、闇のイメージを膨らませる。
そして気が付いたら、深い黒色をした闇の魔力が現れていた。
「ダークボール!」
放たれた闇の球はさっきと同じように勢いよく飛んでいき、藁人形を貫いた。驚くべき事に、その威力はさっきの光の球と並んでいた。
『え……、マジで?』
『適正二つ持ちってコト⁉』
『イブキ普通に凄くね?』
「こりゃ驚いた……。適正属性が二つある人はまれにいると聞いたことがあったけど、まさかイブキがそれだったとは……!」
レイスさんは僕の魔法を見て、とても驚いているようだった。勿論、僕自身もすごく驚いている。まさか適正属性が二つもあるなんて……。
「それも驚きだけど……、私はイブキが同じ属性使ってくれて嬉しいよー! やったー!」
「そっち⁉」
僕はレイスさんの喜ぶポイントに驚いたが、喜んでる姿が最高に可愛かったので文句はなかった。
僕の適性が分かったところで、レイスさんは配信を終了した。終わった瞬間、疲れが一気に襲ってきて僕はその場に寝転がった。
「イブキ、お疲れ様。この後は屋敷の案内をしてから、ゆっくり休んで—――」
「レイスさーーーん!!! 帰ってたんですかー⁉」
完全に脱力した時、何者かの声が屋敷の方から高速で迫ってくるのを感じた。
そのあまりの勢いに、僕は萎縮してしまった。
僕は潜在的な本能で、ヤバそうな気配を感じ取っていた。
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