第5話 愉快な同居人、登場!

 この広大な山の中で大声を響かせながらこちらに走って来た人は、赤い髪をした青年だった。そして、よく見たらこの人の事も僕は知っていた。


「あ! 貴方、レイスさんの弟子のレオさん⁉」


「ん? そうだけど……、もしかして君視聴者さん?」


 レイスさんの最初の弟子、つまり僕の兄弟子に当たる人になるのか。レオさんの事は配信で見ていたから、ある程度は知っている。


「あ、二人は初対面か。それじゃあ紹介するね。イブキ、知ってるかもしれないけど、彼は不知火しらぬいレオ。イブキにとっては兄弟子になる人で、Aランク冒険者だよ。レオ、この子は神威イブキ。弟弟子だから優しくしてあげてね」


「おっす! よろしくな、イブキ!」


 レオさんは早速、屈託のない笑顔で握手を求めてきた。


「はい、よろしくお願いします!」


 彼の底抜けた明るさのせいだろうか。初対面の人だというのに、あまり緊張せずに話すことができた。


 でも、今までの配信で十分に見せられてきた。だから僕は知っている。レオさんの本当の姿を……。


「そうだレオ、さっきイブキが来るってメール送ったけど、部屋の準備ってできてる?」


「……あれ、そんなメール来てましたっけ? ……あ、来てる! しかも既読着いてる! やべぇ! 完全に忘れてた! 二人ともごめん!」


 そう、この人とんでもなく馬鹿なのだ。レイスさん曰く三歩歩くと五秒前の事を忘れるくらいの馬鹿らしい。

 動画の中でのキャラ付けだと思ってたけど、本当だったんだ……。


「はぁ……、こんな事なら最初からセツカさんに頼んでおけば良かった……。まあ悔やんでも仕方ないか。私が屋敷の案内をしておくから、レオはセツカさんと一緒にイブキの部屋を整えてきて」


「了解っす、レイスさん!」


 レオさんはレイスさんの指示を受けると、忠犬のように走って屋敷へと向かって行った。あんなに走ったらまた忘れないかな、と少し心配になる。


「とりあえず、部屋の用意ができるまで屋敷を案内するね。面白い物が沢山あるから、楽しんでくれると嬉しいな」


 レオさんが爆走した跡をたどって、僕達も屋敷の中へと入る。高級感漂う玄関では、一人の女性がお辞儀をして出迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました、イブキさん。私、レイスさんの手伝いをしているセツカです。この屋敷に住まわれているレイスさん、レオさん、そしてイブキさんの身の回りのサポートもさせていただきますので、よろしくお願いします」


 白い長髪の三十歳くらいの女性、セツカさんは礼儀正しく挨拶してくれた。僕もお辞儀して挨拶する。


「急になってごめんね。レオが用意してなかったから、二人でイブキの部屋を用意しておいて。私はその間に屋敷を案内しておくから」


「了解です。レオさん、来てください。作業しますよ」


「オッケーです! 今度こそ忘れないぞ!」


 セツカさんがレオさんを連れてどこかへ向かったのを確認すると、レイスさんは屋敷の案内を始めてくれた。


「ここは食堂。基本的に食事はここでするよ。料理は当番を交代で回してるから、イブキもよろしくね」


 まず最初に訪れたのは食堂。アンティーク調の机と四人分の椅子が設置されていて、なんと大きめのテレビまで置かれていた。どちらかというと少し裕福な家庭のダイニングのような感じなのだろうか。


「こっちはお風呂。どう、この広さ。すごいでしょ?」


 風呂場はシンプルだが十分な広さがあり、いるだけで心が落ち着くような場所だった。しかも、窓から山の景色も眺めることができた。自然を感じられる最高の眺めだ。


 しかもこれが男女別に二つあるという。レオさんと二人で入ったとしても、勿体なさすぎるくらいの広さと豪華さだ。


「ここがリビングルーム。私の好きな装飾とかも付けてみたんだ!」


 シンプルな机や椅子、ソファが設置されていて、居心地の良さそうな場所だ。テレビも置いてあり、レイスさん達と話すには丁度良い場所に思えた。


 そして部屋のあちこちにはお化けやコウモリ、ドクロの人形など、レイスさんの趣味と思わしき物が飾られていた。ホラーチックな物が多かったが、レイスさんの手作り人形は可愛いの要素の方が勝っていた。


「そしてここが私達の部屋! 個室になってるから、好きに使ってくれて大丈夫だよ!」


 どうやら僕とレイスさん、レオさん、セツカさんの部屋は全て隣同士になっているようで、間取りもほぼ同じなようだった。


 流石にレイスさんの部屋を見せてもらう事はできなかったけど、同じ場所に住んでいれば、もしかしたら入れる日が来るかもしれない。推しの部屋とか、入れて嬉しくない人はいないからね。


「じゃじゃん! 私のゲーム配信用の実況スペースと、超巨大スクリーン!」


「おぉ! すごい大画面! ここでゲームしたら楽しそう!」


 レイスさんはダンジョン配信以外にゲームの動画や配信などもしていたが、ここでやってたのか。目の前に鎮座する圧巻の大きさのスクリーンに、ゲームが大好きな僕は大興奮していた。


 ……というか、レイスさんと同じ場所に住むってことは、レイスさんとゲームすることもできるかもしれないって事だよね? 最高すぎる。


「そして最後のここ! 私の趣味を詰め込みまくった部屋! どうぞ入って入って!」


 レイスさんはこれまでで一番興奮した様子で最後の部屋の扉を開けた。

 その部屋には、沢山の骸骨の模型、やけにリアルなコウモリの剥製、本物かと疑いたくなるゴーストの模型。狂気のホラーがそこには広がっていた。


 そのあまりにおぞましい光景に、僕は反射的に扉を閉じていた。


「……やっぱり合わなかった感じ?」


「……すいませんレイスさんこれは流石に無理です」


 僕が震えながらそう言うと、レイスさんは少し悲し気な表情を見せた。相変わらず、どこかミステリアスな人だ。まあそこが良いんだけど。


 そうこうしているうちに、僕の部屋の準備が完了したようだった。早速見に行くと、僕はその凄さに見惚れてしまった。

 この身を優しく包み込んでくれそうなふかふかのベッドに、窓から見える山の景色。テレビや空調も当然のように完備されていて、完璧といっても差し支えないような部屋だった。


「どう、凄いでしょ。この屋敷」


「はい……! 最高の屋敷ですね!」


 僕は心の底からそう思っていた。こんな凄い場所に住めるなんて、まるで夢のようだ……。


「これだけ凄い場所に暮らせるんだから、修行なんて苦じゃないよね?」


 あっ……。

 あまりに屋敷が凄すぎて、完全に修業の事を忘れていた。僕はここに住み込みで修業するんだ。

 でも確かに、ここまで素敵な屋敷ならば、耐えられるかもしれない……。


「まあ、決めた事ですからね。修行頑張ります!」


「よく言った! 偉いぞ弟よ!」


「イブキさんはレオさんの弟弟子であって弟ではないですよ」


「よーし! 今日はイブキのウェルカムパーティーするよ! 美味しい物食べまくろう!」


 その日は四人で最高に美味しい晩飯を食べ、豪華な露天風呂を満喫し、ふかふかのベッドで深い眠りについた。正直、これまでの人生で最高の一日になったと思う。


 ……その分、翌日の地獄との落差が凄かったのだけれど。翌日、僕は思い知ることになる。レイスさんの修行の過酷さを……。

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