第18話 暗躍する者
「それじゃあ行ってくるから、配信頑張ってねー!」
午前九時、レイスさんがSランク冒険者の集会に出発した。
Sランク冒険者の集会……、一体何を話すのだろうか。レイスさんの口ぶりからしてかなり緊急の物らしいけど。でも、日本の柱と言っても過言ではないSランク冒険者たちが一堂に集うのだから、それだけ大事な事を話すのだろう。父さんもかつてはそこに参加していたと考えると、改めて父さんの凄さを思い知らされる。
レイスさんが屋敷を出て三十分後、僕達も屋敷を出発してダンジョンに向かった。
今回攻略するのは、新宿にあるAランクダンジョン。ここはAランクダンジョンの中でもかなりの難易度を誇るらしい。レオさんの実力がどれくらいだかは知らないが、普段の様子を見ている限りだと本当に生きて帰れるか不安でしかない。
でも、問題は僕が思っていたよりもさらに深刻だった。
「ちょっとレオさん、早く電車乗らないと配信の時間に間に合いませんよ」
「……なあイブキ、どの電車乗れば良いんだっけ?」
レオさんは路線図とにらめっこして、頭から蒸気を出していた。多分、情報が複雑すぎて脳のキャパをオーバーして壊れたのだろう。
「あー駄目だレオさん、完全にぶっ壊れちゃってる。ほらレオさん、行きますよ! 新宿行きの電車はこっちです」
僕は棒立ちのまま動かなくなってしまったレオさんは引っ張りながら電車に乗り込んだ。周囲からの視線がすごく恥ずかしく、早く起きてほしかったので、僕はレオさんを少し強めに揺さぶった。
「……はっ! ここはどこだ⁉」
「電車の中ですよ。レオさんが壊れちゃったので連れてきました」
「イブキぃ……、ありがとな!」
レオさんはそんなに嬉しかったのか、目覚めていきなり僕に飛びついてハグしてきた。結局、余計に視線を集める結果になってしまった。
「ちょっとレオさん! 電車の中ですよ! やめてください!」
「……確かにそうだな。いきなり飛びついてごめん!」
周囲の視線に耐えられなくなり、僕が少し強めに注意すると、レオさんはすぐに謝ってくれた。彼は馬鹿ではあるけれど、こういう所はすごく真面目なのでどうにも憎めなかった。
電車を降りた後も、レオさんは新宿駅で迷子になりかけたり、ダンジョンまでの道のりで迷子になりかけたりしたが、何とか目的地までたどり着くことができた。
「よし、時間五分前! 余裕で着けたな!」
「どうしてそんな堂々と言えるんですかね……?」
レイスさんは三十分くらいの時間の余裕ができるように出発時刻を設定してくれた。それなのに、余った時間はたったの五分である。
……いや、レイスさんの事だから、もしかして最初からレオさんがこうなることを見越してこの時間設定をしたのか?
隣で豪快に笑うレオさんを見ながら、僕はそれもあり得るなと思った。
「それじゃレオさん、配信始めましょ」
「そうだな! イブキ、カメラを!」
僕はカメラの電源をオンにして、配信を開始した。
「どーも皆さんこんにちは! 今回の配信はレイスさんに代わって、このレオと!」
「イブキがお送りします!」
『おー、まさかの兄弟弟子コンビ!』
『まさかこのコンビで配信する日がこんなに早く来るとは……!』
『今日は二人だけの配信かー。頑張れよ!』
『レイスさんがいなくてもちゃんとできる所見せてやれ!』
レオさんは僕が配信に参加するようになってからもたまに配信に出ていたようで、視聴者からの認知度は相変わらず高かった。というか、この強烈なおバカキャラが非常にウケているようだった。
実際、僕も視聴者として見ていた時は面白いと思ってた。でも、見るだけと実際に相手するのとは全然違うと思い知らされた。
「今日は元々レイスさんがイブキにダンジョンを見学させる予定だったんだけど……、急遽予定が入ったから、代わりに俺がイブキにダンジョンを攻略する様を見せることになったんだぜ! 俺の勇姿を見て飛び立つんだ、イブキ!」
「それって本当に勇姿なんですかねー?」
『信頼ゼロで草w』
『全く頼りにされてねぇ!』
『レオ、ドンマイ!』
『イブキにさえ舐められてるw』
実際、普段の様子からレオさんが華麗にダンジョンを攻略する姿が全く想像できなかった。一応過去の配信でその強さは証明されているのだけれど、その時配信に出ていたレオさんと、今目の前にいるレオさんの姿がどうにも一致しない。
「あれ……? 俺もしかして馬鹿にされてる……? まあいいか! よし、早速ダンジョン攻略に行くぞ!」
レオさんは自分が馬鹿にされている事に若干勘づいた様子だったが、そんなこと全く意に介さずにダンジョンへと進んでいった。
馬鹿にされていてもそれをスルー出来るその精神だけは、とても尊敬できた。僕にもそんな強い心があれば、いじめられても不登校にならずに済んだのかな……?
いや、これはもう過去の事だ。この前の一件で、ヘイルの呪縛も消え去った。もう気にする必要は無いのだ。
「レオさん、やるならカッコいい所見せてくださいよね!」
「おうよ! 任せときな!」
『よっしゃ頑張れ!』
『レオの魔法久々に見れるのワクワクするなぁ』
『レオとイブキの絡み面白い!』
『俺達にも華麗なダンジョン配信見せてくれ!』
僕はレオさんに発破をかけながら、ダンジョンの中へと入っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
イブキと赤髪の男―――レオがダンジョンの中に入っていくのを見て、俺は作戦の第一段階が成功したことを確信しガッツポーズをしていた。
三日前、人気配信者であるレイスを味方につけたイブキにやりこめられた俺は、二人に復讐するためにあらゆる策を講じた。そして一日前、レイスの公式マイッターにて配信の予告があったのを見て、俺の作戦は一気に動き出した。
今回は俺の親父がイーニーカンパニーの社長という、ギルドに対しても融通が利く立場だったことが幸いした。親父に頼み込んで、レイスが攻略する予定のダンジョンの情報をギルドから取ってきてもらった。
さらに、親父に上手い事言ってもらって、そのダンジョンにありとあらゆるトラップを追加してもらう事にも成功した。
Aランクダンジョンは非常に危険度が高い。トラップに引っかかって形勢が乱れれば、Sランク冒険者だろうと魔物に殺されると予想していた。
だが、実際にダンジョンに現れたのはレイスではなく赤髪の男だった。
見た感じ、そのレオという男はかなりの馬鹿であるようだ。
レイスに仕返しができないのは残念だが、イブキを仕留めるという一点においては、レイスが同伴者であるよりもやりやすくなったと確信した。あの馬鹿は間違いなく、レイスより弱い。
さて、後はアイツらがトラップに引っかかって魔物に殺されるのを待つだけだな。
俺は近場のカフェに入って、コーヒーを啜りながら配信を見ることにした。
さあイブキ、俺を馬鹿にしてくれた罰だ。みっともなく魔物に殺される様を全世界に晒しやがれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます