未来の勇者、兄弟子と共闘する
第17話 やや不本意な代案
僕が初めてダンジョンを攻略したあの日から三日が経った。先生に安静にしていろと言われた期間が終わり、僕の体は本調子に戻っていた。
今日は僕が朝食を作る当番だったので、早めに起きて食堂へと向かうことにした。痛む所が無い快調な体に戻ったのが嬉しく、軽快な足取りで歩いていく。部屋に入ると、既にセツカさんが朝食を作ろうと準備している所だった。
「あ、セツカさん! おはよーございます!」
「イブキさん、その様子だと怪我は治ったみたいですね。良かったです。まだ病み上がりでしょうし、今日の朝食は私が作りますよ」
そう言いながらセツカさんは、せかせかと働いていた。昨日もセツカさんが朝食の当番だったし、その上セツカさんは他の家事もやってくれている。これ以上働いていたら本当に倒れてしまいそうだったので、僕は黙って見ていられなかった。
「大丈夫ですよ。朝食くらい作れます。それに、今日から修行も再開するみたいなので。いつまでもグータラしてはいられないですよ!」
「もう今日から再開するんですか? 大変ですね……、あの人も中々スパルタだ。……でも、それならお願いしちゃっても良いですかね?」
「はい! 任せてください!」
僕はセツカさんが作ろうとしていた物を聞いて、それを作ることにした。先程セツカさんが材料を出していたので、そのままそれを使う事にする。
セツカさんは食器を並べるために食堂に残っていた。
……そういえば、セツカさんは住み込みのお手伝いさんと言っていたが、レイスさんとはどんな関係なんだろう。もしかしたら、彼女ならレイスさんの秘密を知っているかもしれない。
丁度、今この部屋には僕達二人しかいなかった。こんな機会はそうそうない。僕は思い切って聞いてみることにした。
「セツカさん、聞きたいことがあって。どうしてセツカさんはこの屋敷で働いているんですか? レイスさんとはどんな関係なんですか?」
僕が質問すると、セツカさんは優し気な笑みを浮かべた。その様子は、何か昔の事を思い出しているかのようだった。
「……この屋敷は、元々レイスさんの両親の物だったんです。私は、レイスさんの両親がまだ存命だった頃からここで働いていました。レイスさんがまだ小さかった頃、彼女は私にとって妹みたいな存在でした。レイスさんの両親が亡くなった後も、私はレイスさんにここで働かせてもらってるんです。なので、結構長い付き合いなんですよ?」
「そうだったんですか……。それじゃあ、レイスさんの秘密って何か知ってたりしませんか? 三日前にダンジョンに行ってから、何だか不安そうな表情をしていたので……、どうも気になっちゃって」
レイスさんと長い付き合いなら、秘密についても知っているかもしれないと思ったので、僕は聞いてみることにした。
それにしても、レイスさんの両親が亡くなっていたなんて。ここが元々霊森家の家だったなら、机や椅子、寝室が四つずつあったのも納得だ。
「秘密……ですか。すいません、私からはノーコメントでお願いします」
やはり、セツカさんが秘密について口を割ることは無かった。でも逆に、これで良かったのかもしれない。レイスさんの知らない所で秘密を教えてもらうのは、やはり彼女に失礼だ。やっぱりこの秘密は、僕がちゃんと強くなってから、レイスさんに直接教えてもらうべきだ。
「そうですか……。すいません、僕の方こそ変な質問しちゃって。あ、もうすぐ出来そうですよ」
「あ、本当ですか? 食器用意しておきますね!」
僕が作ったのは、焼いたパンの上にレタスとトマト、チーズに目玉焼きを乗せたものだった。ここに来て二か月経って、ようやく僕もレイスさんやセツカさんが作るような美味しそうなご飯が作れるようになってきたと思う。
セツカさんが素早く食器を並べてくれたので、すぐに準備が整った。あとは二人が起きてくるのを待つだけだ。
そう思ったのだが、レイスさんもレオさんも中々降りてこない。結構な頻度で寝坊するレオさんはともかく、レイスさんはもうとっくに起きている時間のはずなのに……。
「なんだか今日は皆遅いですね」
「まあレオさんはいつもの寝坊でしょうけど……、レイスさんが遅いと少し心配になってきますね。私、ちょっと様子見てきますね」
セツカさんがレイスさんの部屋の様子を見に行こうとした、その時だった。
「イブキ! 大変な事になった!」
レイスさんが慌てた様子で食堂に入って来た。相当慌てていたのか、パジャマのままで髪も乱れていた。
「レイスさん⁉ どうしたんですか⁉ あとその恰好……」
「あっ……。それはまあ良いとして! とにかく緊急事態!」
自分がパジャマのままだという事に気付いてレイスさんは僅かに恥じらいを見せたが、それを強引に押しのけて話し出した。正直言って、この姿のレイスさんも可愛いと思った。多分言ったら怒られるけど。
「イブキ、今日から修行再開するって言ったじゃん。流石にいきなり実戦はキツいだろうから、今日は私がダンジョンを攻略する所を見学してもらおうと思ってて、配信の告知もしちゃったんだけど……、急にSランク冒険者の緊急招集がかかっちゃって」
今日の修行の内容は、僕も今初めて聞いた。病み上がり初日からいきなり実戦にせず見学にしてくれる辺り、鬼になりきれないレイスさんの優しさがにじみ出ていると思った。だが、見学はレイスさんがいなければ成り立たない。それに、配信の予告までしてしまったようで、正に緊急事態となっていた。
「それは……、凄く大変な事じゃないですか⁉ どうするんですか⁉」
「そうなんだよね……。実は、不本意ではあるんだけど、代案が一つだけあって。本当に不本意なんだけど……」
レイスさんは「不本意」の部分をやや強調して言った。そこまで言われると、どうしても不安になってしまう。
「そ……その代案っていうのは……?」
「……イブキには今日、私の代わりにレオのダンジョン攻略に同行してもらう。そして、配信も二人でしてもらおうと思ってる」
「おっはー! 俺起床!」
レイスさんがそう言った瞬間、扉を派手に開けてレオさんが起きてきた。
レオさんと二人で配信……?
彼とはこの二か月でそれなりに仲良くなれたとは思っているが、果たしてこのとんでもないバ—――個性が強烈な人と配信などできるのだろうか……?
「レオ、かくかくしかじかなんだけど、今日イブキと一緒に配信してもらって良い?」
「あ、全然良いっすよ! イブキの事は俺に任せてください!」
当のレオさんはレイスさんに聞かれるなり、あっさり承諾してしまった。
「イブキ、やってくれるよね?」
既にレイスさんは配信の告知をしてしまっている。急に配信がなくなったら、視聴者をガッカリさせてしまうだろう。それなら、僕とレオさんでも代わりに配信したほうが良いのか……?
「うーん……、やや不安が残りますけど、配信します! やりましょう、レオさん!」
「よし来た! イブキと配信できるのか……、テンション上がって来た! 走ってくる!」
「ちょっとレオさん! ご飯できてますよ!」
セツカさんの静止を振りほどいて、レオさんは興奮に身を任せて走り出してしまった。
……本当にあの人と二人で大丈夫なんだろうか?
やや不安を残したまま、僕とレオさんは配信をすることになった。
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